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「それじゃあ帰ろうか」
気付けばウツロは居ない。周りも普通の神社だった。
私達は無言で階段を降りていく。来る時はあんなに長かった階段も、今は短いただの階段で、倒木も雨の降った跡も何も無くなっていた。
「……とりあえず帰ったら休もうか」
「少し気まずそうに笑う東雲」
「ですね、少し疲れました」
みな一様に疲労困憊だが、何処か満足した顔で歩いていく。
「そういえば、どうして東雲は詩乃に成り代わってたの? そもそも詩乃ってなんなの?」
マスクを付け直した億利はふとした疑問を東雲にぶつけた。
「ん? あぁ」
「おぉそれは私も気になりますね。詩乃という方はこの街に1人も居ませんし、やはり空想の存在なのですか?」
「私のお兄ちゃんだよ」
「え、でも苗字が」
「良くある話だよ。肉親が居なくなって苗字が変わるなんて今時そんなに珍しい事じゃ無いでしょ」
「……それもそうね。それより億利さん。また無口になってるようだけれども」
鶴見の視線の先には何とかジェスチャーで話せなくなったと伝えようとしている億利が居た。
「あ、だからいきなり話さなくなったんだ」
億利はどうしたものかと首を捻る。
「スケッチブックでも買っとこうか」
億利はそれに首を縦に振った。
「にしても……取り戻して異能について分かったのに、まだまだ課題は山積みですね」
「私達の記憶に、症状の解消……後はあの警官をどう説き伏せるか」
鶴見が苦い顔で思案に耽る所を東雲は手を叩く事で現実に引き戻す。
「まぁまぁ! 今はこの勝利を喜ぼうよ! 戻ったらみんなで祝杯でもあげよ。今後のことについて考えるのはその先にしようよ」
「先生はその前に自己紹介を私たち含めた皆にして下さいね」
先程まで死線を彷徨う戦いを繰り広げた後とは思えないほど他愛もない会話をしていると、クリニックに着いた。
「まだ私達の治療を待ってる人は山程居るし、糸夜くんや、海谷さんみたいに今の患者さんもまだまだ長い目で見ないといけない方が沢山だ。時間はいくらあっても足りないけど、今日はもうクローズだ。今日の勝利を喜こび、宴を目一杯楽しもう!」
東雲は笑顔で病棟に続く白い扉を開けた。




