#2
店内は平日の夕方で程よく混んでいた。学生、サラリーマン、パソコンを開いている人。いつもの光景。
「キャラメルフラペチーノのトールで」
注文を済ませて、番号札を持って待っていると、後ろから声がかけられた。
「カズヤ?」
振り返ると、見覚えのある顔があった。一瞬、誰か分からなかったけど、すぐに思い出した。
「タクミ先輩!?」
中学時代のバスケ部の先輩だった。俺が中学二年の時の三年生。キャプテンで、プレーも上手くて、みんなから慕われていた。俺も憧れていた。高校は別々になって、もう二年近く会っていなかった。
「マジで久しぶり。高校生活どう?」
「あ、はい。まあまあです」
タクミ先輩は相変わらず、爽やかな笑顔だった。背もまた少し伸びた気がする。
「俺も注文するから、よかったら一緒に座らない?」
「あ、はい!」
先輩の注文を待って、二人で窓際の席に座った。外はもう薄暗くなり始めていて、街灯が点き始めていた。
「先輩、大学生活どうですか?」
「まあ、楽しくやってるよ。あ、そういえばカズヤには言ってなかったっけ?今、友達と会社やってるんだ」
「え!?会社ですか?」
「うん。起業っていうほど大げさじゃないけど、アプリ開発の会社立ち上げた」
すげえ。やっぱりタクミ先輩はかっこいい。大学一年で起業って、そんなことできる人、周りにいない。
「どんなアプリなんですか?」
「大学生向けのコミュニケーションアプリ。まだリリースしたばかりで、ユーザーも少ないけどね。でも、少しずつ使ってくれる人が増えてきてる」
先輩はスマホで画面を見せてくれた。シンプルで使いやすそうなデザインだった。
「これ、先輩が作ったんですか?」
「いや、デザインとプログラミングは友達がやってる。俺は企画とマーケティング担当。三人でやってるんだ」
先輩は嬉しそうに話していた。自分のやりたいことをやっている人の顔だった。
「でもさ」先輩はコーヒーを一口飲んでから、俺の顔をじっと見た。「カズヤ、何かあった?」
「え?」
「顔に出てるよ。何か嫌なことあったろ」
バレてたか。タクミ先輩は昔から、後輩の変化に敏感だった。部活で悩んでる時も、すぐに気づいて声をかけてくれた。
「まあ...ちょっと友達と揉めて」
「友達と?どんなこと?」
俺は今日のことを話した。文化祭の企画のこと、自分の案を出したこと、でもユウタたちが反対したこと。俺が一番準備してるのに、みんな文句ばっかり言うこと。
「で、ユウタが『お前は人の意見を聞かない』とか言い出して。意味分かんないですよ。俺、ちゃんと聞いてるし。でも、おかしい意見には、おかしいって言わなきゃダメじゃないですか」
話しているうちに、また腹が立ってきた。
「それに、俺が企画書も作って、材料のリストも作って、一番やってるのに。みんな口だけで、実際には何もしてない。なのに文句だけは一人前」
タクミ先輩は黙って聞いていた。うんうんと頷きながら、時々コーヒーを飲んでいた。
「先輩もそう思いますよね?やっぱり、動いてる人間の意見が優先されるべきだし、効率的に進めるためには、誰かがリーダーシップ取らなきゃいけない」
俺は先輩に同意してもらえると思っていた。部活でも、タクミ先輩はリーダーシップを発揮していたし、チームをまとめていた。きっと分かってくれる。
でも、先輩はゆっくりと首を横に振った。
「カズヤ、俺の話、聞いてくれるか?」




