5‐2 特務の三人
「貴様は魔力の痕跡を探ることができるのか。どのように見えるのか聞きたいものだ」
「魔法の使用者を追って光の筋が見えるんですよ。人それぞれに異なる模様が浮かび上がるので、それを照らし合わせて追跡していくんです」
「ほほう。獣使いの小僧はさておき、貴様は使えるらしい」
「……どうも」
「して、魔女はどちらへ逃げた?」
「都を出て北へ向かったようです。隊長、ソルテ村というと、確か北限の集落でしたよね?」
「ああ。北の雪深い山中に位置する村だ」
「雪ですか。事を急いで吹雪に巻き込まれるのはごめんだな……。ロッカ」
「はいはぁ~い」
足音で妙な拍子を刻みながらやってきたロカルシュにセナは自分の目を指さし、また前を向いた。ロカルシュは彼の頭を後ろから掴み、頭頂部に額を押しつける。儀式めいたそのやりとりに元老が疑問を挟もうとするが、フィナンが手を上げてそれを制した。
ロカルシュは肩の上にあった視界を閉じ、瞼を下ろしたまま瞬きを二、三度繰り返した。すると視神経は新たな「目」につながり、やや低い位置の視野を映し出した。
獣使いの能力は応用すれば人の視覚を借りることも可能なのだ。並の人間にはできない技だが、それを事もなく成す技量こそ、ちゃらんぽらんのロカルシュが特務騎兵隊に引き抜かれた所以である。
セナが己の意思に反して動き回る眼球に違和感を覚え、小さく身じろぎする。それが不快へと変わる前に、ロカルシュが額を離した。
「終了~。痕跡が見えた方の町で捜索お願いしとくー」
「空からはどうだ。追えそうか?」
「風が強いと難しいかなー。晴れ間を見て鳥さんたちに飛んでもらうけど、セナの目とあわせて地上から追いかける方が確実~」
「そっか。魔女もどっかで立ち往生するかもだし、手堅く行こう」
セナは目頭を押さえて瞼を閉じた。
フィナンが露台から戻ってきた二人をねぎらい、自分の顎を掴んでフゥムと息をつく。
「ところで、ロカルシュさんよ。この部屋を覗き見してたんなら、魔女の顔も見たんじゃないかね?」
「さっき言ったじゃん。虫さんの視界って見づらいのー」
「つまり、何だって?」
「よく分かんなかったー」
「肝心なところでポンコツちゃんだな」
「ごめんねぇ。でも、人間に気づかれないように部屋の中を探るの、虫さんに頼むのが一番なんだよー」
ネズミなどの小動物を侵入させた場合、駆除される可能性が格段に上がる。精度は落ちるが、動物より遙かに小さな虫を使う方が確実なのだ。元老はそれを聞いて嫌悪と失望を露わにしたが、フィナンとセナはいつものことだと肩をすくめた。
「ま、こっちも相応の準備が必要だしな。その間に人相書きは仕上がるか」
「今日のところは氷都を出て隣町に入れれば御の字ですね」
「何を言っておる。夜も走ればもっと先へ進めよう」
悠長なことを言うセナに元老は苛立ちを隠せず、杖で床を叩いた。それで脅せたのは離れたところにいる大祠祭くらいのもので、騎士たちは涼しい顔で首を左右に振った。
「厳冬の荒野を暗闇の中で突貫しろと? 魔法院からの依頼とはいえ、承伏しかねますな。特務の貴重な人材を吹雪なんぞで失うわけにはいきませんので」
「私たちが寝てる間は動物さんに頼んで探ってもらうから心配ないよ~。魔女さんだって夜はどっかで休むでしょ。今日は追いつけないにしても、一日で移動できる距離なんてたかが知れてるし。ネズミさんあたりにこっそり頑張ってもらえばそのくらい楽勝でしょ~」
「おい、小僧」
軽々しい調子のロカルシュに元老が今度こそ怒りを爆発させた。老人は杖の先をロカルシュに向け、目を三角にする。
「貴様に使役できるのは肩のフクロウの他にせいぜい一、二匹であろう? それをあたかも多数の使役が可能かのように、できもせぬことを言うでない」
「元老。俺の相棒を不当に貶めるのはやめてくれませんかね」
ロカルシュをかばうようにセナが前に出る。
「確かにコイツの態度は癪に障るが、才能は希代のそれだ。通常、獣使いの陪臣契約は一個体、多くても三個体が限度だが、ロカルシュは違う」
「そうだそうだー。私の人格はともかく、能力は一級なんだぞ! 契約数に制限なんてないシィ、同時にたくさんの動物さんと仲良くできるんだからネ! この国どころか世界随一の獣使いナメんな~!」
「ロッカ……それを自分で言うなよ。そんなんだから嘘くさいって思われるんだぜ、アンタ」
「ま、何であれこの時期に北方での夜間行動は命取りです。追跡は日中に限るということでご了承いただきたい」
「賛成~。お仕事はお日様が昇ってる間にしよー。夜は眠いし、眠いとお仕事にならないもんね」
フィナンがロカルシュの頭をポンと叩き、同意を表す。
「話は変わりまして、魔女の逃亡を幇助した金髪の男女についてはどうしましょう?」
「そちらは好きにせよ」
「では、私の方で判断いたします」
おかんむりの元老は唾を飛ばしながら舌打ちし、杖を下ろして椅子にどかりと腰掛けた。
「まったく、その呑気が命取りにならねばよいがな」
「これはこれは。ご心配ありがたく」
「……」
フィナンの性格に辟易した元老は机に肘をついて頭を抱えた。




