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「これで、分かったでしょ? これが私の正体、詩乃響也なんて居ないの、私はみんなを偽物の人格で騙してたんだよ、こんなの裏切りでしょ? 分かったらもう、喋らないで、これ以上無駄に傷つかないで――」
「ふっざけないで、それが裏切り? だったら東雲は無実だよ」
億利は一瞬目を丸くしたが、すぐに顔を顰めて叫んだ。
「無実って、私は騙してたん――」
震えた声。東雲の瞳には微かに涙が浮かんでいた。
「騙せてないよ」
息を落ち着かせ、優しく微笑む億利。
「……そんな訳、私の演技は完璧だったはず」
「喫茶店に詩乃しか持ってない眼鏡つけて来といて何言ってるの、何なら初めて会った時から、東雲みたいだなって思ってたんだからね?」
「でも、病ちゃんが気付いてても、ほかのみんなが――」
「私達も知ってたわよ」
後ろから、少女の声が返事を返した。
やっとこさ階段を登り終えた泥だらけの3人がそこには立って居た。
「鶴見さん! 良かった。無事で」
「ごめんね、心配かけちゃって……億利さんの訴え、私達までしっかり届いてたよ」
「待って、鶴見ちゃん……知ってたって、どうして?」
「忘れたんですか? 私の異能を」
「他の人が異能を使ったらその使用した場所が分かる。だったよね? だから、わざわざ遠くで変身してたんだけど」
「それ、嘘です」
「……うぇ?」
「実際は、異能を使ってる間はずっと探知出来ます。ついでに相手の名前も分かりますよ、東雲鹿奈さん」
「……ん? ああ! 東雲鹿奈さん! 確か、東雲家に養子で入られた子ですよね」
鶴見が名前を言った途端、狐地はそう声を上げた。
「……え、何で知ってるの?」
驚きというより、不気味さが勝ったのか、東雲は若干引いていた。
「私、ここに来る前、市役所で働いてまして、その時にこの町の人の名前と住所は全部覚えたんですよ」
「あんた……そんな気味悪い事してたの?」
「そりゃ、この町の為に働くのですからこの町の人については知っとかないとですから」
当然といった風に言う狐地に東雲だけじゃなく、億利や鶴見も若干引いていた。
「詩乃という名前が偽名というのは分かっていましたが、女性だったのは驚きでしたね」
「……そっか、で、でも蟻塚くんは、そんな事無いよね?」
「あ、あの……僕も……知ってたよ……」
「嘘でしょ? 異能も経歴も、一切被ってないよね!?」
「す、すみません。その、鶴見ちゃんから聞いて……」
「えぇ……」
「僕達も東雲に隠し事をしてた訳だけど、軽蔑した?」
「そんな事でする訳――」
「それが、僕達全員の気持ちだよ」
「……っ!」
「さ、帰ろう?」
億利は優しく手を差し出した。
「でも、私は裏切って……」
「東雲は私が嘘ついてたからクリニックから抜けて遠くへ行ったらどうする?」
「そんなの――」
黙ってしまう東雲。
「ね、僕達みんな気持ちは一緒だよ。むしろ逃げて本殿に入る事の方がよっぽど裏切り行為だから」
「……ごめん。億利ちゃん。私……」
東雲は億利の手をパシッと掴んだ。
「もう、みんなを裏切らないよ」
「目標達成?」
「えぇ、さっさと帰りましょうか」
「いや、駄目だよ」
「どうして? もう結構喋るのキツイ、んだけど」
「糸夜くんと、海谷さんが中に居るんだ」
「もしかして……」
「うん、助けたい。私のわがまま、付き合ってくれる?」
僕達に手を伸ばす詩乃。
「今更何言ってるのかしらね」
「お供致しますよ」
「ぼ、僕も!」
3人がその手に軽く触れ、東雲の横に立つ。
「――あーもう! 僕も手伝うから!」
詩乃は触れた億利の手をガシッと掴み引っ張った。
東雲が光に包まれると、服装が探偵服へと変わっていく。
服装だけが詩乃へ変わった東雲は賽銭箱の上に足を組むウツロを指差した。
「さぁ! 2人を返して貰おうか!」




