第三話
宝くじの金が届くのは三日目だそうだ。なので登校スタイルはいつもと同じ「不」清潔感あふれるヨレヨレの制服でボサボサの髪、もったいないので髭剃り機は買っていないのでボーボーに生えている無精ひげ。
根っからの貧乏かつモテるのを諦めているスタイルで今日も変わらず学校に行く俺。ん、いやまてよ。
そういえば昨日はすぐ寝てしまったから風呂にも入ってないな。ちょっと嗅いでみよう。クンクン、
「うわっ」思わず冷や汗が出た。過去ワーストで一番臭いんじゃないか、俺。ま、まあいいか。
別に異性にモテるといってもJKというのにこだわらなければこれからは金があるのでいくらでもそういう機会はあるだろうし? 別に高校生と言う身分にも関わらず金の執着しようなんてJKは俺の好みではない。
しかしこのヒッキーもどきのスタイルでも梨絵ちゃんは俺の元へ寄ってくるのだろうか。
いや男の俺でも今の俺には近寄りたくない。むしろ近づいてきて「私、実は………うっぷ。に、匂いフェチなんだよね。。。おえ。」なんて言われたら好感より先に関心が来てその後にちょっと引いてしまうだろう。とにかく俺の言いたいことは金に執着する異性はあまり好まない。そういうことだ。
天気は梅雨の鬱憤を晴らすかのような日本晴れ。せめてこの三日間くらいは雨が降ってほしいものだ。
どうしてかというと………こんな暑い日にマスク装着、ニット帽をかぶりそれに加えサングラス。それが
お天道さまにライトアップされるとなれば当然近所の方々からの視線が痛いというわけで。でも俺のカウント機能がおかしくなければこのまだたった十分しか歩いていない登校中にすれ違った謎の黒服男は既に二桁台である。いくら何でも異常だ。回覧板にこの町が逃走中のロケ地として使われることになりましたなんて文章は記載していなかったはずだ。俺は寝ぼけたまま素顔でのこのこと登校していたらということを考えるとぞっとする。いつしか見ていた某大人気ユーチューバーの変装してどこかへ行くといった動画を覚えていてよかった。ありがとう、例のコラボしてる味噌ラーメンのカップヌードルは転売ヤーで買うことができないにしろせめてチャンネル登録はしておくよ。と音の出る神に感謝のチャンネル登録をしているともう校門前であった。歩きスマホすると現実とのギャップが凄いと感じるのは俺だけであろうか。
流石に教室ではそれらの不審者なりきりグッズ達は外すことにする。
「ふーっ、あっつい」一息をする。それにマスクの中は蒸れてビショビショになるし(下校用に予備は準備してある)今朝歯を磨いていなかったので悪臭で頭がふらふらする。あ、そういえば水持ってくるのも忘れたな。いやーしまった。でも倦怠感で体が動かない。机にうっぷしてしまう俺。窓から差し込む西日が瞼にしみる。これだから窓側の席は嫌なんだ。といってもカーテンをしめる気力はあらず、ただ黙っているだけであった。「にゅっ」とそこへ巨大な影が舞い降りこむ。なんだ?と目を半開きすると
「うおっ!」目の前にはこれでもかと言うくらいの大根!ではなく女子生徒達の太ももが!
いい眺めだ。むっつりスケベである俺は起きているとも申告せず黙ってギリギリ寝ているかのように見せかけずっとそれらの新鮮そうな公立高校産の大根を見ているのだった。
大根の持ち主たちは俺に太ももを見せるためにも太陽光を俺のために遮ってくれるためにも来たのではなかった。そう、それは突然始まった。リーダー格と思われる女子からの一声、
「それ、追い剝ぎや!」
なんで関西弁!?ちなみにここは埼玉のしがない高校でしかないため越境入学なんて者は一人としていない。あぁ、ネットの汚染はJKにまで浸透するのか。なんて達観していると………あれ?
なんでだろう、俺はいつの間にかすっぽんぽんのパンツ一丁にされていた。羞恥心発動!
しかし何だろうこの感覚は。大勢の女子からほぼ全裸状態を見られるというのも存外悪くない。
俺は露出狂の気があるのだろうか。
「チっ、ないわね。通帳。あとなんかこの服臭いわ!不潔!」
といったのは陰キャ同士で構成されている(俺も所属している)グループ内で「ヤリマン」として
共通認識が持たれているギャル、早乙女ここなであった。
というか自分から人様の服を取り上げといてdisるとは何事だ。まったく………まぁ俺でもたまに鼻呼吸していると「うっ」ってなることもあるけどさ。ってそんなことじゃなくてだな!?
まさかこいつら俺が宝くじ当たったからって金を奪い取ろうとしてなかったか!?
くっそーとんでもないやつらだ。昨夜は女子に一つも返信していなかった。その既読スルーも影響しているのか。にしてもこれはヤバい。立場が逆だったら起訴起こせるレベルだ。幸い俺のメンタルは
あずきバー並に硬いためすぐに脳内は相手の誹謗中傷討論から脱却し服を取り返すことにシフトした。
というかもうすぐでホームルームだ。先生が入ってきて「な、なんで全裸なんだー!?」
とかいう陽キャのノリは正直ついていけん。滑って終わりだろう。というか滑ったら露出狂扱いされるかもしれない。こういうのは理由を話すことよりまずボケる事だ。俺にはそれができない。なので服を取り返すのにも少々の熱意が含まれるわけで、
「おい!なにが追いはぎだよ!さっさと服返せよ!」
少々語気が荒くなってしまったかもしれない。でも正論だからセーフ、と心の中で誰かに言い訳していると、向こうも負けじと言い返してきた。
「おい、チー牛!昨日私からの一生に一度もらえるかどうかのライン既読スルーしてその言い分はないだろ!?普段は教室でにちゃにちゃしてる人権のないやつでも宝くじ当たったってことでようやく人権ができたんだぞ。そんな金にしか属性がないやつが金を持ってこなくてどうする!?」
皆の衆、よく聞け。「オタクにやさしいギャル」なんてものはフィクションだ。いや、俺は最初からそんなことわかっていたさ。そもそも三次元の女なんて興味はない。(それでもたまにグラビア雑誌やアダルトビデオは覗いてしまう。おそらく生物学的な本能が働くのだろう)俺は(結構浮気もしていたが)
某作品の対有機生命体コンタクト用ヒューマノイドインターフェイス萌えなのだ。しかしなぜだろう。頭はわかってるのに体がと言う奴だろうか。温暖化により上昇しまくっている気温のせいだろうか。目から汗があふれ出てたまらない。というか逆切れではなはだしい!憤るというのはこのことだろう。
俺は赤い目で相手をキッと睨みながら立ち上がる。しかし俺の脳裏には米の国で妻の悪口を言われて暴行をしたら袋叩きにあった例の俳優の事もかすんでいたので暴力と言う選択肢は俺にはなかった。
ならば服は諦める?のんのんのん、そうではない。万全、取り返す方法は思いついている。
しかしこれは諸刃の剣であり普通にセクハラ案件だ。だがそれは向こうも同じことをしているので
つまり、ノープロブレム!というやつだ。
俺は普段からスパルタ教育を仕込んでいる兵器を覆う幕を外した。
スルスル、ぱさっ。謎に沈黙で包まれている教室に生々しい音が響いた。色んな意味で汗が噴き出る俺はただただ相手がどんなことをされたら嫌がるだろうかということを人知れず日々研究しているその道に
精通しているものであるため俺は相手にハグを求めるような形で両手を広げ、マックで無料の商品として販売されている「スマイル」を爽やかに自慢のニキビ面から発した。
それはどんなに恐ろしいものに見えたのだろうか。一瞬ここがホラー映画のシアタールームだと勘違いしたほどだ。「キャー!」「変態!」「どす黒くて汚い!」「不潔よー!」
おい、まて。しっかりみて感想を言ったやつがいた気がするぞ。
とにかく女子たちは大混乱であった。悲鳴を上げて向かうのはおそらく職員室。
あのクラスの「女帝」早乙女ここなでさえパニック状態に陥っていた。
うーん、、、勝った!ちなみに服は置き去りにしていったままだ。
おそらくあと数秒後に桃太郎のように女子をお供に連れ俺を鬼のように認識し成敗しに来る先生が現れる事だろう。流石にそこで服を着ないと真正の露出狂と思われても仕方ないので俺は急いで
jkの手垢つき洗っていないマイ・ユニフォームを着用することにした。
しっかしまぁー疲れるな、朝から。まったく………宝くじに当選するとこんなにも迷惑な事件に巻き込まれるとは、思いもよらなかったぜ。あー疲れた。
俺はこのあと教師がすぐ表れてホームルームを一時間目にまで巻き込んで当然のように悪者として取り扱われることを知らずに机に突っ伏して束の間の休息を得るのであった。