表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ウツロに願いを  作者: 天空 浮世
Case.2 虚像偶像に惑わされ
14/48

14

「んじゃ、ワシらは帰るとするかの」


「そうだね〜」


 ひとしきり雑談を楽しんだ2人は最後まで騒がしく病室を出て行った。


「それじゃあ、私達も新しい患者さんの診察に行こうか」


「はい……えっ?」


「もしなにかありましたら、そこのナースコールで呼んでくださいね」


「はい、ありがとうございます」


 しずかになった病室を僕達も後にした。受付で鶴見と別れ僕達はビルの前に戻った。


「今日の患者さんは1人暮らしの男性らしいから。早速行こうか」


「新しい患者ですか? 糸夜くんはもう良いんですか?」


 僕はさっさと歩く詩乃の後ろをついて行く。今日も仕事は会話内容の書き留めだけらしく、渡されたのはノートとペンのみだ。


「糸夜くんは様子見かな。安定してきたしね。もう少しゆったりしてたい気持ちもあるけど、患者さんを診察しないとね。病気は待ってはくれないんだよ」


「あの、今回の患者さんも異能を持ってるんですよね?」


「もちろん。億利ちゃんも分かってきたね」


「ちゃん呼びで行くんですね」


「うん、因みに今回も初診察だから気を付けてね」


 気を引き締めた僕達は患者の住むマンションにやって来た。そこはセキュリティというセキュリティが一切なく、無関係の僕達でも簡単に入れる非常にオープンで杜撰な設計だった。


「えっと、105、105、あぁ、ここだ。うわ、なんだろこれ」


 詩乃は扉の前に置かれた段ボールを足で遠くに退かす。僕は好奇心半分に中を覗く。しかし中身はなんてことない。ただの放置されて干からびたさつまいもだった。


 ピンポーン


「出てきますかね? もし、糸夜くんみたいに暴れられたら……」


「その時は……その時だね」


 何と行き当たりばったりなのだろうと僕が呆れている間に扉がガチャリと音を鳴らしてゆっくりと開いた。


 思わず身構えたが、扉から拳が飛んでくるなんて事もなく、顔を覗かせたのは青と紫の綺麗なオッドアイを持つ中年男性だった。


 というかこの人。何処かで見た事ある気が? ……駄目だ思い出せない、後少しで出てきそうなんだけど。


「どちら様でしょうか」


「初めまして鳩羽(はとば) 蒼唯(あおい)さんですよね? 私詩乃響也と申します。少々お尋ねしたい事がありまして」


「はい……何のご用で?」


「最近なにか不思議なことはありませんでしたか?」


 突然のあやふやな質問に鳩羽は不審そうに眉をひそめた。


「不思議なこと……もしかして女神様の事ですか?」


「……えぇ、その女神様について話を聞きたくて」


「なんだ、そうだったんですね、どうぞどうぞ上がってください」


 不審な表情は一瞬で消え去り、ニコニコと笑顔で僕らを中へ招いた。


「これは?」


 詩乃は玄関に置かれた青い靴入れの上にある。青い置き時計の前に置かれたものを指差した。


「あぁ、それは女神様への供物です。いつも見守って頂いているお礼に」


 そこに有ったのは紙皿に置かれた野菜炒めだ。


「へぇ、素晴らしい心がけですね」


「そういえば、詩乃さんよくあの化物の横を通れましたね」


「化物ですか?」


「そうです。私が部屋を出るのを妨げるあの化け物です」


「……あぁ、苦戦致しましたがどうにかしましたよ」


 いつの間にそんな事してたのか、いや、この横顔は絶対嘘をついてる顔だ。横顔が余りにも胡散臭すぎる。この前鶴見の冷蔵庫に入れていたおやつを盗み食いした時にもこんな顔をしていた。適当吹くのも大概にして欲しい。


「本当ですか!?」


 そんな詩乃の嘘を信じた鳩羽は僕達を押し除けて玄関の外を覗く。


「本当だ。居ない。凄いです詩乃さん!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ