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「さっさと乗れよ」
来た時と同じパトカーに乗せられてクリニックに戻った。
「分かってると思うが、資料を見せてやったんだからこれで満足してもう関与するんじゃないぞ。もし何か必要な事がありゃこっちから呼ぶから、それまで黙って大人しくしてろよ?」
「勿論です」
僕達はパトカーを降りた。クリニックの前では鶴見が凄い形相で待っていた。
「詩乃先生! 何で電話に出ないんですか!」
パトカーが居なくなると同時に鶴見は詩乃にくってかかった。
「ご、ごめんね。タイミング無くって」
「全く、本当に心配したんですからね。億利さんも……大丈夫ね?」
僕は鶴見が安心するまで全身隈なく触診された。この数週間で随分と心を開いてくれたらしい。
「それで、相談なんだけど」
「……何ですか?」
鶴見は非常に不機嫌そうな顔で詩乃を睨み返した。
「いや、もし今回と同じ反応が異能で有ったら教えて欲しいんだけど、大丈夫かな?」
「…………分かりました。ただし!」
詩乃の顔の前に指をぴっと立てた。
「絶対に危ない事はしないで下さいね」
念を押すように突き出した指を戻し、鶴見は病棟に戻って行った。
「鶴見さんも異能を持っているんですか?」
鶴見が病棟に戻ったのを確認して僕は聞いた。
「鶴見ちゃんの異能は、異能が使われた時に何処で使われたかが分かるんだ。あの力のお陰で私達はすぐに患者さんの元へ向かえるんだ」
成程。あの時の電話は近くで異能が使われたからかかって来たのか。
「にしても、今回は少し危なかったね」
「でも、また有ったら行くんですよね? 散々忠告されてるのに」
「勿論。警察も法律も救ってくれない彼ら彼女らの為に私は医者をやってるからね」
勿論、妹を探すのも大事だけどね。と詩乃は思い出したかのように付け加えた。
「だから私は異能を持ってる人は等しく救いたいんだ」
「……それは素晴らしい心掛けですね」
僕達が病棟に入ると受付で糸夜と鳩羽が談笑していた。
「あっ詩乃先生。お帰りなさい」
僕達が降りて来たのに気づいた糸夜が手を振る。初めに比べたら随分と治療が進んでいるのだろう。薬を飲み始めた糸夜は誰にでも気さくで親切な好少年で、よく受付で鶴見と雑談に花を咲かせていた。
「糸夜くんすごく変わりましたね」
「うん。あれが糸夜くんの本来の性格何だろうね。まだ継続して薬は必要だけど、そろそろ次のフェーズに向かっても良さそうだね」
受付の糸夜の元へ向かう。
「糸夜くん。来週に一度帰宅してみようか」




