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8‐7 復讐の地へ

 碩都に降り注ぐ雨は自然のものではなかった。それはジョンの魔法で、彼女はナナシを抱えて逃げるまっただ中、魔力の痕跡をごまかすため広範囲に降らせたのだった。動物を使って追跡されているらしいが、これは金の瞳を持つジョンにかかれば何の問題もなかった。人間でさえ時に嘘を真実と勘違いするのだから、手近な動物を二、三匹捕まえてデマを広めてやればいい。服の一部を裂いて持たせ、方々に埋めでもすればさらに攪乱できる。


 策を打ったジョンは手頃な洞穴を見つけ、入り口を植物で覆って潜伏した。しくじった自覚があるナナシは逃走当初から悲鳴をじっとこらえ、脂汗を浮かべてうめいていた。


 彼女は地面にナナシを転がして破いた袖を噛ませ、さっそく腕の接合を始める。患者本人の魔力を借り受け、それを自分の指先に乗せて神経の一本、細胞のひとつを丁寧につなぎ合わせていった。


 結果、傷跡は残ったものの、腕は元の通りにくっついた。


 痛みが続く中でナナシは指先に力を入れてみる。わずかに動くが、切断箇所から下の部位はまだ感覚が薄かった。


「クソ、ちくしょう……。アイツら、絶対に許さないぞ。何で僕がこんな痛い思いを、しなきゃならないんだ……っ」


「ななし。いいこにして、やすんで」


「でも!」


 モゴモゴと愚痴を漏らすナナシの頭をジョンが抱え、自分の膝に乗せる。少女は小さな唇の前に細い指を立ててささやく。


「しかえしはぼくが、かんがえといてあげる。ななしはやすむ。ね?」


「……じゃあメッチャえげつないの頼むわ。緑のガキと僕の腕切った奴らは絶許ぜつゆるだから」


「おまかせあれ~」


 彼女はナナシの腕をさすって魔力を調整し、痛覚を和らげていく。その心地よさにナナシは瞼を閉じ、すんなりと眠りについた。ジョンは彼の眉間に刻まれたしわをならし、幼く見える寝顔に慈愛の笑みを浮かべる。


 しっとりと濡れた黒髪を撫でながら、


「うーむ。ためてたまりょく、ほとんどなくなっちゃったし。どこかでちょうたつしないといけないわね」


 道理は先送りで直感を頼りに生きている女児の顔が南東を向いた。その方角には大陸最大と言われる都市がある。ジョンはだいたいの地図を脳裏に再生し、洞窟を出たあとの道のりを考えた。確かなルートではないが、街道沿いにでも歩いていけばどこかの村にたどり着く。


 何にせよこれまで通りだ。着いた先で詳細を「お尋ね」すれば、いつかは目的地へ至る。


「あのオネーチャンたちに、ちゃんとおいかけてもらわなきゃ、だもんね。あっちこちよって、たーくさんまりょくもあつめて、ごみそうじだ!」


 決戦の舞台は常夏の南方、活気が集う商業都市クラーナと決めた。


 少女は口元をルンルンと緩ませて、これまでの凶行が嘘のように可愛らしく破顔一笑した。


<続>

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