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「信じられない、私達の記憶が消えているの?」
僕は躊躇う気持ちを振り払い絶対に知らせるなと言われていた記憶喪失の事について話した。
「それも……家族についての記憶ですか。信じたくは無いですが……」
全員の顔が曇る。それもそうだ、自身の大切な家族を失っているのに、それに気付いていないなんて、恐ろしい。そして、それは僕も同じだ。
「僕だって信じられないですよ。確かに父は亡くなってますが、僕は覚えてます」
「……検証するしか無いだろう」
「検証?」
「億利くんの家に行って他に亡くなっている家族が居るかどうか聞くんです。それが1番手っ取り早いです」
「ちょっと待ちなさいよ。仮に家族の記憶が無いとして、それとウツロを知らないのと何の関係があるのよ」
「仮に相手が記憶を操れるなら、当然自身と会った記憶も消すでしょう。何はともあれ、まずは億利さんの家に行きましょう」
「……そんなの駄目よ! 余りにも億利さんの負担が大きいでしょ!」
「やります」
「駄目。落ち着いて」
心配そうに上目遣いで鶴見が僕の手を掴んだ。
「……大丈夫です。ありがとうございます。でも、僕も知りたいんです。それに、それしか無いんですよね」
「そうだね。僕らは家族で生きてる人が居ないか、遠くにいる人しか居ないから。億利さん以外となると、九州の蟻塚くんの両親か、猫座くんのお家くらいかな」
「だったら、僕がやるしか無いじゃ無いですか」
そうして僕達は徒歩十数分の所にある僕の家へと向かった。
「おかえり……って後ろの方達は?」
「えっと……」
「初めまして、突然の訪問になってしまいすみません。同僚の狐地と申します。後ろの2人は蟻塚と鶴見です」
狐地が不貞腐れて後ろに行ってしまった鶴見の代わりに話す。
「あら、そうだったんですね。今日は何のご用で?」
「少し質問がございまして……その、億利さんのご家族は、お母様と病さん。そして、亡くなったお父様の3人でお間違い無いですか?」
はぁはぁと荒い呼吸音が聞こえて、それが僕の口から鳴っていることに僕はすぐに気付けなかった。胸を触ると心臓が強く脈打ってるのが分かった。
「いえ、病の上にもう1人兄が居ました」
「居ましたって……」
「はい、子供の頃に、事故でした」
兄……僕に兄が?
「うっ」
兄という言葉に呼応するように脳を貫くような痛みが何度も響き、その度に何故忘れていたのかも分からない、大切な記憶が濁流の様に頭を流れた。
頭をメスでグチャグチャにかき混ぜられた様な痛み。思わず僕は膝を付いてしゃがんだ。
「ちょっと、大丈夫!?」
「まさか本当に……」
「あの! 病さんの部屋はどちらに?」
「え、あ、2階です……」
「ありがとうございます!」
「あの、娘は、大丈夫ですか?」
「立ちくらみしちゃったんだと思います。お部屋に連れてっちゃいますね」
鶴見はふらつく億利の肩を支えて2階に上がっていった。
「大丈夫? 億利さん! 億利さん――」
鶴見の声が遠ざかっていく、僕は深い意識の底に沈んでいった。




