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第九話

 天気がよどんできた。そろそろ雨が降りそうだ。もう一度傘を買いにコンビニに戻ろうか。いやでも美香ちゃんが持ってきてくれるかもしれない。うーむ、天気予報を見ておけばよかった。さてさてと思案しているうちにいじっていたスマホの画面に水滴がぽたぽたと落ちてきた。決定、これは買いに戻った方がいいなと足を入口の方へ運んだ時

「おまたせしました!」

と背後から麗しい美声が飛んできた。その声の主は勿論………

「!?」

振り返るとそこには確かに声の主、美香ちゃんがいた。いたのだが!

いや気のせいだと信じたい、餅つけ、、いや落ち着け。ふーっ、と一回深呼吸をする。そしてもう一度正面を見てみる。チラリ。

「………やはり、そうなのか。」

「どうしたんですか?さっきから一人でなんか芝居をやっているようで………?」

どうしたもこうもない。そうだ、”二人”を効果音で例えてみよう。

一方はキラキラ!と爽やか、勿論美香ちゃんである。

はたしてもう一方はというと………

ニブニブニブニブニブニブニブニブニブニブニブニブ………!!!!と混沌に満ちたさながら異界の魔物である。

そいつの名は言いたくもない、いや言ってはいけないあのお方である。しかし目を背けていてはいかん、

ちゃんと脳で認識して対処法を今はひたすらに考えるんだ!!そう、言ってしまえばそいつの名は

武田涼子、つまり俺の嫁である。いや今のあいつの正確な状態をいうと鬼嫁である。


 「私雷結構怖くて………近くでおきたらこうギュッ、って抱きしめてくださいね!」

「ははは、遠慮しとく」

「むー?つれないですー?」

「ははは………」

俺と美香ちゃんは彼女の用意してくれた傘で相合傘をしていた。後ろから一定の距離間でついてくる追跡者の視線を感じる、、いや殺気か?なんにしても相合傘と言う状況は百歩譲ってわかるのだがこの小娘がかなり初対面にもかかわらずいちゃついてくるのには困った。平常時の俺ならば喜んで今にも腕を組もうとしてくるのにも応じたであろう。しかし今は本当にそういうわけにはいかないのだ。理由は言わずもがな。

「どこかお決まりの飲食店とかあります?私はその、えーと………あっそういえば名前を聞いていませんでしたね!あと自己紹介も忘れてました!」

てへっ、と頭をこづく少女。なんだか彼女をあらためてみると俺は犯罪でも犯してるんじゃないかと言う気がしてくる。

「あー確かに。じゃあ、改めて俺の名前はジョンスミス。」

ちょいと後ろの奴にも聞こえるように言ってみた。まぁ、声でバレてるか。まあ保険はかけるに越したことはない。

「えー!?スミスさんってことは外国人なんですか!?とてもそうはみえなかったですー!

えー、今度英語教えてくださいよースミスさん!」

アホの子とはまさにこの子の事を言うのだろう。いや天然と言うのだろうか。しかし初めて会うからにして俺は結構動揺した。純粋無垢なんてのは現代社会では希少種であるものだ。まぁ、いいか。気軽に流しておけばいい。

「あぁ、それより君の名前は?」

「あ、そうでした。私が襲ったあの変態さんの言ってた名前、実は違うんです。私の本当の名前は西園寺フミ。今あなたが思い浮かんでいるようにその西園寺グループの令嬢です。」

玉の輿、ヤクザの娘………はっ!いかんいかん。愛にその他背景など無関係である。でもあの富豪の娘………か。とんでもないめぐりあわせだな、こりゃ。

「ははぁ、それは凄いですね。するとさっきから俺たちの後ろの付いてきてる人もフミさんのボディガードだったりして、、」

図星。はとが豆鉄砲を食らったような顔をしている。

「な、なんでわかったんですか!?凄い鋭い神経をお持ちですね、ただものではない………?」

ありゃ?ということはあの追跡者は涼子じゃないのか?よかった、よかった、一安心。と俺は息をついた。しかしすぐ吐き出すことになった。

「あの人先ほど雇ったばかりなの。なんでもね………いや心配しなくていいのよ?すごくいい子なんだから!えーとね、昔からの友人で親がその子ヤクザ屋さんなのね。」

ん?いやまだだ………世の中には親がヤクザの奴もかなり、、、、、いないか。すると、もしや。

「でその子駆け落ちしたらしくて私くらいしか頼るものがいないらしいの。そのまま私のうちでかくまうこともできるのだけれどそれは自分たちでやるって断られてね。じゃあ、何かしてあげられることはない?って聞いたら雇ってって言われてね。で急遽私のボディーガードとして勤めてるのよ。でも凄いわね、スミスさん。どうしてこんな距離が離れててわかるの?」

「いやぁ、野生の本能ですよ」

単純に命の危機を察しただけだ。あいつとの初めての夫婦喧嘩と言ったらもう思い出したくもない。

あれは災害であった。やはり親の血を継いでいるからであろう………あっ、しょんべん漏れた。

くそっ、だから思い出したくなかったんだ。しかし雨の日で幸いであった。少々アンモニアの匂いがするだけで大々的にはまだ気づかれていない。

「そう、凄いのね!スミスさん!で、どこか行きたい飲食店ある?」

「あーないですよ。それより腕に抱き着くのやめてもらっていいですか?」

「あっ、、、やっぱり嫌でした?す、すみません。私世間知らずの箱入り娘なもんでして………」

うぅ、なんだか申し訳ない。そんなか弱い箱いる娘さんを傷つけるのが八億円男なのか?いや違うね!

「いや、後ろの人に監視されながら堂々としちゃうってのはうれしい半分恥ずかしいもんでしてね………」

「あっ、そっかぁ………それもそうですね!」

二パーっと笑ってくれた。よかった、ごまかしが効く、、じゃなかった純粋な子で。そのままウキウキな気分でフミちゃんは

「渋谷に雰囲気のいいカフェがあるんですよ!行きませんか!?」

と提案してきた。俺は当然断っ………

ウフフ、目の前には一輪の可憐な花のような慎ましい笑顔があった。これを壊して身の保全に走るのが

はたして「男」なのか………!?そうだ!「三年目の浮気」と言う歌もあることだし言い訳はいくらでも付くはずだ!何をたった一人の嫁ごときでビビッているのか?まったくだらしのない………少女を泣かせて身の保全に入るというのは人間としてもどうなんだ、武田翔太!?小便は流してもいいが、


               ”重圧で自分を流しちゃだめだ!”


「あ、あのう………お暇がなければいいんですけど………」

答えは当然決まっている。

「ええ、行きましょう!」

俺は破顔した少女を連れて走る。ようやくやんで、出てきた太陽の光を浴びながら。

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