69.防犯カメラ
「ああ。堪らんなあ。82歳のお婆ちゃんが、82歳のお爺ちゃんをネクタイで首締めて殺したなんて。」
======== この物語はあくまでもフィクションです =========
============== 主な登場人物 ================
中津敬一警部・・・警視庁テロ対策室所属。副総監直轄。
中津[本庄]尚子・・・弁護士。中津と事実婚だったが正式に結婚した。
中津健二・・・中津興信所所長。中津警部の弟。実は、元巡査部長。
中津[西園寺]公子・・・中津健二の妻。愛川静音の国枝大学剣道部後輩。元は所員の1人だった為、調査に参加することもある。
泊哲夫所員・・・中津興信所所員。元警視庁巡査。元夏目リサーチ社員。
泊[根津]あき所員・・・中津興信所所員。元大田区少年課巡査。同僚の泊と結婚した。
高崎八郎所員・・・中津興信所所員。元世田谷区警邏課巡査。EITO東京本部の馬越と結婚した。
愛宕寛治警部・・・伝子の中学の書道部の後輩。丸髷警察署の生活安全課刑事。
久保田嘉三・・・誠の叔父。警視庁管理官。交渉案件があれば「交渉人」の仕事もする。EITO初代指揮官。
村越警視正・・・警視庁テロ対策室室長。
筒井[新里]あやめ警視・・・警視庁テロ対策室勤務。
山村美佐男・・・伝子と高遠が原稿を収めている、みゆき出版社の編集長。
高島軍平・・・フィットネスHTC富山勤務。大文字伝子の後輩。
富田・・・フィットネスHTC富山社長。
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==EITOとは、Emergency Information Against Terrorism Organizationを指す==
午前9時。会議室兼所長室。
マルチディスプレイには、中津警部が映っている。
「ああ。堪らんなあ。82歳のお婆ちゃんが、82歳のお爺ちゃんをネクタイで首締めて殺したなんて。」
「今朝の新聞に載ってるね。で。それが何?不審な点があるから、調査しろって?」
「健二。いつから超能力者になったんだ?その通りだよ。2人はな、健二。みゆき出版社の山村編集長の通っているフィットネスの会員なんだよ。知ってるよな。」
「知ってるよな、って、いつもうどん屋の割引券や蕎麦屋の割引券貰ってるじゃ・・・兄貴。それ、目当てで引き受けた?」
「やっぱりお前は超能力者だ。」「推理だよ、推理。」
午前11時。フィットネスHTC富山。応接室。
山村編集長が、富山に高崎と泊を改めて紹介した。既に愛宕警部も到着していた。
「前にオンラインレッスンの時に殺人事件が起きたので、全て予備のサーバーに録画をしています。それと、任意ですが、会員のお宅に防犯カメラの設置をお願いしてあります。」
「編集長。倉敷さんのお宅は?」と愛宕が尋ねた。
「それがね、警部。一昨日設置したばかりなの。私の知り合いの工務店だから、私も立ち会ったわ。」「場所は?」「聞かれると思って、用意してきたわ。工務店さんが作った見取図よ。」「じゃ、警視庁に送ってください。」
「でも、なんで大事になってるの?」「実は、マスコミには戒厳令を敷いてありますが、似たケースの事件が神奈川県警下で起こっているんです。それに、被疑者の倉敷智寿子さんは、全くしゃべらない。ネクタイの指紋は、被害者の、夫の誠さんと智寿子さんだけ。ネクタイは状況証拠です。」
「じゃ、警部。我々はカメラのある現場に向かいます。」
高崎と泊がエレベーターに向かう途中、怒号が控え室から聞こえ、高島と富田に罵声が浴びせかかる様子が見えた。
恐らく、また殺人事件が起きたので、退会するのだろうな、と高崎はぼんやり思った。
午前10時半。西東京市。倉敷家。
到着した泊が、高崎に言った。
「ここ、遠くないですか?」「ああ、遠いな。だから、引っ越した後もオンラインレッスンを続けた。警部からのメールによると、レッスン中、2人は襖の向こうに途中退席している。6分30秒だ。そして、1人で帰って来た智寿子さんは、ぼうっと座っていた。別れよう。」
2人は、黄色いテープの前で張り番をしている巡査に名刺を見せ、山村から渡された見取図の場所に行き、3台のカメラごと録画SDを回収してきた。
午後1時。警視庁テロ対策室。
新里が、回収してきた録画と、神奈川県警から送られてきた録画を再生した。
「似てますね。警視正。」
村越は唸った。
「神奈川県警の案件は、夫婦が娘さんとスマホのテレビ電話の最中に来客があって、中座したんだが、いくら経っても繋がらない。不審に思った娘さんが訪ねると、無理心中らしき遺体を発見した。山村編集長が愛用しているフィットネスの案件は、6分30秒の空白時間がある。状況としては、夫人がネクタイで絞め殺したように見えなくもない。フィットネスは元々外科クリニックの併設で、オーナーは院長だ。山村さん経由で夫妻が通院していたなら、カルテがある筈だから、問い合わせてみた。夫人は、ネクタイを普通に締める握力はあっても、絞め殺す程の握力はない筈だと言っている。更に、現在通院している病院の院長も同じ答を返してきた。」
「明らかに、同一犯人または同一犯人グループによる犯行です。」
久保田管理官と中津警部が入って来た。
「見るに見かねて、というところか。警視庁宛のメールに『闇サイトハンター』からの『タレコミ』です。『汝の隣人を殺めたまえ。』という闇サイトの募集が数日前、あったようです。」
「財産ですかね。両家とも、『生前贈与』で揉めていた。夫婦が喧嘩をしていた、という倉敷さんの隣人の資産状況を調べてきました。健二。倉敷家は塀が高いそうだな。」
中津警部の質問に、「泊達がカメラを回収してきた時、カメラは必須だったな、と言っていたよ。」と健二は応えた。
事件は急展開した。
倉敷智寿子は、元々軽度の認知症を患っていた。
被疑者の上条仙吉は、2人とも殺そうとしたが、事態が把握出来る状況でないことで、放置した。
もう1人の被疑者、上条英一は、やはり隣人を狙っていた。
隣人の大和家には防犯カメラがなく、立派な植え込みがあった。
兄弟は、時間を合せて決行した。
だが、アリバイ作りは不要だった。物音に気づいた家人が出てきた所を一気に殺したが、直前の時間が判明していた。倉敷夫妻が参加していたオンラインレッスンと、大和家の娘のスマホだ。そして、倉敷家の防犯カメラで仙吉の下半身が映っていた。
被疑者兄弟の素行は、中津興信所の聞き込みで明らかになっていた。
午後4時。中津興信所。会議室兼所長室。
山村編集長からの差し入れの蕎麦を啜りながら、公子が言った。
「いいドライブになったわ。悪い事は出来ないものね。近所の奥さん達、簡単に話してくれたわ。女性警察官だったら、こうは行かないわ。あ。あきちゃん、元女性警察官だったっけ?」
「知ってて言ってるでしょ。あなたあ、パワハラされたあ。」
「ウチは、みんな仲良しだな。」と健二が言うと、トイレから尚子が出てきた。
「呼んだ?」
「呼んでなあい。」
期せずして、皆は唱和した。
―完―
実際の事件を題材にし、参考にしましたが、文中の事件は起こっていません。フィクションです。




