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とある喫茶店。紳士的なマスターが1人で経営する老舗で、昼休憩のOLや学校をサボってそうな女子高生なんかが楽しく駄弁っている。
そんな中僕は1人アイスティーをストローで吸っていた。
「お待たせ〜急に電話来ちゃってさ」
僕の前に座ったのは大学で出来た唯一の友人東雲 鹿奈。ベージュのブラウスに白いすらっとしたズボン。同じく白いハンドバッグを持ち円形の眼鏡を掛けていた。
「いや〜参ったよね、折角久しぶりに病と会えるって言うのにさ。あっ私コーヒー!」
美人で清楚な顔とは裏腹に良く言えばフランクに、悪く言えば粗雑に話しかけてきた。
「それで、最近はどうなの?」
店主からコーヒーを受け取りひと口付けると、僕の目をじっと見てきた。
「どうも何も普通だよ。鹿奈は就職? 眼鏡もかけて……随分と大人っぽくなったね」
大学の頃はもっとはっちゃけた服装だった筈だけど、会社勤めになって変わったみたいだ。
「あ、分かるぅ? まぁほとんど在宅だけどね」
うざいくらいのドヤ顔も、綺麗な顔ならプラスに働くらしい。
いや、全然普通にうざいな。
僕はドヤ顔を放つおでこにペチンとデコピンを打った。
「あいたっ」
「そんな顔するから……ってあれ、僕」
僕は思わず口元に手を当てた。
「ん? どうかした?」
「ううん。そう言えば眼鏡かけてるけど、在宅で眼悪くなったの?」
「んー? これはねイメチェンだよ、イメチェン。伊達メガネ」
マドラー用のスプーンを手で弄びながら東雲は眼鏡をカチャッと上に上げた。美人は眼鏡を掛けても似合うらしい。
「それより知ってる?」
鹿奈は辺りをキョロキョロとして僕の耳元に近付く。
「最近この町で不審死が相次いでるらしいよ」
「不審死?」
「そう! 詳しくは知らないんだけど、結構噂になってるよ?」
「そうなの?」
聞いたことも無かった。
「なんかね、ひとりでに爆発したみたいに死んでるんだって怖いよね、病も夜道とか細道は歩かないようにね」
「うん。気をつけるよ」
爆発した死体って……もしかして異能関係?
「てかお昼食べてないんだよね。マスター! ナポリタン2つ!」
「2つも食べるの?」
「違うよ! 病の分!」
「え、僕?」
「だってお昼食べてないでしょ?」
「まぁ食べてないけど」
「じゃあ良いじゃん! てかこれ見てよ」
鹿奈は無理矢理話をそこで切るとスマホを僕に見してきた。
「この服可愛くない? 欲しいんだよね」
スマホに映されたのは白いワンピースコーデだった。
「うん。似合いそう」
「でっしょー? 今度買いに行こっかなぁ」
そんな風に僕達が何でもない世間話に花を咲かせていると店主がナポリタンを2つ持って来た。
「どうぞナポリタンです」
ソーセージとピーマン、玉ねぎの乗った赤い麺は、無い筈の古い思い出が蘇りそうな懐かしさを感じさせた。
「うっわぁ! 昭和レトロって感じ! いただきまーす」
洋服のサイトを見ていたスマホで写真を撮ると早速麺を食べ始めた鹿奈。僕もマスクの下から麺を口に運ぶ。トマトの爽やかな酸味が香る麺が非常に美味しい。
「それじゃ私これから仕事だから! また話そうね!」
ナポリタンを食べ切った鹿奈はもう満足したのか残ったコーヒーを一気に飲み干すとさっさと行ってしまった。折角休みを取ってまで会いに来たというのに……。
「買い物でも行こうかな。あれ伝票……」
置いてあったはずの伝票が無い。
「お連れの方がもう済ませられてましたよ」
空の飲み物を片付けに来た店主が僕に囁いた。
忙しない割にそういうところは抜け目ないんだから。僕は足取り軽くウィンドウショッピングを楽しむことにした。




