第十一話
「殺しに行くから待っていろ」
知らないやつが見たらただの殺害予告のメッセージだろう。いや、誰が見てもそうか。
俺はフミちゃんと別れてきたカフェから徒歩五分の所にあるネカフェにて潜伏していた。
そのネカフェは完全個室がなかったためオープンであるが故、またlineの開いて一番上のメッセージを開いてみると殺害予告がしてあるという恐るべき事態だった故に俺はビクビクしながら週刊誌のグラビアのページをめくっていた。いわずもがなその殺害予告の差出人はフミちゃんの護衛人である。
まぁフミちゃんがいまだに家に帰ってるとは思えないししばらくは大丈夫だろうと俺は予測する。
なぜかというと護衛人であるがため任務中に席を外すなどと言う行為をするとは思えないからだ。
ということでひとまず賢者タイムに入ったところでドリンクのお代わりを取りに行くことにする。
たまにすんごいメロンをぶらさげているお姉ちゃんがいるものだからマンガ喫茶はやめられない。
勿論何かすることはないが。犯罪だからな。俺はネットではエロに関して暴れることがあるかもしれないが現実では消極的もいい所なんだ。それに今の俺はもう「済ましてある」のでまぁ目の保養でいたらいいな程度にしか思ってはいない。
ドリンクのコーナーへ着くもコーラなどがあるのは入り口側であるがため少し歩く。俺の行く場所であるコーラのドリンク補充所(もちろんコーラ以外にもフレーバーはある)にはおそらく女が一人いた。そいつはかなり背が小さくマスクはつけていない。貧相な風体ではあるが美人と言う可能性もある。髪につやがあっていつも手入れしている涼子の髪みたいだ………ん?なんだか悪寒が………まぁ悪い予感がするがコーラの補充所へと俺は足を運ぶ。いつも傍らにあるみそ汁などのパックは利用者などがいるのだろうかなどと思いつつ歩いているともう目的地についてしまった。というかさっきからドリンクを補充しているようだがコップからあふれ出しているぞ。なんだ、やばいやつか?しかしその女はコーラのボタンを押しっぱなしなので言ってやらないと俺が困る。俺は勇気をもって話しかけることにした。
「あのーすみません。僕もコーラのドリンクが欲しいのですが………もうコップは満杯ですよ?」
「………」
無反応。依然としてボタンは押し続けたままでコーラが無駄にドバドバと排水溝へと直行していく。もったいない………というか店から見つかったら俺も怒られそうだな。早く止めないと。
「もしもーし?」
「………」
しかしかたくなである。状況は変わらず。店員でも呼ぶか?うーん、しかし大事にはしたくない。
ちょっと荒っぽいが手を離させてみる。グイッ!
手を引くとひよこの羽毛のように軽い体もつられて移動し、バレエのペアで踊る格好と言ったらわかるだろうか、つまりそ向き合う形になる。
そしてここでようやく気付いたことがある。いまだに髪の毛が邪魔をしてまともにその女の顔を見ていなかった。強気な姿勢と言うものは状況が知らない無鉄砲な者にしかできない特権であろう。
俺のその特権はその女の顔を見ると同時に放棄されることになった。その女とは………いわずもがな………
「………」
「………」
しっかりと向き合って敵意をむき出しにした顔での無言はさっきのとは意味合いが全く違う。
特権を失った俺は当然何も言うことができない。そして目を見ると石化してしまう蛇から目をそらすという咄嗟に出る反応のように俺の視線は相手の視線よりも下へ下へと行く。
しかし涼子の方が背が小さいため目をそらそうと下を向いても覗き込んでくる。
またいつしか俺の方が手をもってリードしていた状況から一変して涼子のパワーの方が俺の手の力より勝り向かい合う姿勢から外れたくても外れられない状況へとなっていた。
………逃げ場がない。
「あのーすみません。いいですか?」
膠着状態を解いてくれるのはいつも第三者と決まっている。
他の利用者からの声だった。流石に関係ない人を巻き込むわけにはいかないと判断したのか涼子は二つのドリンクを手にもつ、一つは自分の、もう一つは俺の。片方を俺に差し出して
「いくわよ」
といって手を引かれる。そしてずかずかと進んでいくため俺はドリンクがこぼれそうになりすこし飲みながら連行された。
大分ドリンクコーナーから離れたところで
「あんたのブース番号は?」
と言ってきた。嘘をついたところでもうどうしようもないので俺は正直に自白した。
聞き終わるとすぐに俺の手を引いてその番号のブースへと涼子は歩き出す。
最悪なことに俺のブースの周辺には特大のいびきをかいてるやつがいて、ちょっとドリンクを取りに行くために離れたぐらいではなり終わっていないようだった。しかしそのいびきでその「行為」の音がカモフラージュできたのでまぁ一時期は感謝していたのでが今となってはただの騒音である。
ただこれだけ他者との境界が隔たっているこの温かみのない空間でいびきが蔓延しているという異常状態がみんな体験しているとなるとなんだか親しみを持ってしまう、そんな哀愁が俺のブースにつくときに漂う。そしてその妙な一体感は不愛想に開ける涼子の手によって破壊される。
「なにこれ、くっさ。あんた、たまってるの?」
シーン。それは騒音よりも騒音であり、いびきよりも迷惑と言うかはっきりとした声と言うのは陰の者の空間では邪視されるものであり、って何を言ってるんだろうな俺は。まぁとにかくはっきりと澄んだ声で地帯が晒されたことで俺はとにかく恥ずかしかった。いびきも一瞬止まっていた瞬間であったが故に余計にだ。また再びいびきが再開されるもそのカモフラージュされている音の中には失笑があるに違いない。
そんなもじもじしている俺にイライラした様子で
「早くロッカーのカギ開けて貴重品取り出す!」
「は、はい………!!」
俺は行動をするから黙ってほしいという一心でカギを誕生日の数字に回す。
そして財布などを取りだすとまた手を引かれ涼子に連行されていく。レシートはもう涼子の手によって回収済みらしい。
涼子はまだブースがある部屋を抜け出さないうちに
「そんなたまってるんだったらラブホにでもいこうか?」
とあっけらかんに言いだすものだから
「ブフッ!!」
今度はいびきがある状態だったがはっきりと笑い声が聞こえた。なんだこの誰得の羞恥プレイは………
「今回のアレも~?あんたの射精管理を怠った私のミスなのかもしれないわね?」
涼子はハキハキとした猫なで声で俺をからかうように言ってくる。ときには俺の目をのぞき込んできたりもして。
「クスクス………」
まだまだブースのある部屋を抜け出していない。またまた失笑をもらってしまう。もうやめてくれ………
「フフフン♪思い知ったか!」
ご満悦の様子である。まぁ愛のある拳!とかよりはよっぽどましだ。俺はご機嫌な調子で手を引く涼子に従って漫喫から外へ出た。




