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大成功

作者: マーク
掲載日:2026/03/10

ゴミ捨てにいったんだ。 


そしたらさ。


『ごみ袋残ってるんだけど』


って言われたんだ。


中身に何が入ってるのかわかんなくてさ。

一応置いといたんだよ。


って言ったら。


『ごみなんだから捨てといてよ』


って言われたんだよね。


なぜかさ。

それで、頑張るのをやめようと思った。


––––––––––––––––––––––––––––––––––––––––


『おーい』


『…なにぃ?』


『もうみんな移動したぞ』


『…なにがぁ?』


『教室。次家庭科』


『…やべっ』


授業終わった途端に眠気がなくなって、休み時間の後半に眠くなるの。


人体の欠陥だろ。


『急げ~』


『ちょ、ちょいまって』


急いで荷物を準備する。




『なんでこんな遠いわけ?』


『知らん。火事になったとき被害を少なくするためじゃね』


荷物をもって、廊下を走っていた。


微妙な感じの速度で。


寝起きだからか、体に力が入りにくい。

窓の光もなんというか、やけにつまらないように感じた。


『今日は予告通り、調理実習でーす』


部屋に入ると、もう説明が始まっていた。


『お、どうした。便所か?』


息を少し切らした、僕たちを見て言った。

ちょっと恥ずかしかった。


『先生。料理の前にそういうこと言わないでください』


誰かが言った。


『なんだ、お花摘みって言えばいいのか』


『配慮の問題です』


『心持ちぃ?』


なんか話してるうちに、そそくさと座った。


『んやぁ、どうでもいいや』


『お前ら、とりあえずエプロン着けろ』


遅れた僕たちを見ながら言った。


友達がエプロンを着ける。


袋のなかを探す…けど、見つからない。


『あ。忘れた?じゃあ、なしでいいや。私も普段エプロンなんてしねぇし』


どうでもよさそうだった。


『うーい、前見ろー。説明するぞー』


みんな前を見る。


偉くね。


『——以上。まぁ、ホワイトボードに全部書いてあるから、それ見ろ』


『じゃ、開始』


ぬるっと始まった。


なんか、適当に班ごと集まる。


こういうときだいたい、僕はなにもしない。


ただ見ている。


『まず?何すんの?』


『野菜を切る』


『切り方は?』


『…肉じゃがに入ってるっぽい形』


『なるほど、雰囲気ね。得意よ、そういうのは』


友達は、輪に入って。


僕だけ、疎外感。


自業自得だし、文句も出ないけど。


『あー。言い忘れてた。料理の出来は評価基準にないから、失敗しても気にすんなよー』


スマホを弄りながら言った。


いいなぁ。


『おい』


『……』


『おーい』


『…あぁ、何』


『玉ねぎ切って』


なんでわざわざ僕に?


と思ってみんなを見ると、全員玉ねぎにやられていた。


『弱』


そう言いながら、包丁を持った。


玉ねぎを切る。


『目がぁ!』


『涙止まんねぇよ…』


『ゴーグル持ってくりゃ良かった』


なんか喚いている。


ざくざく切っていく。


まな板から離れて、口で息する。


『切るぐらい。だれでもできる』


切り終わった。


『よくやった』


『英雄の帰還』


『…で。次は?』


僕が言った。


自分でも、何で言ったのか分からない。


『鍋に入れる…のか?』


『先調味料の準備か?』


確定してない情報を教えてくる。

なんだこいつら。


『いや、ホワイトボード見ろよ』


『うーん正論』


『えーっと?』


一人が、前にあるホワイトボードを見た。


『砂糖、醤油、みりん、を用意だそうです』


『分量は?』


『えっ。適当って書いてある』


『は?』


『んなわけなくね』


『見ろって』


『……?』


本当だ。適当って書いてある。


『先生!』


『なんだ?』


『適当ってなんですか!』


元気なやつが、元気よく聞いた。


『はい。説明聞いてなかったお前らが悪い~』


『え』


『ほら、別の班見てみろ』


『あれ、誰も困ってない』


『すごいな、お前の班全員聞き逃したの?』


先生が笑いながら言った。


『まぁいいや。説明すんのめんどいし。適当に入れろ』


『雑』


『雰囲気だ雰囲気。肉じゃがなんてそんなもん』


そう言って、またスマホを見始めた。


『終わった』


『完全に終わった』


ホワイトボードを見る。


砂糖、醤油、みりん。


以上。

本当にそれしか書いてない。


『まじで?』


思わず口に出ていた。


『な。やばいよな』


なんか共感された。


『…よし、ここは、雰囲気の伝道師が参る』


そういって、器に、適当にいれ始めた。


なんか、意外といい感じそうか?


『よし。一旦これでいこう』


『少なくない?』


『少なかったら足せばいいじゃん。多かったら修正利かないだろ』


『えっ賢くね』


会話を聞いていた。そういうことね。


『で、次は——』




『出来た!』


『見た目いいじゃん』


『旨そうじゃね?』


確かに、美味しそう。


『ちょっと味見』


箸でつかんで、そいつがジャガイモを食べた。


『…味しない。いや、味はする。めっっっちゃジャガイモ』


『少ないやん』


『どーしよ』


『ここからでも入れる保険ってありますか』


『どーしたー?』


先生だ。

そろそろみんな終わり始めた頃だから、見回っている。


『味が薄くて』


『ちょっと失礼』


僕たちの肉じゃがを食べた。


『うん。薄いね』


『だろ?』


『…じゃー、こう』


計らずに、調味料を鍋に入れた。


『これでもうちょい煮込みな。混ぜろよ』


それだけ言って、別の班のところへ行った。


『え、かっこいい』


『惚れちゃう』


『やめとけ』


鍋を混ぜる。


『明らかにいい匂いだぞ』


そのまま、少しの間混ぜていた。


『そろそろいいだろ』


『食べまーす』


さっきと同じやつが食べた。


『うんまい』


『よし。盛り付け』


他の班よりも遅れていたから、急いで盛り付けた。


それで、席に座る。


『はーい。みんな終わったみたいなのでご飯タイムでーす』


『手を合わせてー』


言われた通りにする。


『いただきます』


『いただきます!』


みんな食べ始めた。


僕はなんとなく、先生を見た。


『卵焼き…卵焼きねぇ』


なんかぶつぶつ呟いてる。


『おい。食えよ』


そう言われたので、食べた。


『うん。肉じゃが』


『大成功だろ』


『これは成功だね』


そんで、食べ終わった。


『食べ終わったら各々片付けしといてね』


ということで。


片付けを精力的に行った。


これなら失敗もしないし。


『はーい。皆座ってー』


片付けもさっさと終わって、授業も終わりの時間。


『みんな上手く作れてたね。事故も起きなかったし、百点』


基準が低い気がするけど。


『もしよかったらね。家でもやってみね』


いやぁ。やらないかなぁ。


『じゃ、終わりまーす』


終わりの挨拶が終わる。


みんなが教室に帰りはじめて、混む。


だから、少し待っていた。


その間先生を見ていた。


ただ、なんとなく。


『甘いやつってどうやって旨く作るんだぁ?』


やっぱり、変なことを呟いていた。










放課後。


『なんか、家、帰りたくないな…』


そう思った。


だから教室に残って、みんなが部活やってるところを、窓越しにただ見ていた。


––––––––––––––––––––––––––––––––––––––––


『んぉ?』


卵焼きを作った帰り。

教室に、一人残ってるやつがいた。


…寝てね?


『なーんか、シンパシー感じるね』


起こすか。

もう暗くなってきてるし。


『おーい』


体を揺らしながら、声をかける。


『…なにぃ?』


少し体の向きを変えて、そう言った。


かわいいなこいつ。


『もう暗くなるぞ、帰れ』


空が淡く色づいている。


『…せんせぇ?』


『…ん?』


何か気付いたのか、椅子からすごい勢いで立ち上がった。


『すっすいません。すぐ帰ります!』


『ストップ』


『はい』


『座って』


『…?はい』


『寝起きですぐ動こうとしちゃだめだ。転ぶぞ』


『でも、早く帰んないと…』


『ん?帰りたいの?なら、一緒に校門まで行こう』


『…いや、ここにいたら迷惑かなって』


『いやぁ?くそみたいな事務作業より百倍楽しいね』


そこら辺の椅子を引いて、座った。


『で。どうしたの』


『どうしたって…とくにありませんけど』


『…職員室帰るの嫌だから、何でもいいから捻り出せ』


『えぇ……』


『…じゃあ、話しますけど』


『うんうん!』


『…嬉しそうにしないで下さい』


『…いつの日か、ゴミ捨てに行ったんです』


話の邪魔をしないように、黙った。

ちゃんと、目を見て。


『そしたらお母さんに「ごみ袋残ってるんだけど」て言われて』


『中に何が入ってるか分からなかったから、一応置いといたんだよ、って』


『うん』


『そしたら、「ごみなんだから捨てといてよ」って言われて』


『なんか……』


彼が口ごもった。

……うーん。


私が椅子から立ち上がる。


それで、窓の側まで歩く。


意味ありげに外を見た。


空は、相変わらずのグラデーションだった。


『それで?どう思ったの。それとも、ちょっとした違和感みたいなもの?』


『…頑張りたくないなぁって』


『そっか』


そのまま、少し過ごした。

返答を考える時間が欲しかったのかもしれない。

適当なこと、言っちゃ駄目だ。


『そうだなぁ。今、今日の君を思い出してるんだけどさ』


窓の外を見ながら。

決して、目は見ずに。


『え。見てたんですか?スマホ弄ってたのに?』


『…そこはほら…あー、うーん、言い訳が思い付かないな』


『まぁ、それは置いといてね?』


『玉ねぎ切ってたね』


『はい。雑魚しかいなかったので』


顔は見えないけど、真顔なのが伝わってきた。


『ふふっ。まぁ、そうね』


『それは君の中で、頑張りに入るかな』


『分かりません。仕方なくやっただけです』


『そうか。でも、それでも君は、他の人よりも上手く出来た』


『はい』


『別に、頑張らずとも出来た』


彼は言ってないけど。

私が言いきる。


『みんな失敗したんだから、僕が失敗してもきっと責められない、そんな気持ちでやったのかな』


『…そうですね』


『さて。これから何がわかるでしょうか』


『……僕の性格の悪さとか?』


『えぇ?そうなるの?…性格悪いっていうのはもっとなんというか、陰口とか、そういうのじゃないの?』


『そうですか?』


『…わかっかんね』


『…あの、それで、何がわかるんですか』


『君の、君自身への評価は、当てにならないってこと』


『どういうことですか』


『だって、他のやつらが出来ないこと、出来たじゃん。なんか、玉ねぎの切り方知ってたみたいだし』


『…不安で、前日調べたんです』


『偉いじゃん。あのバカどもよりも』


『…何が言いたいんですか?』


『つまりさ。成功を自分で決めるんだよ』


『…どういうことですか?』


『君のお母さんなんかに、君の頑張る意味を持たせちゃ駄目だ。だって、君がどれほど頑張って、どれぐらい考えて行動したか何て、考えてくれない』


『…詭弁です。だって、それでも、失敗は怖い』


自分を責めるみたいに言った。


『…それは、君の責任じゃない。失敗を許さない周りのやつらが悪いんだよ』


『…こっち来て』


隣を、とんとんと叩いた。


彼が椅子から立ち上がる音がして、やがて足音。


『…この世界はね、不条理なんだよ。自分の成功を疑わないやつが、成功する。もちろん、そればっかりじゃないけどね。でもね、それって、そいつの力じゃないんだ』


『え?』


『君が言った、ゴミ捨てもそうでね。失敗って、許されないんだ。テストも、登校することも、なんでもそう。みんなが出来ることが出来ない。その人が思っている基準を下回る。するとね』


『頑張った失敗って言うのは、価値がなくなるんだ』


『みんな、頑張れば最低限、これぐらいは出来るだろ。みたいな基準を持っているからさ。だからさ、成功なんてのは、それに上手く噛み合っただけ』


『……』


『君のごみ捨ての場合はさ、持っている知識に差があった。お母さんは知っていて、君は知らなかった。だけどお母さんは、頑張れば出来るの最低ラインを越えられなかった結果を見て、評価してしまったんだ』


『………』


『でもさ』


私は窓枠に軽く寄りかかった。


『そんなの、こっちにはどうしようもないじゃんね』


『…はい』


外を指さす。


校庭ではまだ部活をしている生徒がいる。


『あれみてさ、どう思う』


『…頑張ってます』


『うん、私もそう思う。運動とか嫌いだし』


『ここでの常識は、部活を遅くまでやってるやつは頑張ってる。こうなるね』


『はい』


『……常識からずれてしまった基準を持ってしまった子は、どんどんおかしくなっていく』


『私たちが今作った基準も、誰かにとっては不都合なものなんだ』


『つまりさ、他人の声なんて、当てにならないんだ』


『…さっき、自分も当てにならないって言いませんでしたっけ』


『そう。でもね。都合よく基準を作れるのは、自分だけなんだよ』


『………』


『きっとね。みんなから見れば、私は結構変人なんだ。でも、それでいいんだよ』


『死なない程度に、君も変人になろうぜ』


『…あはっ。あははっ』


『おい、笑うな~。真面目な話だぞ~』


『なんだか、どうでもよくなりました』


『ありがとうございます。先生』


表情は分からないけど、少しだけ、声に感情が乗った気がする。


『僕、帰りますね』


『おう。気を付けろよ』


『はい!』


……昔の私を、見てるみたいだな。


そのまま、空を見た。



『うーん。大成功。百点』



最初の視点は、誰のものでしょーか。


この先生好きすぎて、いつの間にかこんな話になってたぜ。

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