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私がそれを望むから ―終わりの魔女と死の聖人―  作者: 未鳴 漣
第四章「そして憎悪が果てるとき」
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15‐14 国籍不明の襲撃者

 ケイが船首に足を向けたそのとき、船着き場に船体が擦れた。


 エクルが助走をつけて甲板から飛び降り、櫓を駆け下りてきた見張りの男に襲いかかる。戦闘員でない男は即座に捕らえられ、仲間の手で船内に軟禁された。


「よぉーし。行くよふっくん!」


「ホウ!」


 ロカルシュはフクロウと王の鷲を連れてマキアスらのあとに続いた。エィデルも彼の横に並び、開け放たれた岩壁の隧道へと入っていく。先行する第一部隊の足音はだいぶ遠くに聞こえた。


「マキアスたち足速いよぉ~」


「ロカルシュさんは遠心拠点の犬を今のうちから押さえておいてください。では自分も先に行きます」


「そんなぁ! エィデルも、はやっ……!?」


 どんどん遠のいていく第六の癒し手の背中にロカルシュが弱音を吐く。といってもこれはエィデルの足が速いのではなく、ロカルシュが遅いだけだった。その証拠に、一番最後に下船したケイがもう追いついてきた。


「ロカルシュ。犬は押さえられたか?」


「ちょっと、わたしっ、はっ、はしるの、いそがしっ……くてぇ!」


「……いったん止まろうか」


「はぇ? いいのぉ?」


 ケイが提案した途端にロカルシュが足を止めた。彼の肩から鷲が飛び立って洞穴の先へスイーっと飛んでいった。ロカルシュは膝に手をついて上半身を上下させて荒い息を整える。彼の背中をさすりながらケイが言った。


「まずは犬たちの制御だ。ここからでもできそうか?」


「でき、る。すぐ、探すね~……」


「よし。それを歩きながらやろう」


「うえぇ……、はい」


 呼吸を繰り返すこと十回目、ロカルシュはニンマリと笑った。


「やったぁ! ワンちゃん押さえたよ~。建物の中にいる人は四人ね。今はお昼休み中で、広間でまったり休んでるみたい~」


「よくやった。犬はそのまま従えておけ」


 ケイはロカルシュの背中を一発叩いて先へ行ってしまうのだった。またしても置いてけぼりのロカルシュは眉尻を下げて泣きそうな顔をした。だが、ふにゃふにゃと情けない声を上げながらも再び走り出したのだから偉い。そういうことにしておこう。


 へなちょこ特務を遙か後方に、襲撃の先頭集団にケイの声が届く。彼女の声は増幅された足音の間を縫ってよく響いた。ロカルシュが得た拠点の現状が伝えられ、マキアスが了解の声を返した。


 その時点でエクルはもう鉄扉の前だった。重いそれを体ひとつで引き開けてマキアスとルマーシォを通過させたのち、彼はフェントリーに扉の固定を任せて二人を追った。


 謎の襲撃犯三名は音もなく木道を走り、玄関扉の陰に身を潜めた。マキアスが扉を叩いて中の人間をおびき寄せる。音に気づいた駐在員の一人が警戒心もなくやってきて玄関の片側を開けた。半開きの隙間からエクルが素早く拳を繰り出し、相手の顎を手のひらで弾き昏倒させる。それをルマーシォに預けてエクルとマキアスが残りの三名を無力化し、あっという間に拠点を制圧した。


 ケイとエイデルはその間に床下のそりを拝借していた。フェントリーは二人を守るように辺りをキョロキョロと見回している。そこへヒーヒーと言いながらロカルシュが隧道を出てきた。


「ロカルシュ。犬をよこしてくれ」


「うえぇぇ……いま、まって。するぅ……から~」


 おぼつかない足取りの彼を追い越して、後援の数人が拠点へ入っていった。それと入れ違いに犬が出てきて、利発な三頭はロカルシュの指示に従ってそりの前に整列した。


「あのねぇ、ワンちゃんには専用の服と、ゼーハー……靴が必要でぇ。そりとつなぐ革帯も、玄関のところにあるからって……」


「自分が持ってまいりますので、しばしお待ちを」


「ありがとうエィデル、頼んだ。ロカルシュ、犬はこれで全てか?」


「そうー。いつもは符術でそりを軽くして、一人ひとつ引いてお仕事……してたらしいよ~。疲れたぁ……」


「その程度の魔力消費であれば想定内だな」


 雪原を足で走り体力を浪費する方が痛手だ。ほどなくしてエィデルが戻ってきた。彼女は犬たちを冬の装備に着せ、整ったものからケイが革帯でそりにつないでいく。大陸全土を旅する経験豊富なケイにかかれば、犬ぞりの用意など容易い作業だった。


 そうしているうちに襲撃犯らが拠点から巻き上げた食料を持って戻ってきた。マキアスは荷物を二つのそりに下ろし、


「荷物は俺と先生、ロカルシュとルマーシォのそりに乗せる。残りの三人は走行中に喧嘩すんなよ」


「エィデルさんと先輩じゃ喧嘩にならないっすよ」


「おいフェントリーお前それはどういう意味だ」


「だぁから喧嘩すんなって言ってんだろ。ったく、そしたらロカルシュが犬たちを統率して先導してくれ」


「はぁーい」


 文句もほどほどに、各自が割り当てられたそりに向かう。全員が乗ったのを確認して、ロカルシュが犬に出発を指示した。


 道中、目印となる杭を犬たちが把握していたのは助かった。日が落ちないおかげもあり、一行は同日の夜半に無人小屋へたどり着いた。すぐさま二刻半ほど休息を取り、朝も早い時間から島中の有人拠点へ向けてそりを駆る。休み休みで半日がかりで目的に到着し、こちらもまたマキアスとエクルが制圧した。


 この拠点には後援の人員が来ないため、駐在員は魔封じの腕輪をはめられ、魔法で作り上げた縄によって拘束された。一日と持たず縄は消えるので、放置されても命に関わることはない。


 マキアスは駐在員を火鉢と一緒に奥の部屋に閉じ込め、皆を居間に集めた。持ってきた食料を分け合って食べながら部下たちを鼓舞する。


「だいぶ強行軍だが、軸の麓まではあと二日とかからない。気張れよお前ら」


「爺さんに言われるまでもねえっての」


「隊長の無茶につきあわされるのはいつものことっすからね~」


「我々は慣れっこですが、先生方は大丈夫ですか?」


「心配ない。徹夜で難しい施術をした時よりはマシさ」


「自分も問題ありません」


「マキアスー! 私すぐ寝たーいねむーい!」


「お前さんに途中で倒れられたら困るからな……。よし分かった、ロカルシュは今すぐ就寝。出る直前に起こしてやるからギリギリまで寝とけ」


「ありがとっ! 寝る!!」


 ロカルシュと犬たちの食事が終わるのはほぼ同時で、彼らは身を寄せ合ってすぐさま寝息を立てた。毛玉と団子になっている様を見て、エクルが引き気味に、「野生児じゃん……」。彼とて他人をとやかく言える立場ではなかったが、この状況で突っ込む気力がある者はいなかった。


 七名と三頭は昨日と同じくわずかな休息を挟み、未明になると再び追跡を再開した。

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