あなたの事が大好きでした
篤樹。まだ好きですか?
篤樹と出会ったのは高校生の頃。恋愛なんて汚らわしい物と捉えてた私なのに
「一目惚れした」なんて言ってくれたよね。
「なによそれ。顔?」なんて不貞腐れたフリしてごめんね。"素直に顔がタイプ"がほんとは1番嬉しかったりする女心を知っていたの?
もしもあなたにもう一度会えるなら、私は何を言えばいいのかな。話したい事なんてたくさんあるけど、その中で一つ選ぶのなら夢だった保育士さんになったよ。かな?
でもね。夢の保育士の現実は甘くないみたい。毎日疲れと持ち帰りの仕事で時々潰れそうになってしまうんだ、、
篤樹の声は親友に託してしまったの。ごめんね。
私は篤樹を裏切るから。
もうこれからはあなたに会いたいとは言わないから。
ーーーーー高校1年の春
まだまだ似合わない高校のセーラー服。その時の流行りはカーディガンだった。茶色のカーディガンかグレーのカーディガンが主流だ。
それなのに浅利篤樹はネイビー色を着てたね。皆と同じ物は持たない篤樹はなんだか目立って見えた。
「おいサチ。」
なんで篤樹は私の名前ばかり呼ぶの?
モテモテな篤樹が私の名前を呼ぶたびに女子達からの視線が怖かった。
私の名前は浜津サチ。癖毛がコンプレックスで毎日高温でアイロンを当てて無理やりストレートにする髪は痛んでいて、染めてもないのに茶色になっていた。
私の両親は小さい頃に離婚していて父親の顔はもう覚えてもいない。寂しい思いをしていないと言えば嘘になるけど、家は建設会社を営んでいるのでいつも祖父、祖母、母と妹で賑やかに暮らしていた。
「サチ。帰るぞ」
篤樹はすぐに私の名前を呼ぶ。
「もうやめてくれない?女の子達が見てるじゃない」
「サチは俺の彼女だろ?なんで堂々としない?」
いつもそうやって篤樹は強引に私の気持ちなんて無視して私を引っ張る。
「なんで私なの・・・?」
「顔がタイプだから。一目惚れした」
そんな事言われてニヤけない女なんているのかな?
「今日サチの家で課題やるから」
篤樹は平気でそんな事を言う。でもそんな強引な篤樹にいつも押し負ける気満々な私。
「今日は妹がいるからね」
「任せろ。ルミは俺の妹みたいなもんだからな」
何よそれ。妹のルミは軽度の自閉症をもっている。中学校にうまく馴染めず、苦労している。そんな妹を持ったばっかりにサチはルミのお世話ばかりしてきた人生だった。時々無性にルミが嫌いになる。でも妹が傷ついている姿は見ていられない程辛かった。だから私はいつも結局ルミに手を差し出す。
篤樹と出会ったばかりの時はルミを隠そうとした事もあった。でも強引な篤樹はルミとも仲良くなろうとするもんだから、そんな篤樹に結局惹かれてしまうサチだった。
「本当に篤樹がルミのお兄ちゃんだったらルミは苦労しないのかもね」
「サチ。愛してる」全然答えになってない篤樹の答えに結局流されてキスをしてしまう。
「ただいま〜」サチの家は1階が建設会社の事務所。2階がリビング。3階はサチとルミの部屋があった。
「サっちゃんおかえり〜」従業員さんがいつも家族のように接してくれた。
「あら今日は篤樹くんも一緒なのね〜♪」
「こんちは。お邪魔します」従業員さんにペコリと頭を下げると2人で事務所を抜けて階段を上がる。
母と祖父、祖母は取引先のところに行っていた。
静かなリビングに上がると階段からドドドドッと音がした。
「おかえりお姉ちゃん!!あ!あっちゃんもお帰り」ルミの声は大きい。
ルミは小学生の頃、同級生の男子にからかわれていた事から男の人が苦手。しかし、篤樹だけは特別だった。とても懐いていて、篤樹が家にくるとルミは篤樹にベッタリだ。
「私たち部屋で課題をやるから!ルミは部屋に来ないでよ」強い口調でいうと篤樹はすぐルミの肩を持つ。
「それじゃぁルミが可哀想だよ。まずはルミとのお喋りが先だよな?ルミ?」
「うんうんうん!まずみんなでお菓子を食べるのはどう?」中学2年のルミの知能はまだまだ小学生だ。そしてルミは自分の大好きなチョコレートは誰にもあげず、クッキーやグミを篤樹とサチに渡した。
「はいはい。」サチは言ったら聞かないルミの性格をよくわかっていた。
「じゃぁ時計を見て?4時半までよ?そうしたら課題を部屋でやるからね」サチはルミに視覚で見てわかるように説明する。ルミは頷いた。
そして篤樹はクッキーとグミを食べながらルミの相手をしてくれる。ルミは喋ってくれるだけで大喜びだ。
そして4時半になるときちんと約束を守ってくれて、篤樹とサチは部屋に入った。
「そんなにはやく2人きりになりたかった?」篤樹がからかってくる。サチは首をふるが、心はドキドキしてしまう。
「篤樹はずるいよ・・・」小さい声でサチが言うと篤樹も顔が真っ赤になる。
「サチのがずるい。可愛すぎる」篤樹は強引にキスをしてくる。満更でもない・・・喜ぶサチ。
2人は課題をする前にイチャイチャする。結局課題なんて出来ない時もあるけど今日はさすがにテスト前。2人は教科書を無理やり広げた。
篤樹はこう見えて頭がいい。努力家だ。
サチもまぁ悪くはないが、暗記する力が篤樹のが上だった。
2人で勉強すると言っても、篤樹は自分の勉強に没頭し始める。そんなところもサチは尊敬していた。
夏になると花火大会がやってくる。
人混みの中、今年は気合いを入れて、浴衣をきた。細身のサチには少し不恰好にも思えたが、祖母が一生懸命着付けてくれたのだ。
そんなサチを見て、篤樹は顔を赤らめる。
「かわいすぎる・・・」いつも篤樹はサチを褒めてくれる。
そうして大きな花火が目の前にあがる時、2人の好きな歌が流れた。流行りの歌が流れただけで2人は運命を感じ、喜びあった。
なんともロマンチックに花火はパッと開いて散っていく。2人は花火大会の帰り道、人混みを抜けると、夢について話をした。
「私、保育士さんになりたいの」
「サチならなれるよ」
「篤樹は?」
「俺はA大学に行きたい。その先は何もわからないなw」
「篤樹ならなんでも叶えられる気がする」
そんな会話をしながら帰り道歩いた。また来年も同じ場所で同じように花火を見る約束をして。
そして冬には旅行に行くことにした2人。
有名テーマパークへ夜行バスに乗り込んで行く2人。夜行バスではいちゃつき禁止。2人でした約束なのにどうしてもくっついてしまう2人。
テーマパークでは、アトラクション一つ乗るのも長い行列だった。でもそんな行列も苦に思うことは一つもなかった。2人でどうでもいい事ばかり喋って笑っているうちに順番がくる。
そしてアトラクションが終わると篤樹は強引にサチの手をひく。篤樹の思うがままにテーマパークを歩いてもサチは心地いいとさえ思うのだった。
そんな2人は美男美女と周りから言われて、高校では有名カップルになっていた。自分に自信がないサチはどこか篤樹のおまけのような気がして、どうしても周りからの視線が好きになれなかった。
そんなサチを堂々と「俺の彼女」と自慢する篤樹はとてもかっこよかった。
ーーーー高校3年の春
いつものように学校に来たのに、篤樹の姿が見当たらない。
"どうしたの?風邪?"連絡してもなかなか既読にならなかった。1時間後にようやくきた返事は
"お腹痛くなって、駅のトイレ占領してたw"
"すっごい心配したよ。大丈夫なの?"
"うん"
この頃からだった。そんな出来事が増えてきたのは。
2人でデートしている時も時々篤樹はトイレに走る。
そして中々出てこない。サチは最初は「なっがいトイレだな〜ww」なんて笑っていたけど、最近そんな事ばっかりだった。
「一度病院に行った方がいいんじゃない?」サチは心配になってきた。
「時々あるんだよ。大丈夫。」篤樹はいつも強がっていた。
そしていつもの学校の帰り道だった。
ーーーーー篤樹が倒れた
気が動転したサチはすぐに救急車を呼ぼうとした。そしたら篤樹は起き上がった。
「あれ?やばい。またお腹痛いわ。」
「救急車呼ぶ?」
「いいや。そこのタクシー乗って病院いくわ。サチは心配しなくていいから。かっこ悪いとこ見せたくない」
「何言ってるの。私もいくよ。」
「やめてよ。痛がれないじゃん。親呼ぶから」
そう言って篤樹はタクシーに乗って行った。
怖かった。
篤樹に連絡する。
「大丈夫??」
「さっきよりよくなってきたよ。動けそう。」
そして1時間後
「また痛くなってきた。やばい。俺死ぬのかな」
「やめてよ。もう病院なの?」
そしてまた1時間後
「病院で見てもらった。胃潰瘍だって。今から手術してくる。サチ。愛してる」
そんな連絡がきたサチは胃潰瘍について調べた。
そんな事をしていたらサチに知らない番号から連絡がきた。
「サチちゃん?会いに来て。はやく。もう長くはないの。」
「え?」
「篤樹の母よ」泣き喚きながら言う篤樹の母の声はうまく聞き取れない。病院の名前を聞き、急いでサチは向かった。サチは母親に説明し、車を出してもらった。でも気持ちのどこかで
「そんなはずないよね?篤樹がこんな若くして死ぬわけないよ。胃潰瘍は死ぬ病気じゃないって・・・何を言っているの?」
そして病院につくとICUに案内された。そこには、泣いている大勢の家族の真ん中にチューブが繋がれている篤樹がいた。
「どうして・・・・?意味がわかんないよ・・・・」
篤樹はチューブが繋がれながらも涙が一つ流れていた。
「ねえ。篤樹のお母さん。どういうことよ。」怒るサチを見たのは初めてだ。でも篤樹の母は立つことさえできないくらい憔悴していた。
すると次々にいろんな人が篤樹の元にかけつけた。篤樹の友人達。先生。色々な人が現れては泣いていた。
「何がおこっているのだろう」それしか言葉はでないまま、篤樹は天国に行ってしまった。
そのままお通夜とお葬式が行われて篤樹は骨になっていた。
「ありがとね・・・・」立つ事さえできないくらい悲しんでいる篤樹の母に言われた。周りの人から「あれが彼女のサチちゃんか・・・かわいそうに・・・」
そんな風に言われている気がした。
篤樹は医療ミスで亡くなったのだ。重度の胃潰瘍からの医療ミス。そんなことがおきるはずがないと思うが、現実起きていた。でも病院側と争う元気さえない篤樹の母は暗闇からこの先もずっと抜け出せる事ない人生を送っていた。
篤樹を墓にはやれないと篤樹の母はずっと骨を持ち続けた。墓は作られない為、お参りがしたい時には篤樹の家に行った。
そして最初の3年は命日になると篤樹の家へ行って、手を合わせた。篤樹の母は暗い顔でサチを見た。
「もういいのよ。サチちゃんの人生を歩みなさい」
篤樹に囚われないで・・・そう聞こえた。
サチは消える事ない傷を追いながら前向きに生きた。
彼氏なんて篤樹以外必要ない。でも3年も経てば、男子から告白される事もあった。でもいつでも篤樹を思い出し、恋に落ちることはなかった。
今でも記念日がくるとサチは泣いていた。
「辛いよ。篤樹。」
篤樹のせいにして泣きたい時はいつも篤樹に頼った。
そんなサチも社会人になっていた。
成人式には篤樹の写真を持った篤樹の親友、剛がいた。剛は今でも手を合わせに篤樹の家へ行っているようだ。
"剛くんは友達だから・・・だから篤樹のお母さんは写真を持たせてくれたの?1番近くにいた私はなんなんだろう・・・"
篤樹に手を合わせさせてもらえないサチは自分の部屋に篤樹の仏壇のような物を作った。思い出の写真を飾り、ろうそくを買った。そんなサチの行動にびっくりしていたのはサチの母親だ。
「もう忘れなさい。」大人達の言葉はどんなに優しく言い回されてもそんな風に聞こえる。唯一ルミだけが一緒に手作りの篤樹の仏壇に手を合わせてくれるのだ。
結局心の優しいルミに癒されるサチ。2人の絆は強くなる。
ーーーーさらに5年後
保育士になったサチにも出会いがあった。
消防士の譲だ。譲はサチの過去に一緒に心を痛めてくれた。
「俺は篤樹さんを超えることは出来ないかもしれない。2番目でいい。サチを支えていきたい。」そんな告白の仕方に感動し、サチは譲と付き合うことになった。譲はどこまでも優しく、サチの部屋に自分で作った篤樹の仏壇に一緒に手を合わせてくれる人だった。
そして譲はサチにプロポーズした。
「篤樹さんを越えさせてください」
サチは篤樹と別れることにした。
篤樹はまだ私の事が好きなのかもしれない。
だけど私は篤樹を裏切るね。
そして篤樹の最後の声が入ったガラケーを持って、剛の所へ行った。
「これ。捨てられなくて。篤樹の声が入っているの」
「捨てる必要はなくないか?」剛に怒られた気がした。
「私、結婚して子供を産みたいの。だからこれを持っている事ができないの。剛くんに渡してもいいかな?」サチは自分が卑怯な事をしているのがわかった。剛だって一生捨てられない物を渡され、困るに決まってる。でも剛は「ありがとう。」受け取ってくれた。
篤樹へ
あなたの声が聞きたいです。ちゃんと会ってお別れがしたかったです。時々夢に出てきてくれてありがとう。いつも夢の終わりは泣いていた。自分でも篤樹がもういないと理解し受け入れていた証だと思います。
もしまた人生をやり直したとしても私は篤樹の彼女になりたいです。また同じように残酷に引き離されたとしても篤樹の彼女になれた事、私はとても幸せでした。
篤樹。怒らないでくれますか?
どうかもう強引に私を引っ張らず、見守ってくれると嬉しいです。
あなたの事が大好きでした。