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「残ったのはボロボロの部屋と……」
部屋の隅っこでうずくまった僕を見て柳田はため息をついた。
「……とりあえず、君今日は帰りな」
「あの、詩乃さん……は」
「これ、あいつの落とした眼鏡。今日のことクリニックの奴らにも伝えといてくれるか?」
僕は片方のレンズが割れたメガネを渡されるとさっさとパトカーに乗せられてクリニックで降ろされた。
驚く暇も怒りぎ沸く暇もなく僕はクリニックに放り出されてしまった。
「だ、大丈夫ですか? 億利さん。ってその眼鏡……」
僕が降ろされたのに気づいた鶴見に眼鏡を渡す。
「あの、これ……あの、詩乃さんが……攫われました!」
「! ……着いてきてください」
鶴見は眼鏡をかけて階段を駆け足で上がっていく。
「億利さんは皆さんに説明を、通訳は私がしますので」
「通訳って……?」
それに続いて僕も階段を登った。
「私は皆を集めてきます。億利さんはここで待ってて下さい」
「あの……」
鶴見は扉を閉めて行ってしまった。
「それじゃあ、改めて何が起きたのか教えて下さい」
蟻塚と狐地を連れて戻った鶴見は安楽椅子に座った。
「えっと、あの……」
僕は思わず、喋るのを自重した。
「なに?」
「僕が話した所で」
「……あーもう! この際教えちゃって良いわよね!?」
ソファに座る2人に突っかかる鶴見。僕には何のことかさっぱりだ
「良いんじゃ無いですか? 非常事態ですし」
「う、うん。僕も賛成、かな」
「億利さん。貴女は、いえ貴女も私達と同じ異能力者なのよ」
私も……異能力者?
「知ってるかもしれないけど貴女の能力は言葉の代わりに人には聞こえない高さの超音波を飛ばす。言うなればエコーロケーションね」
「……じゃあ、詩乃さんと話せてたのは」
「この眼鏡のおかげよ。狐地さんに先生が頼んだの」
「一点物なんですから大切にして下さいよ?」
いつの間にか注いだコーヒー片手に優雅なティータイムをしていた狐地が口を挟む。
「そういう理屈だったんですね」
「随分落ち着いているんだね」
僕は何も答えない。
「……まぁ今はそんな事どうでも良いのよ。ひとまずそういう訳だから貴女の言葉も分かるの、だから何が有ったのか教えてくれる?」
「……分かりました」
僕は海谷が捕まった事、糸夜くんが気絶した事。そして詩乃がウツロという存在に連れ去られてしまった事を伝えると、それをそのまま一言一句違わず鶴見が繰り返す。
「……ウツロですか、聞いた事無いですね」
「多分、私達に異能を渡した存在だと、思います」
「どうしてそう思うんだ?」
「ウツロは海谷さんや糸夜くんの事を私の加護を持つ人って言ったんです。多分加護ってこの異能の事なんじゃないかと」
「なるほど、だとしたら何故私達はそのウツロとやらを知らないんだ? 私達だって異能、ウツロのいう加護を貰っている筈だ」
「それは……」
僕は少し悩む、答えが出ない訳ではない。言って良いのかという悩みだ。
「億利さん、なにか隠してますよね。目が泳ぎすぎですよ」
ピシャリと当てられ、ビクッと体を硬直させた。
「! どうして」
「仕事柄、人の感情の機微には敏感でしてね」
「……実は」




