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第十五話

 フミちゃんがいつの間にかいなくなった。

俺はこの事実を前にひとまず手にもっているコーヒーを一すすり。

うむ、うまい。じゃなかったこれはとてもカフェインが効いている。

また目を閉じたり開けてみたり、ほっぺをつねったりしてみる。

上を見て深呼吸。

さて、そろそろ意識が覚醒しただろう。

俺は正面を見る。やはりそこにはフミちゃんはいなかった。


 焦燥。今の間はもしかして無駄な時間だったのでは、と感じつつ俺は急いでテントから出る。

どこだ?連れ去った犯人はどこにいる!?

俺はあたりを見渡すも動物の影一つ見当たらなかった。

くそっ、流石にもうこの辺は通り過ぎていったか。

「ここよ、誘拐犯」

空から耳なじみの声が降ってきた。

見上げると木の上にフミちゃんを抱きかかえた涼子が俺を見下ろしていた。

フミちゃんは眠っているようだ。

涼子はいったい何をしたのだろうか。

それにしても誘拐犯呼ばわりはないだろう。

俺は涼子に怒りを交え抗議した。

「誘拐犯はお前だろ!というかフミちゃんを眠らせてどうするつもりだ!?」

俺がそう言うと涼子は意地悪そうな顔をして

「ははーん?妻を「お前」呼ばわりして

たかだか知り合って二日三日のこの子は下の名前で呼ぶんだ?

ふーん、この子がどういう身分かも知らないで随分と着やすく呼ぶわね、このロリコン!!」

ロ、ロリコンて………しっかし涼子はこうなると始末に負えないんだよなぁ。

でも質問に答えてないし、なにぶん俺は知り合いの少女を見過ごすわけにはいかない。

まだ涼子の真意を計り損ねているからな。

「誘拐犯を妻にした覚えはない!いいから降りてきてフミちゃんを解放しろ!!」

ぷっつーん。

涼子の顔は見る見るうちに赤くなる。

さぁ、ここからが本番だぞ。

と俺は自分を戒める。


「だ、だだだ、誰が誘拐犯ですって!?!?

人聞きの悪い!そもそも私は正式にお嬢様に任命されたボディーガードなの!!

宝くじを当てて

良妻に職を手にしろって言われたって構わず見知らぬ少女とそこらを歩き回る浮浪者とは

訳が違うのよ!!

身の程を知りなさい!

別にこの子に嫉妬してあんたの元から引き離したわけじゃないんだから!!

あんたみたいな浮浪者とテントで二人っきりなんて何が起こるかわかったもんじゃないから引き離しただけなんだから!勘違いしないでよね!」

さて、音のうるささ的にこれは何デシベルあたりなのだろうか。

俺は耳を抑えて涼子の怒声から耐えようとするも

その手の障壁はすべからく突破され俺の鼓膜は今日も今日とて過酷な振動を容赦なくされるのであった。

なんとみるとびっくり。涼子の手に抱えられているフミちゃんは変わらずスヤスヤと眠っていた。

一番うるさい場所だろうによくもまああんなに熟睡できるな。

やはりご令嬢ともなると肝っ玉が据わっているものなのだろうか。

俺は唖然と木の上を見上げていると

カラス達が涼子の鬼気迫る弁舌で命の危険を察知したのか

一斉に森から飛び去って行く。

やれやれ、俺にも翼があればな。

へへら笑いをしているとそれもまた癪に来たのか

「そういうチャラチャラしてるところ、ほんっっっっーーーとーに嫌い!!

どうしてこんなにもあんたの事を思っている私という人がいるのに!!!

なんで!どうして!

ヤクザの娘だからいけないの!!」

なんか話が脱線している気がする。

とりあえず涼子が変な気を起こしてフミちゃんをさらったわけじゃないことが判明したから

ここはもうとにかく涼子をなだめるのに集中した方がいいな。


 まぁでもこういうのは脳死で即答でいいな。

俺はあんまり女々しいのは好きじゃないんだ。

「別に涼子がヤクザの娘だから敬遠してるわけじゃないし

それにフミちゃんとはただお茶をしただけだ。

お前もその場にいたろ?別に変なことはしていない。」

はい、照明終了。

俺は手をあげそのジェスチャーをした。しかし涼子にはまだ証明不足であるようで

その顔はまるでスパゲティコードを目の前にしたプログラマーのようであった。

「また「お前」呼ばわり!!

私はね、あんたの女中でも何でもないのよ!

その下に見てるような呼び方やめてくれる!?」

やれやれ、「お前」はダメだけど「あんた」はいいのか。

まぁここでこの女王様に逆らうのは賢い行動とは言えない。

俺は素直に謝罪した。

「はいはい、「涼子さん」ですね。すみませんでした。」

「なによ!?その他人行儀な言い方!?

あんたはね、極端すぎるのよ!この馬鹿!!」

食い気味で猛烈に怒ってくる涼子。

正直めんどくさい。

俺は帰り始めたくなっていた。


 フミちゃんの安全は確保されたようだし俺はその場を立ち去ろうとするも

「待ちなさい!まだ話は終わってないわよ!!!」

パチン!!

涼子が指パッチンをするや否や俺の頭が急に締められる!!

痛えええええ!!

「やめろ!やめてくれ!!」

「フフフ、わかった!?

これから私の前から逃げようとするとこの機能が発動するわ!!

これはねこの私の腕の中に眠るお嬢様の企業が開発した新製品なのよ!!

ほら、西遊記で孫悟空が悪さした時に西行法師がお念を唱えて

発動する頭につけるアレあるでしょう?

それのステルスかつほぼ質量なしバージョンが今あんたを苦しめてるもの。

言っとくけど私が持っているこの小型リモコンで解除ボタンを押さないと外すことはできないわ!」

俺は一瞬三途の川と言うものがちらりと見えた。

涼子が何やら言ってるけどお経なのか?

俺はもう幽霊?

あぁ、、何やら言い終わったみたいだ。

「………ハッ!!」

俺は意識が覚醒する。

なんだ!?何が起きた!?

原因が涼子なことはわかっているのだが何が起きたのかはさっぱりわからない。

俺は畏怖と呆然の感情を交えて恐る恐る涼子を見る。

そんな俺の態度が気に入らなかったようで

「聞いてなかったの!?」

としかめっ面で涼子は怒鳴った。


 俺はもう一度涼子に同じことと(その声はとてつもなく鳥のささやきとは対極の位置にあった)

ついでに俺の身にさっき起こったこと(これ以上ないくらい醜悪な形容詞が盛られに盛られつくして表された)を言ってもらった。

うむ、逃げられないのはわかったし涼子に逆らってはいけないのも分かった。

仕方ない、暖簾に腕押しの禅問答に付き合ってやるとしよう。


 そして答えのないスパイラルな詰問が始まる。あぁ、帰りたい。

また謎に立ち位置は涼子が木の上、俺は地面だった。

涼子は木の上に立つのが好きなのだろうか。

上から目線とはまさにこのことだろう、涼子はふんぞり返って俺を見下して話し始めた。

「さて、あんたが無様に苦しんでいるうちに他のボディガードにお嬢様は預けたから一対一ってことになるわ。

品性下劣なあんたでもお嬢様がいることでその身分に見合う醜悪な言葉も使えなかったでしょうから何でも好きに言ってくれて構わないわ」

「はいはい」

俺はツッコむのも面倒だったのでさりげなく流すことにした。

「じゃあさっきの質問に答えて頂戴。」

「さっきの質問とは?」

「あぁ、さっきので少し脳を痛めつけすぎたかしら!?

品性じゃなくて頭も悪くなるなんて!!」

と大げさにおどけてみせる涼子。

だーれが品性下劣だ。

鏡を見ろ、鏡を。

でもそんなことを言ったらまたさっきみたいなお仕置きが来るかもしれないので

俺は下手に出て

「さっきの衝撃で忘れちまったんだよ。そういうのいいからさっさと教えろい」

「………フン!言い方がちょっと鼻につくけどいいわ、言ってあげる。」

気取ってるなぁ………全く。口には出さなかったがそう、思った。

「あんたが私という高スペックな妻を差し置いて

なぜ職も探さずにチャラチャラと若い女の子と遊んでいたのか。

それとあんたはロリコンなのか。

この二点よ。」

「ロリコンじゃないから!!」

俺は食い気味に否定した。

それだけは俺のなけなしではあるが名誉のために即座に否定した。

そんな俺の必死な様子を見てか

「ふーん、まあいいわ。」

と認めてくれたようだった。

「でも、じゃあなんで若い子とチャラチャラ遊んだりしたのよ」

と涼子は問うた。

これもロリコンというレッテルを張られないため………!!

俺は俺の名誉のために熱弁をふるう。

「お前が高スペックな妻かどうかは今のところ不明だが、tーーー!!!

うわああああああ!!いてえええええ!!」

「「おまえ」って何かしら?

あと私の「ナニ」が不明ですって?」

また例のアレを発動したらしい。

俺の頭が締め付けられる。

「次行ったらもっとひどく締め付けてあげるから!」

「………ふぅ。」

どうやら解除されたようだ。

やれやれだ。言いたいことも言えないこんな鬼嫁じゃ、毒だ。


 さてリテイクだ。俺はまた痛みで忘れかけた抗弁の断片を拾い集め、話し始める。

「さて、まず初めに言っておきたいのは

俺の認識として涼子は非常にハイスペックでかつユーティリティ溢れる

世界に二つとして、いや本来なら一つとしてない限られたたぐいまれなる女性であり

そして図りすら存在しようもないのであるが

例えとして男女のつり合いという意味で言えば

取るに足らない俺を拾ってくれた聖母のごとき存在であることをまずご承知のように思う。」

こつん。

どんぐりが投げられた。

しかしその見上げるところにある頬が真っ赤に染まる乙女の顔からしてまんざらでもなかったようだ。

うむ、なによりである。

しかしこんな歯の浮くお世辞くらいが丁度いいなんてな。

俺もやりすぎかななんて思っていたが、結構衝撃的だ。

あぁ、あっちも固まってしまっている。

抗弁を続けよう。

「そんな宝くじが二度当たったような俺にもう幸せがくるだろうか、いや来るはずがない!!

俺は生来ギャンブルというものはやらない性質であり

それは人生においても同じであるからにして

浮気などという愚に満ちた行為をやらないわけであって

つまるところあのお茶会は向こうから誘われていったものであるということだ。」


 少々わざとらしすぎたかもしれないな。涼子は引っ掛かるような顔をしている。

それにお世辞ならともかく自己弁護の言葉となると表面上では決してとらえられず

かみ砕いて解釈されたようである。

「お誘いがあっちからってのはわかったわ。

けどね、それに乗った時点で浮気と同罪なのよ!ど・う・ざ・い!!!!」

ふむ、そう来たか。

しかし俺は反論する。

「もう先のとおり俺はロリコンではない。

しかし泣いている子供を放置するほど子供に対して薄情な奴ではない!!

子供は確かに好きだ。けれどもロリコンではない。

つまりだ!俺は勇気を出して誘ってくれた子供に対して

その栄誉を称えないわけにはいかなかったんだ!!

わかるか?この俺の気持ちが。

か弱い少女、それも箱入り娘の踏み出す一歩を決して見逃さない俺の心意気と言う奴が!」

涼子の反応は

うーむ、と計りかねているようだった。

しかし俺もまだフィニッシュを決めたわけではない!!

ここからが本番なのだ!

「将来涼子も子供を産むだろう。

つまり今までの答弁は

その時の育児はこの俺が理解のある旦那として支えておくから覚悟しておけ、ということだ!

おむつの取り換えは勿論、送り迎え、寝かしつけ、ミルクの用意、あやしつけ

これらは全部俺が責任をもってやり遂げる!

これは義務じゃない、俺の希望だ!

やらせてくれるか?」

「………」


 なにやら無言でうつむいているが、決まったな。

俺の「秘儀・矛先ずらし」が。

ふふふ、連絡先を自分から教えたことはこれで涼子の中では「なかったこと」になる。

「………よ………」

ん?何か言っていたようだ。聞いていなかった。

「なんだ?はっきり言ってくれ。」

「なによ!!私だって子供大好きなんだから!!独り占めしないでよね!!

この馬鹿!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

………まさか怒られるとは。

しかしまぁそれは表面上の事だろう。

本心から怒ってないようで何よりだ。

そして涼子は頬を膨らませながら地面に降りてきて、俺の元へやってくる。

「もうほかの子と遊んだりしたら許さないんだから。」

チュッ。ガバッ。

キスとハグをされた。

やれやれ、しかし本当に連絡先の事はバレなくてよかっt………

「あぁ、あとそれとあんたお嬢様に自分から連絡先渡してたけどお嬢様の携帯からあんたの連絡先は抹消したからね。まぁこの事は今回は不問にしてあげる。」

ギュっ。

さて、この音は俺の体を締め付ける音か心を締め付ける音かどっちなんだろうね。やれやれ。



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