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「それじゃ、そろそろ本題にはいるぞ」
柳田に促され入った部屋は、SF映画に出てくるようなホログラムの画面が幾つも並んでいた。画面は牢の中や廊下を映しているらしく、中にはギチギチに拘束された人や、水で満たされた部屋なんかもあったが、ほとんどの部屋は空室だった。
「それじゃあ先の予定通り容疑者の顔を見て貰えるか?」
「うん」
ホログラムが並ぶ画面の前に座った柳田は牢の一室をホログラムに映し出した。
映像に映るのは中年の女性で、地面を見て項垂れて1ミリも動かない。
「顔は先に撮っといたぞ」
別の画面に女性の証明写真が映された。そこに映ってたのはまさしくあの時の女性だった。
「うん。間違いない、この人だよ」
「やっぱそうか」
特に驚いた様子はない。僕達への確認はいわば最終確認のようなものらしい。
「治療出来そうか?」
「それは……実際に会って話してみなければなんとも」
「……ったく、分かった。分かったよ、ただ扉越しだからな。触れられてお前まで爆発されちゃかなわん」
「ありがとう、彼女の部屋は? それと彼女の家族構成を」
「あぁ、全部あるぞ」
投げ渡された資料を受け取り開いた。
海谷鈴華、29歳、154㎝の62Kg、一流企業で働くキャリアウーマンで、旦那とは息子が産まれた時に離婚。5歳になる息子は風邪を拗らせ、死亡。
「原因はこの息子かな」
「だろうな」
「……やっぱり実際に話してみても良いかな?」
「あぁ? あの女の能力見ただろ? 俺はお前の頭が破裂してる姿は見たく無いぞ?」
「そこをなんとか頼むよ」
じっと柳田を見つめて言う。言い方は申し訳なさそうだが、退く気は一切ない。
「…………分かったよ」
観念したように渋々椅子から立ち上がった。
「拘束されてるから大丈夫だとは思うが、くれぐれもも刺激するなよ?」
牢屋の前で立ち止まって再三念を押す。
「うん。私も死にたくは無いからね」
「んじゃ……開けるぞ」
電子キーに数字を入力し鍵を扉に差し込むと扉が開いた。
簡素なベッドとトイレしかない部屋の真ん中に彼女は座っていた。
焦点の合わない視線がこちらに向けられた。
「こんにちは海谷さん。精神科医の詩乃です。少しお話し大丈夫ですか?」
「お医者さんですか……?」
「はい、そうですよ」
乱れた焦点が詩乃に定まった。
「おかしいんです。何か、大切な物がある筈なのに、心がぽっかり空いてしまってます」
海谷はぽつりぽつりと話す。
「私は、何を失ってしまったのでしょうか」
「んな、あんだけのことしといて」
怒る柳田を手で制し、詩乃は海谷に近づく。
「おい!」
「海谷さん。大丈夫です、私が共に着いていますから、共に思い出して、克服していきましょう」
「……ありがとうございます」
焦燥した海谷の顔にほんの少し笑みが生まれた。
「ですが、私はここから出ないといけません」
「どうしてですか?」
「どう、して? だって、家であの子が……あの子?」
焦点がだんだんと詩乃から外れ、どこを見て居るか分からなくなっていき、顎がガチガチと震え始めた。
それを確認すると詩乃はすぐに鞄から注射器を取り出し、海谷の首にすっと突き刺した。
「お、おい大丈夫か?」
「はい、少し眠って貰いました」
注射器を仕舞うと、詩乃は汗を拭って笑った。




