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第十八話

 奢り昂ぶり、さぁ知らね。飛び出す俺様、絶好調。

なんて気分のいい酔っ払いみたいな調子でホテルを飛び出して

黒スーツをレンタルし駅のトイレの鏡で身だしなみを整えたのはいいが

いかんせん面接なんてものは高校入試以来なので緊張してきた。

無鉄砲にも恥じらいの心はあるものだ。

「お前な、調子がいいのは結構だが後々苦労するぞ」

という高校の先生の忠告が今になって身に染みる。

しかし、もうその面接会場まで直行する駅にまで来てしまったのだ。

行くしかない。

それにここで逃げ出したら涼子になんて言われるか………

考えるだけでゾッとする。

もう少しで電車が来るようだ。

ふむ、そうだ。涼子だ。面接前に妻の顔を見て落ち着くのもいいだろう。

俺は携帯電話をかけようとポケットに手を入れると………あれ?

ない。嘘だろ。

俺はズボンの後ろのポケットにも手をまさぐる。そしてワイシャツのポケット、スーツのポケット。

ポケットと言うポケットに手をまさぐり、そして裏地を出すまでしても

携帯は出てこなかった。

なんてことだ。ラブホに置き忘れたのだろうか?

公衆電話で涼子に電話して持ってきてもらうことを一瞬考えたが

今、再び会うとなんだか逃げた感じもするからやめた。

それに涼子もフミちゃんの護衛をしているかもしれない。

………でも涼子に会いたい。

この不安を埋めてくれるのは涼子だけだと俺は思った。

だが、と俺は頭を左右に振ってそんな弱音を脳内から吐き出す。

俺はトイレから出て駅内の空気を吸う。煙の味がした。

そしてエアで手に「人」の字を書いて飲み込む。

周りの目も気にせずにそれを十回繰り返したところでようやく気持ちが落ち着いた感じがした。

すると懐メロとともに電車が目の前に現れる。

俺はもう何度やったかネクタイを締めなおし、足を一歩前に踏み出す。


 「おぉ………面接会場、じゃないよな」

俺は何度も来た道を行き来したが、未だにその到着した面接会場が

古風な豪邸にしか見えず困惑していた。

「間違えたか………?」

しかし俺が手にもつ地図には目の前の家が住所通りの場所であった。

「あぁ、騙されたか………?」

俺はそこでようやく一つの解を導いた。

おそらくあなたは当選しました!という手口の詐欺だったのだろう。

その書いてある住所は、海だったとかいうアレだ。

ふぅ、やれやれ。

まさか俺が詐欺にかかるなんてな。

バカにしてたけど意外と騙されるものだな、心の隙間を付け込まれると。

しかしまぁ振り込みとかはしていないからまだよかった。

でもなんかせっかくここまで来たんだからチャイムくらい押して確かめるか。

俺はあらかじめ謝る準備をしておき、チャイムを押す。

「はーい。」

知らない親父の声だったが愛想はよかった。まぁ定年退職したお気楽爺さんと言うところだろうか。

「あの面接に来たんですけど、ここがその会場ですか?」

まぁ違うだろうけど。

そう心の声で付け足す。

すると返ってきた答えは意外なものだった。

「えぇ、そうですよ。どうぞおはいりください」

とても柔らかな物腰でそう言われた。

「えっ!?あっ、えっ!?」

困惑。何かが、おかしい。

「どうかなさいましたか?さあおあがりください。わざわざお越しいただきありがとうございます」

男の声はよどみなく、逆に怪しかった。

しかしこんな白昼堂々食われることはあるまい。

謎の自信。

それが決め手となり俺はその家の戸口を叩くこととなった。


 まさかのそのインターホンで対応していた人が迎えに来てくれた。

風貌が尋常じゃなくいかめしめいていて、俺と同じく黒スーツだった。

しかし俺のように着せられる感はなくしっかりとキめていた。

年齢は六十はいってそうだが、その顔は引き締まっており

目も鋭く高い位の職に就いているものだと一目でわかる。

俺は先手必勝、挨拶をした。

「初めまして。武田翔太と申します。この度は私を招いていただき誠に感謝します。

今日の面接はよろしくお願いします」

うむむ、言葉使いが少し変だっただろうか。

俺はお辞儀をしながらそう言って、また姿勢を戻し緊張の面持ちで老人の反応を見た。

その鷹のような目は俺を上から下へと見定め、最後には俺の顔をじろりと見ると

ニコリと笑い

「こちらこそ、今日はよろしくお願いします。

いやいや、しっかりとしてなさる。最近の若いもんは身だしなみがなっとらんのも多いんですが。

さあ、こちらです。スリッパもあります。はいてください」

といって老人は玄関へと俺を招き

スリッパまで整えてくれた。

俺は恐縮してそのご厚意をいただくことにした。

ふむ、ここまでは好印象と言ったところだろうか。

俺は心の中でガッツポーズを組んだ。


 老人が進んでいく先はいったいどこだろう、と果てしない庭に面した廊下を進んでいくうちに

そう思った。もうかれこれ五分くらいは歩いただろう。

いつ、つくんだ。

しかし堂々巡りをした感じはない。

豪邸、単語でしか知らなかったがいざ思い知ると流石に凄い。

じれったいとは思ったが流石にこれから面接をしてくれる人に

「いつつくんですか?」

なんてことは聞けない。

なので俺は歩くスピードを緩め、視線を庭へと移した。

池が二個あった。一つの池には滝もあった。

その滝の水は浮かぶ岩に辺り、池に水滴をまき散らしている。

もう一つの池は水蓮が浮かんでおり、カエルのなく声が聞こえた。

カエルの姿は見えなかったが、アメンボが水の上をスイーっと滑る所は見えた。

池の周りは砂利であり、そのほかには松の木も添えてあった。

なんとも風情のある庭である。

誉め言葉でも言ったらどうだろうか。

いや、だが老人が黙ってるうちは言うまい。

なんてことを考えているうちに

「お待たせしました。この部屋です。さあ、どうぞ」

もう目的地の目の前についてしまっていた。

俺は老人の目の前だったが、構わず深呼吸をする。

よし、いくぞ!

そう決意を固めて足を踏み出した俺がこの時点で

この部屋から早々に出られないものと知るのには無理があった。



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