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私がそれを望むから ―終わりの魔女と死の聖人―  作者: 未鳴 漣
第四章「そして憎悪が果てるとき」
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15‐2 襲撃会議

「北極島の地形ってのは、海岸沿いに高い崖が切り立ってるそうでな。東ノ国の連中が開いた船着き場以外からの侵入は無理なんだ。だから襲うしかねえのよ」


「その船着き場には見張りが一人常駐し、岸壁の向こうと定時の連絡を行っているそうです」


 王命が下ったのは初耳だったものの、作戦自体は前もって聞かされていたルマーシォが平然と情報を付け加える。それは北斗で融通してもらった東ノ国の船員から聞いた話しだった。


「壁向こうの拠点には施設の点検や改修を担う技術者が三名ほど詰めています。あと、そりを引いてくれる犬もいるとか」


「東ノ国の有人拠点はそこと、軸との中間地点にもうひとつある。そのほかに無人の小屋もいくつか建ってるらしい」


 マキアスの筋書きでは、北斗から加わった船乗りは事前に船上で拘束し、着岸に合わせて一目散に港の監視員を押さえる。岸壁をくり抜いた隧道を抜けてからの拠点制圧については、三、四人の素人相手ならマキアスとエクルで事は足りるとの考えだった。ルマーシォは切り込み二人の援護を担い、フェントリーはケイとエィデルの守りにつく。ロカルシュには犬とそりの入手が言い渡された。


「とはいえ、大陸の人間が東ノ国の拠点を襲うのはやはり体面が悪い」


「そういうわけですので、僕らは国籍も目的も不明の襲撃犯となります」


「フェンたち完全に悪役っすね」


「騎士の誇り、どこいった……。オェ……」


「そこんところは宿借り連中と一緒に東ノ国の兄ちゃんをとっ捕まえれば問題なしだ」


 ツヅミは北斗で朱櫻様と呼ばれていた。都の名を負っているのなら、彼こそが逃走幇助の責任者だとマキアスは見ている。実行犯でもある人物が自分で助けた人間を途中で放り出すとは思えない。十中八九、彼は宿借りと共に行動している。本来の目的である殺人鬼を追い詰めれば、自ずとツヅミを捕らえる機会もある。それでお縄にできれば痛み分けだ。


 その可能性に人一倍の期待をかけているのがルマーシォだった。


「フフフ……、あのクソガキに借りを返せる日が楽しみです」


「副隊長、取り逃したの何気にめちゃくちゃ悔しいんです?」


「いやもう、途中で挫けた自分が情けないのもあるんですが、彼のスカした面をぶっ飛ばしてやりたいというか。ええ、八つ当たりです」


「ルマーシォやっぱこわぁ~」


 ロカルシュは毒気に当てられ、フクロウも細くなって目つきを険しくした。言われた当人は不穏な笑みを深めて会議のまとめに入る。


「さて。最後にもうひとつお伝えしますと、島の中心部にはごく浅い水原が広がっています」


「水原っすか~。深さはどのくらいなんす?」


「我々の履いている靴の底が沈むくらいでしょうか」


「それは困りましたね」


 そう言ったのはエィデルだった。


「濡れたまま行動するわけにはいきません。魔法で足場を確保するなり、何か策を考えなければ……」


「えっちらおっちら走って行くほど時間に余裕があるわけでもねえからな。ルマーシォとフェントリー、あと先生にも助けてもらって、交代で道を作ってもらいたい」


「……自分は万が一の負傷に備えて魔力を温存、ですね」


「そういうこった。よろしくな」


 足元を固めれば犬にそりを引かせたまま突っ切ることもできよう。魔力の消費は少々痛手だが、追跡の遅れを解消できる利点の方が勝った結論だった。


「そんじゃあ、以上の段取りで悪鬼どもを取り押さえて国へ連行するってことで。簡単な任務だろ?」


「俺様がいりゃ、なん、てことないぜ……!」


「先輩。豪語するのは構わないっすけど、ちゃんと使い物になるんすよね?」


「お前な……。陸に、上がれば、……元気になる、んだよ……」


「いつもの通り冷静に当たれば完遂の見込みは十分あります。落ち着いていきましょう」


 ルマーシォの言うとおり、平時と変わらぬ行動が肝要である。第一部隊は緊張もほどほどに「ウーッス」と気の抜けた声を上げて合意した。


 作戦会議はこれにてお開きとなった。


 ケイやマキアスは部屋をさっさと出ていくが、エクルは張っていた気力を緩めたら酔いがひどくなったらしく、机に突っ伏したまま動かなかった。仕方なしに、フェントリーとエィデルが居残りにつきあう。


 それを後目に、「だいぶ強めの吐き気止めを渡したんだがなぁ」。ケイが同情を込めてつぶやく。手持ちの薬剤でこれ以上の効き目は望めないので、あとはもう慣れてもらうしかない。不憫に思いながらもエクルを放置するあたり、ケイもそれなりに彼の生意気な態度が気に障っているのだった。


「はぁ……。別方面から症状を軽くできないか考えてみるか」


 面白がってちょっかいをかけているフェントリーはともかく、付きっきりのエィデルがかわいそうだ。


 そうしてケイが自室へ足を向けたところ、背後からひっそりと呼び止められた。声の主はマキアスである。


「先生。お弟子さんから返事は来たかい?」


「一応な。向こうは朱櫻に向かっているらしい」


「ふーん。つーか来てたんなら言えよ」


 マキアスは何やら文句を言いたそうな顔だった。


「アンタよォ、何か俺らが知らない重要な事実を隠しちゃいねえか? ロカルシュの相棒の件だってある。洗いざらい話す気はないもんかね」


 ケイが秘密にしていることと言えば、ソラとナナシの正体くらいのものだ。しかしそれは今回の任務においてそれほど重要な情報ではない。注意する事柄としてナナシに治癒魔法が効かないことは伝えてあるし、果たしてこの時期に明かすべき事情だろうか。


 そこでケイは賭けに出る。


「隊長殿はどこの出身だろうか?」


「何だ唐突に。プラディナムのクソ田舎だが」


「……前提条件として申し分がなさすぎる」


 彼の出身地がほかの地域であったなら、ケイは不審を買っても秘密を明かさなかった。ついでに言えば、


「ソラとも言葉を交わしているのも都合がいいな」


「祷り様のことか? どうしてあの方の名前が出てくるんだ」


 マキアスは不満そうな鼻息で髭を吹き、目つきで怪訝を表した。反対に、ケイは吹っ切れたような表情だった。


「よろしい。隊長殿に一切を打ち明けるとしよう」


「……どうにもやぶ蛇だった気がすんなぁ」


 訝しく眉をひそめるマキアスに対し、ケイは人差し指を唇に当て、「場所を移そう」。これから先は他の誰にも聞かれたくない話だった。マキアスは逃げたい気持ちだったが、白状しろと迫ったのは自分なのだから最後まで聞かねばなるまい。


 軽はずみに首を突っ込んだことを後悔しながら、マキアスはケイのあとをついて行った。

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