三人組よりふたり組
これは放課後に寄ったファミレスでの話だ。
「あんたらさー、仲悪いよね?」
そう口を開いたのは、隣に座っていた親友の西宮リオだった。
「そ、そんなことねーよ。な? 早乙女さん?」
「う、うん」
「そう? なんか他人行儀だし、まずは自己紹介からしたら? はい!」
相変わらず無茶苦茶な性格だなぁ……。
でも、わたしはリオのそういうところが少し羨ましく感じるときがある。
「え、えーと……早乙女シオリです」
「やるんだな……。榎本ジュンヤです……」
「はい! じゃああとはふたりで仲良くやっちゃってー! あたしはちょっと用があるから」
「ったく、急におっさんみたいなノリになるなよな……」
「だね……」
こうしてリオがいなくなる。
でも、わたしたちはべつに仲が悪いわけではない。
三人だと気まずいだけだ。
「榎本くん、あの有名な作品見た?」
「あ、ごめん。オレ原作派だからさ……」
「そうなんだ……。でも、原作ならではの描写もいいよね」
「さすが早乙女さん、目のつけどころがいいな。そうなんだよな! 原作だとコンプラ無視でエグい表現を描けるけど、アニメ化だとそれが悪い方向に傾くことが多いもんな」
「わかる。コンプライアンスは意識すべきだけど、一番大事なのは、世界観をいかに壊さないようにできるかだよね」
「そうそう! エグさもその作品の良さだよなって……」
「ふふっ……」
「ど、どうかした?」
「いやー……わたしたちって、ふたりきりだとよく喋るなぁって」
「そりゃあ、友だちだからね。一応」
「あはは、そこは一応なんだね」
わたしが軽く笑うと、リオが戻ってくる。
「よっす! なんか話してた?」
「べ、べつに……なぁ?」
「う、うん……」
うーん、やっぱり三人だと上手く話せないなぁ……。
そんなふうに悩んでいると、
「かぁ――っ!」
と、リオが吼える。
「な、なんだよ?!」
「そうだよ! びっくりするなぁ、もう!」
「ま、いいや。あたしはスマホいじるから、話して」
「「えっ!?」」
なんという無茶振り。
サバサバしているというか、ガサツというか……
リオ、こういうところあるよなぁ……。
「さ、早乙女さん、あの……やっぱいいや」
「えっ? あ……うん」
なんだか気まずい。でも会話はできている。
気まずいなりに話してるだけだから、会話は弾まないけど。
……っていうかいまのは会話なのか!?
そう思うと、再びリオが席を立つ。
「ちょっとトイレ」
「またかよ!」
「リオ、スマホ忘れてるよ?!」
「ああ、ごめんごめん」
こうして、リオが再び退席する。
「リオ、大丈夫かな?」
「大丈夫だろ。あいつ、よくくっつけたがるからなぁ」
「え? なにそれ?」
「カップル製造機なんだと。昔はよく自称してた」
「へー」
ん? ということは……
「あ! 一応言っとくけど、違うからね!?」
「な、なにが? オレとしては、早乙女さんにまでおかしくなられると困るんだが」
「……ご、ごめん。早とちりした」
「なんの話かは知らんが、とりあえずあいつを待っていようぜ」
「うん」
「ところで……」
「はい、どーん!」
リオがわたしの隣に勢いよく座る。
「どーも、カップル製造機でーっす!」
「こいつ、やっぱ盗み聞きしてたか……!」
「いや、そんな親の仇みたいな感じに言わなくても……」
「はっはー! よいぞよいぞ! もっと盛り上げていこー!」
「おめーが勝手に盛り上がってるだけになってんぞ」
「リオ……! あんまりうるさくしたら、他のお客さんに迷惑だからさ……!」
「へいへい。ささ、話して話して」
「えっ、また!?」
無茶苦茶だなぁ……。
「あ、あの……今日もいい天気だね」
「……えーっと、そうだな!」
「おふたりさん、外は雨ですぜ」
「「あっ……」」
リオの一言で沈黙する。
そして、沈黙を破ったのもリオだった。
「あのさぁ、なんで三人になると静かなの?」
そんな核心に迫ることを言うなんて……
でも、ホントにどうしてだろう?
「わかんない、かな……」
「オレは……わかるかも。多分だけど、他人の存在感があるからか、ふたりのときとは空気が変わるんじゃねーかな。誰かがいるだけで空気がいびつになるというか……」
「ふっ……ジュンヤが真面目に語っててウケる」
「なんだと?」
「まあまあ、榎本くん落ち着いて……!」
「あ、ごめん」
あ、でも榎本くんの仮定は当たってるかも。
実際、榎本くんを意識して会話するときはふたりの空気だから自然と話せるし。
「それより、雨があがったみたい」
「そうだな。通り雨だったのか?」
「だね……」
「ぎこちなくてウケるわマジで」
「逆にお前はなんでぎこちなくないんだ?」
榎本くんは核心を突いた質問をする。
「あ、たしかに! どうして?」
「そりゃ、幼馴染と親友だからね」
「「な、なるほど……」」
なんとなくだが、わたしたちは納得してしまう。
そして、雨があがったので外に出ることになる。
「割り勘な」
「うん、わかった」
「……仕方ない、今回は払ってやるか」
「いや、毎回払えよ」
こんな感じで解散した。
「じゃ、リオと早乙女さん、また明日!」
「おう!」
「あ、うん」
こうして榎本くんと別れる。
「それで? ジュンヤはどうだった?」
「い、良い人そうだったよ?」
「『そう』?」
「あっ、訂正! ちゃんと良い人でした!」
「うん、訂正できてえらいえらい。これからも仲良くするように!」
「はいはい」
それにしても、くっつけたがる……か。
もしかしてリオは、わたしと榎本くんを……?
「いやいや! そんなことない……よね?」
「なになに? なんの話?」
「こっちの話だから……!」
「ほーん」
まさかね……。
そんなことを考えながら、わたしはリオと一緒に帰った。
……あ、そうか。
もしかしたらリオは、こういう『もしかして』を意識させてくっつけてるのかも。
「リオ」
「なに?」
建物の影に沈んだリオの表情が妙に引っかかったが、わたしは気付かないふりをする。
「なんでもない。それより、さっき榎本くんが言ってた作品なんだけどさ――」
「ふーん。ま、あたしはその作品の単行本なら全巻持ってるけどね」
「そうなんだ……」
……まあ、いいか。
べつに悪いことをしてるわけでもないし、人助けの延長だと思えばいいしね。
それにしてもリオは変わってるなぁ。
でも、そういうリオだからこそ、わたしは仲良くなれたのかも。
「でも、あんまり一人で抱え込まないでね?」
そう言うと、突然リオは語り始める。
「あたしはさ、三人組って一人余るでしょ? だから、ふたりをくっつけるのが好きなんだよねー。三人組よりふたり組って感じで」
「あぁ、リオってペアなものが好きだもんね」
だからカップル製造機か……。
「そうそう。だから、あたしは一人プラスふたりって感じでいいかなって……」
「いやいや、普通に三人組でよくない? わたしは誰も仲間はずれになんてしないから!」
「いや、あたしはいいんだよ。ペアが好きだから」
寂しそうに言うリオに、わたしは反論する。
「……なら四人組にするか、三人組でも、ふたり組を二組作ればいいんじゃないの?」
「ふふっ……そっか! ま、シオリがそこまで言うなら、しばらくは三人でもいいかな」
「うん、そうだよ!」
そう言ったリオは、いつもとは少し違う感じがした。
でも、そのあといつものように笑うリオを見て、わたしは少し安心する。
こうして今日も、何事もなく過ぎていく。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
今回は「友達の友達」の気まずさを意識して書いてみました。
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