74.亡き知事の遺志
「みんなで『みたままつり』観に行こう。」
皆、次の言葉を待っている。
「兄貴。最初の『副詞句』忘れてない?『仕事絡みだが』。」
======== この物語はあくまでもフィクションです =========
============== 主な登場人物 ================
中津敬一警部・・・警視庁テロ対策室所属。副総監直轄。
中津[本庄]尚子・・・弁護士。中津と事実婚だったが正式に結婚した。(今回は出番無し?)
中津健二・・・中津興信所所長。中津警部の弟。実は、元巡査部長。
中津[西園寺]公子・・・中津健二の妻。愛川静音の国枝大学剣道部後輩。元は所員の1人だった為、調査に参加することもある。
泊哲夫所員・・・中津興信所所員。元警視庁巡査。元夏目リサーチ社員。
泊[根津]あき所員・・・中津興信所所員。元大田区少年課巡査。同僚の泊と結婚した。
高崎八郎所員・・・中津興信所所員。元世田谷区警邏課巡査。EITO東京本部の馬越と結婚した。
守谷哲夫・・・SAT隊長。
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==EITOとは、Emergency Information Against Terrorism Organizationを指す==
※大小3万の提灯・掛ぼんぼりが掲げられ九段の夜空を美しく彩る「光の祭典」
第78回 みたままつり 昭和22年に戦歿者のみたまを慰霊する為に始まった「みたままつり」は、東京の夏の風物詩として親しまれており、毎年多くの参拝者で賑わいます。境内には大小3万を超える提灯・掛ぼんぼりが掲げられ、九段の夜空を美しく彩り、期間中はみこし振りや青森ねぶた、吹奏楽パレード各種奉納芸能が催されます。 みたままつりの祭典は7月13日~16日 各日午後5時斎行(祭典参列をご希望の方は、午後4時30分までに参集殿参拝受付にて、受付をお済ませください)。また、本殿に最も近い御神域において参拝することができる「夜間中庭参拝」が行われます(各日午後5時45分~午後9時10分)。外苑「憩いの庭」・中央広場にてキッチンカーが出店(露店の出店はありません)。境内に掲揚される提灯はご奉納されたものです。大型献灯の申込はすでに終了していますが、小型提灯はお祭り期間中でも奉納することができます。奉納芸能のプログラムなど最新の情報は靖國神社公式サイトまたは、社務所までお問い合わせください。
開催期間
2025/07/13(日)〜2025/07/16(水)
みたままつり前夜祭 午後5時
みたままつり第一夜祭 午後5時
みたままつり第二夜祭 午後5時
みたままつり第三夜祭 午後5時
参列をご希望の方は、午後4時30分までに参集殿「正式参拝受付」で受付をお済ませください。
雨天時情報
天候による変更なし
時間
6:00~21:30
提灯への点灯は夕刻より午後9時30分まで
開催場所
靖國神社
会場
靖國神社
最寄駅
九段下駅 / 飯田橋駅 / 市ケ谷駅
所在地
東京都千代田区九段北 3-1-1
料金・費用
無料
(正式参拝 夜間中庭参拝 遊就館拝観は有料)
露店数
屋台・露店なし
7月13日 午前9時。会議室兼所長室。
マルチディスプレイには、中津警部が映っている。
「みんなで『みたままつり』観に行こう。」
皆、次の言葉を待っている。
「兄貴。最初の『副詞句』忘れてない?『仕事絡みだが』。」
「流石だな、健二。プライベートで行くとしたら、明日以降だな。」
「仕事絡み、ってことは、誰かの警護応援ですか。無理に褒めなくてもいいですが。」と、高崎は言った。
「明日以降にプライベートで行っていんだ。やたっ!!今日日曜で休日出勤だしぃ。」と公子が言った。
「躾が行き届いているようだな、健二。」
「警部。『中身』がまだですが・・・。」と、泊が遠慮がちに言った。
「みたままつり前夜祭は午後5時からだが、御池都知事が気まぐれ起こして、観に行く。というか参拝する。場所は靖国だ。当然、『参拝』反対派に狙われる。SATもSITも警邏も警備会社も総動員だ。そして、脅迫メールも都庁に届いている。まさかダークレインボウが絡んで来るとは思わないが、EITO東京本部も待機している。考え方次第だが、一つだけ、いいことがある。公ちゃんが言った通り、今夜無事なら、第一夜祭、第二夜祭、第三夜祭は無事ということになる。脅迫状には、『今夜』ではなく、『7月13日』と明記してある。詰まり、御池都知事が危ないのは、今日だ。今入った情報によると、玉串料を納めて参拝するのは午後3時だ。よろしくお願いいたします。」
警部は珍しく、最敬礼をした。
午後1時。靖国神社。
早めの昼食を済ませた中津興信所一行は、参拝を済ませ、SATの守谷と合流した。
午後2時。中津興信所所員は、各ポイントに散った。
出入り口は、警備会社や警邏警察官が守っている。
厄介なのは、マスコミだ。都庁にも警視庁にも「マスコミのスパイ」がいる。
「記者クラブ」という「出向所」があるのだ。中津警部達は、「マスコミのスパイ」と呼んでいる。
詰まりは、御池都知事は、スタッフ共々マスコミを引き連れて参拝しなくていけない。「私人か公人か」などと下らない質問をする記者は、漏れなく「隣国寄り」の思想だ。
健二所長は、いつも思っている。例え、『合祀』を解除しても同じだ。難癖付けて非難することは目に見えている、と。
午後3時。都知事は予定通り参拝を済ませた。
そして、お決まりの、『吊し上げ会見』。は午後4時からだった。
参拝直後だと『段取り』が悪いからだ。直後のような会見の雰囲気を作るのだ。
「私は、今は亡き、千原晋太郎氏の遺志を尊重したいだけです。姑息な言い訳はしません。」
数年前までは、多くの政治家のように靖国参拝を避けていたが、『那珂国依存』を止めた都知事は態度を改めた。
マスコミは騒ぎだした。
神社の、各所で爆竹が鳴った。
火花が飛んだ。
マスコミの何人かが、都知事に突進した。
身を挺して、都知事を守ったSP、SAT。
そして、健二が、泊が、根津が、高崎が、暴漢を抑え込んだ。
雷鳴が轟いた。
あっと言う間に午後5時になった。
イベントの雨天中止はない、と言われている。
だが、スタートを遅らせ、圧縮せざるを得ないだろう。
午後6時になった。
中津興信所の面々のところに守谷がやってきて、言った。
「イベントは午後7時スタートになりました。我々は、解散しますが、どうします?」
「帰ります。全身びしょねれで、冷えてきましたから。」
守谷は、敬礼をして帰って行った。
午後8時。中津家。
皆、入浴を済ませ、素麺を食べながら、靖国神社のイベントをテレビの中継で観ていた。
「明日さ。」
「皆まで言うな。兄貴が何言ってきても、明日はプライベートで行く。雨具買わないとな。」
皆、黙って頷いた。
どこかで、ドアが開いた。誰も気にしなかった。
―完―
「躾が行き届いているようだな、健二。」
「警部。『中身』がまだですが・・・。」と、泊が遠慮がちに言った。




