第四話
その後けだるい精神に覆われていた俺は教師の説教に対し全面肯定ともとれる受け流しをしていると、
あっという間に俺のクラスカーストは底辺へと落ちた。今まではクールビューティーな陰キャ男子として
底辺までとは言わないそこそこの位置にいたのだがな。
やれやれ、その後のちょっぴり長かったホームルームの後が悲惨だった。まるで乞食のように俺の机の周りに男女問わず生徒が駆け寄ってくるのである。言い分はもちろん「お金ちょーだい」である。
ここまでずけずけといわれるわけは前述のとおりクラスカーストである。その取り巻きにおおわれてうんざりしている俺を満足そうに眺めるのはクラスの女帝こと早乙女ここなであった。チッこうなったのも
お前の普段からコツコツと得てきた教師からの信頼のせいだぞ、コノヤロー………ってあれなんだかちっとも悪そうに聞こえないのはなぜだろう。あぁ、そうか。これがもとから植え付けられてきたスクールカーストの地力か。やれやれ、宝くじを手にしたところでそうやすやすとハーレムなんぞはできないものだ。
現実はやはり厳しい。学校も小さくても社会の縮図だとかどこかで聞いたことがある。ってことはこれから宝くじの金があったとしてもここでさえ満足に社会生活を営めないんじゃおしまいか、なんて考えると
憂鬱になる。俺は突っ伏すことにした。そうすることで心の鬱憤を整理できるし、なによりクラスメイトと言う名の金の亡者どもからシャットアウトできるからである。
すると生徒たちは俺がもう聞き耳を持たないことを悟ったのかだんだん俺の机の周りは静けさを取り戻すことになる。ごそごそ。ん、なんだ?
「チッ、一文無しかよ」
おいおい、待てよ!白昼堂々と大したものだ。俺のカバンから財布を盗み取ってしかも盗人猛々しいとはこのことだろう、財布の中身が貧層だとか抜かしやがった。俺はバッと勢いよくその犯人の面を拝もうとしたが時すでに遅し、犯人は跡形もいなくなっていた。あとついでに俺の財布の中身も空になっていた。
くそ、どいつもこいつも宝くじに当たった奴の金なんて当然おこぼれをもらえるなんて思ったりしやがって………こっちに関しても憂鬱だ。
昼休みの時間がやってきた。廊下の外は蒸し風呂状態だった。
「外に出て遊ぶ男子達は自殺願望者の集まりじゃない?」
なんていう女子の発言もあながち間違いではない。俺は財布を取られたので学食に行く金もなくすることもないので机にうっぷして寝ることにした。途中休憩の5分休みの間も熱心に乞食活動をしていたクラスの男子達は弁当を食い終わるとすぐに昼休み中は俺ではなく外で遊ぶことに関心がいくようで寝ているとはいえ頭上の上のひっきりなしに続くおねだりの数が減るのも野太い声がいなくなることに関しても割合快適と言えた。それでも金、金言われると心がすさむものだ。男子もいないことだしちょっと行ってみようか。
「おい、寝ているんだから静かにしてくれ!それに若いもんが金、金とは何事だ!そんなに金が欲しかったら自分の手でもらってこい!パパ活でもしてろ!」
さっきまでチャラチャラ調子こいてクラスの雰囲気に流されて言ってたやつにはちょうどいいお灸が据えれたと思う。だが語気が強すぎたのか泣いてしまう子が現れた。こうなってはいかん、形勢が悪い。
「う、うえーん」
「ちょ、ちょっと武田!謝りなさいよ!」
「セクハラの次にパワハラとか何様のつもり!?」
「精神的苦痛で慰謝料払いなさい!」
なんだ、なんだいいたい放題じゃないか。まぁでも女子を泣かせたのは悪いことだな。謝ろうか。
「す、すまんな。えーと誰だっけ、、、あー沢田さん。言い過ぎたよ」
「あんた、それで済むと思ってんの!?」
「慰謝料払えー慰謝料ー!」
外野がうるさいな。まったく、勘弁してくれよな。そもそも俺はまだ宝くじの金をもらってないんだからさ。出せるもんも出せねえよ。だが説明するのもめんどくさい。謝罪もしたことだしまた睡眠に戻るとするか。
「慰・謝・料!慰・謝・料!」
なんだよ、そのコールは。もうこんなことになるんだったら宝くじなんか当たらなければよかった。
もう宝くじの金が届いたらやめてやろう、こんな学校。グー。あぁ、腹もなり始めた。午後からの授業はまるで耐えられそうにない。げんなり、宝くじ症候群にかかってしまったようだ。症状は精神が鬱状態に陥る、空腹になる、クラスメイトにいじめられる、この3点である。ていうかまだコールしてんのかよ、、うるせえよ。。。
「うるさいわよ、あんたたち。失せなさい。」
「ひっ、ご、ごめんなさーい!」
と俺の心の声を代弁し女子たちを退散させたのは、、、誰だ?空腹で目がかすんで何も見えない。
「(誰だか知らないけどありがとう)コヒュッ!」
水の飲んでいないのでまるでセリフが言えない。でも状況の無残さは伝わったようで、
「他クラスで話題になっていたわ。宝くじに当たっただけで「女帝」にいじめられてるってね。かわいそうに。癒してあげるわ、ついてきなさい」
人形のように手を引っ張られ思うがままに連れ去られる俺。未だに相手が誰だかわかっていない。
ってあっつ!死ぬ!死ぬって!外に出たくない!俺は必死に外に出たくないことの意思表示をすると
「行くところにもクーラーはあるから我慢してきなさい」
どうにもこの女一々言動に迫力があるようだ。俺は黙って後をついていく、というか引かれていく。
ついたのは音楽室だった。確かにクーラーは聞いていて涼しい。そういえば癒してくれるとか言ってたな。なんだろう、パフパフでもさせてくれるのだろうか。
「鼻息が荒いわよ、この変態」
と一蹴された。隣同士で座るとようやく相手の顔がはっきり見える、ついでに軽蔑したまなざしも。
なんとヤクザの娘の高島涼子であった。いままでこんな正義感の強い子は梨絵ちゃん以外いないと思っていたのだが大穴も大穴だな。しかし一体俺に何の用だろう。やはり金だろうか。あげてから落とすなんてのは詐欺の常とう手段だからな。ましてや親がその本職ときた。
「なによ、その目つき。言っとくけど私はほかの奴とは違ってお金目当てじゃないわよ。」
じゃないなら何なのだ。
「いい加減警戒の目つきやめたら?私はただ単にあんたの境遇に共感できる唯一愚痴を聞いて上げれると思っただけなのよ。」
意外にいいやつなのかもしれないな。前評判を聞いていると泣く子も黙る不良なんて言われていたくらいだし。そんならまぁお言葉に甘えてとりあえずアレを頼むとするか。俺はおもむろに立ち上がり音楽室のチョークを使わせてもらう。
「急にどうしたのよ。ってなになに。宝くじの金が入ってると思われ財布を盗まれ未だに何も食していない状態なのです、あと飲み物も欲しいです、あとお金は後で必ず払うので頼まれてくれますか、ですって?まぁわかったわよ。まず精神面より肉体面よね。わかったわ、買ってくる。飲み物はお茶でいい?」
俺は首を縦に振るや否やすぐさま涼子は走って買いに行ってくれた。スタートダッシュの勢いで見えたのは縞柄のパンツであった。