#1
「だから、それは違うって言ってんだろ!」
俺の声が教室に響いた。放課後、文化祭実行委員の集まりで、また揉めていた。
「カズヤ、落ち着けよ...」
ユウタが困ったような顔で言う。いつもそうだ。こいつはいつも「落ち着け」「みんなで話し合おう」そればっかり。
「落ち着いてるよ。でも、お前らが俺の話を全然聞かないから、声が大きくなるんだろ」
文化祭の出し物、クラスでお化け屋敷をやることは決まっている。問題は、その内容だ。俺は本格的なホラー路線を提案した。暗闇、突然の驚かし、血のりを使った演出。絶対に盛り上がる。他のクラスと差別化もできる。完璧なプランだ。
でも、ユウタや他の何人かは「もっとコメディ要素を入れよう」とか「怖すぎると来てくれる人が減る」とか言い出した。意味が分からない。お化け屋敷なんだから怖くなきゃ意味ないだろ。
「カズヤの案も分かるんだけどさ」ユウタが続ける。「でも、小さい子も来るかもしれないし、お年寄りも来るかもしれない。もうちょっとバランスを...」
「バランス?お化け屋敷にバランスなんていらねえよ。それに、俺は先週から企画書作って、必要な材料のリストも全部まとめたんだぞ。お前らは何かしたのか?」
教室の空気が重くなった。確かに、具体的な準備を進めていたのは俺だけだった。みんな口では色々言うけど、実際に動いているのは俺だ。
「カズヤ...それは...」
「それはなんだよ。結局、俺が一番やる気あるんだから、俺の案でいいだろ。文句あるなら、お前が企画書作れよ」
ユウタの表情が変わった。いつも優しい目をしているユウタが、初めて怒ったような顔をした。
「なあ、カズヤ。お前、いつもそうだよな」
「は?」
「自分が正しいって思ったら、他の人の意見、全然聞かないよな。俺らが何か言っても、すぐ否定する」
「否定してねえよ。お前らの意見がおかしいから、正してるだけだ」
「それが否定だって、気づいてないのか?」
ユウタの声には、諦めに似た何かが混じっていた。
「お前が企画書作ってくれたのは嬉しいよ。でもさ、それってお前一人でやりたいからじゃないのか?俺らに相談もなしに、勝手に進めて、『これでいいだろ』って押し付けてくる。それ、一緒にやってるって言えるのか?」
「は?押し付けてねえし。お前らが何もしないから、俺がやってるだけだろ」
「違う」ユウタははっきりと言った。「お前が全部決めちゃうから、俺らが何も言えないんだよ。何か言っても、どうせカズヤが否定するから」
周りのクラスメイトも、微妙な表情で黙っている。誰も俺の味方をしない。
「じゃあもういいわ。勝手にしろよ」
俺は企画書をバンと机に叩きつけて、教室を出た。後ろから誰かが「カズヤ!」と呼んだ気がしたけど、振り返らなかった。
廊下を歩きながら、胸の奥がムカムカした。なんで誰も分かってくれないんだ。俺は間違ったことを言ってない。ちゃんと考えて、準備もして、一生懸命やってるのに。
ユウタの言葉が頭に引っかかっていた。「お前が全部決めちゃうから、俺らが何も言えない」。そんなことあるか。むしろ、みんなが無責任だから、俺が仕切らなきゃいけないんだろ。
校門を出て、駅に向かった。まっすぐ家に帰る気にはなれなくて、駅前のカフェに入ることにした。




