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9‐11 フランという男

 まずフランの身の上から語ろうとノーラは言った。


「あの男がまだ魔法院にいた頃は、真面目らしく聖人に関する研究を行っていたわ。院が持つ聖域の位置と異界人の出現周期を照らし合わせて傾向を探し出し、それなりの成果を上げていた」


「約二十年前の話になるが、光陰の二属が地水火風の四属を凌駕する魔力であると証明したのも彼らしいな?」


 ケイが紙束の山から二属上位の証明がまとめられた論文を取り上げる。ノーラは常識とばかりに頷いたが、一般人の面々は表情を驚き一色に染め、中でもロカルシュが一番に噛みついた。


「ええ~!? 私ってばそんなの全然聞いたことないんだけどぉ。セナは知ってた?」


「これが初耳だ」


 セナはケイに目を向け、「アンタはどうだ」と暗に問う。


「私も知らなかった事実だよ」


「あっそ。そんならノーラ博士にお聞きします。その情報はどうして一般に公開されてないんですかね」


「院も最初は公開を予定していたのだけれど、取り消されたのよ。執筆者であるフランがあんなことになったものだから」


「あんなこと?」


「魔法院からの追放だよ、小騎士殿。フラン博士は光陰の魔力を調査するうちに聖人ではなく魔女への関心を強め、陰の魔力を探究する副産物として二属の上位性を発見したという経緯なんだ」


「当然、奴は上層部からお叱りを受けたわ。その勧告に大人しく従い、聖人研究に戻っていたのなら、院を追い出されることもなかったでしょうね」


 妙にプライドの高かったフランはそれを侮辱と取って反発した。彼が魔女を追究する態度は次第に崇拝まがいのものへと変わり、その思想は非常に独善的で、魔法院どころか世間にも危険なものとなった。「魔女狂い」を野放しにしていてはいつか若い研究員にも悪い影響が及ぶと上層部は判断し、フランは追放の憂き目を見たのだった。


 その後、田舎に土地を買ったフランは魔法院への反感を原動力とし、ますます魔女の研究にのめり込んでいった。


「その際はお前も一緒に院を離れたんだったな、ノーラ」


「一応、婚姻関係にはあったのだし、妻としてついて行ったわ。でも、アイツの狂気じみた執念に付き合いきれなくて。早々に縁を切って私は院に戻ったの」


「子供を残して?」


 ケイが痛いところを刺してくる。金銀の目は全てを白状するよう言っていた。


「正直に言えば、フランが実家から勘当されたのがきっかけよ。それがちょうど出産の間近で、アイツは跡継ぎを欲しがってたし、私が連れて行ってもまともに育てられるか分からなかったから……」


「うっわ、おばさんそれサイテーのお為ごかしなんだけどぉ。そんなん本当に鬼畜じゃん~。私でもそこまでクズにはなれなーい」


「嫌味も皮肉も、あとでいくらでも聞く。今は話を先に進めさせてちょうだい」


 ケイ以外の人間から一斉に非難の目を向けられ、これにはさすがのノーラも決まりが悪く、後ろ暗い顔になった。


「まぁフランとしては、何があっても妻だけは自分を支えてくれると思ったんでしょうね。離婚で私にまで裏切られたと感じたアイツは、輪を掛けて妄執の道を突き進んだ。ことあるごとに研究成果を送ってきて、いつかバカをやらないかと屋敷に内通者を送り込んだほどよ」


 ノーラが手のひらを上に向けて首を大きく左右に振る。多大なる嫌悪をため息に込め、彼女はテーブルの端に浅く腰掛けて腕を組んだ。


 フランの話はこれで終わりだった。


 本題は、ソラたちが求めた情報は果たして彼の成果に記されていたのかということだ。エースは残念そうに瞼を下ろした。


「結論から言うと、フラン博士の興味が向いたのは専ら魔女の魔力でした。ノーラ博士の言ったとおり、過去の出来事に言及する資料は一冊もありません」


「歴史を研究していたわけじゃなかったんだね。だけど、それならフラン博士は何のために陰の魔力を調べていたんです? それだけ執着していたからには、成し遂げたい目標みたいなものがあったは、ず……」


「……」


 ソラの問いに、フランの研究内容を知っている三名は沈黙した。

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