64.盗まれた日記
マルチディスプレイに、中津警部が映っている・・・のでは無く、秘密の出入り口から入って来た。
「珍しい客人だろ。」後には、橘なぎさが立っていた。
なぎさは、いきなり皆に土下座をした。
======== この物語はあくまでもフィクションです =========
============== 主な登場人物 ================
中津敬一警部・・・警視庁テロ対策室所属。副総監直轄。
中津[本庄]尚子・・・弁護士。中津と事実婚だったが正式に結婚した。
中津健二・・・中津興信所所長。中津警部の弟。実は、元巡査部長。
中津[西園寺]公子・・・中津健二の妻。愛川静音の国枝大学剣道部後輩。元は所員の1人だった為、調査に参加することもある。
泊哲夫所員・・・中津興信所所員。元警視庁巡査。元夏目リサーチ社員。
泊[根津]あき所員・・・中津興信所所員。元大田区少年課巡査。同僚の泊と結婚した。
高崎八郎所員・・・中津興信所所員。元世田谷区警邏課巡査。EITO東京本部の馬越と結婚した。
橘なぎさ一等陸佐・・・EITO東京本部副隊長。結婚したての時に、夫は戦死した。つい先日、オスプレイのパイロットとしてアメリカの空軍から出向中のロバートと婚約をした。
宮田元准教授・・・感染症の研究家。EITOに救い出されてから、ヒットマンに狙われない様に、中津興信所地下にあるシェルターで研究をしている。
蛭田教授・・・毒の権威。普段は、池上病院の泌尿器科の医師をしている。院長の好意で、研究室を持っている。
天童[須藤]桃子医官・・・陸自からEITO東京本部に出向している。50年越しの恋を実らせ、天童晃と結婚した。
本郷隼人・・・EITOシステム部長。普段はEITO秘密基地に常駐している。
原田警部・・・普段は、EITO東京本部の司令室勤務。闘いの時は、後方支援として、敵のカメラを回収、折りを見て映像を解析している。
一ノ瀬悦子・・・なぎさが嫁いで、殉職した一ノ瀬孝の母親。
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==EITOとは、Emergency Information Against Terrorism Organizationを指す==
午後3時。中津興信所。所長室兼会議室。
マルチディスプレイに、中津警部が映っている・・・のでは無く、秘密の出入り口から入って来た。
「珍しい客人だろ。」後には、橘なぎさが立っていた。
なぎさは、いきなり皆に土下座をした。
「お願いします。探して下さい。」
「誰をです?」「健二。人じゃないんだ。モノだ。日記なんだ。」
中津警部は、経緯を話した。
池袋署から出てきた警部は、呆然として立ち尽くしている、なぎさを発見した。
取り敢えず、自分の車に連れて乗った警部は、重大な落とし物をした、と言うなぎさに驚いた。
こんな女性らしさがある人物とは思っていなかった。
いつも、EITO東京本部副隊長として凜としていたからだ。
「一ノ瀬の家に忘れ物を取りに行ったんですけど・・・気が付いたら、池袋駅で。」
「電車で行ったんですか。」「ええ。いつもプライベートはバイクで移動するんですけど、故障中で。今、ここの裏にある秘密基地で修理して貰っています。それで、『ときわ台』の駅に行って、トイレを借りて、電車に乗ったんですが、乗っていた間の記憶がないんです。」
「それで、極秘裏に探したいって言うから連れてきたんだ。本来の仕事だから嬉しいだろ?」
「兄貴。本来の仕事じゃ無いし、別に嬉しくはないよ。で、失ったモノは?日記って、業務日誌ですか?陸自の?EITOの?」と、健二は、なぎさに尋ねた。
「いえ。プライベートの日記です。表に『おねえさまと私』って書いてあります。」
『おねえさま』とは、大文字伝子のことに違い無い。EITOの要職だが、出逢った頃の呼び方を止めない。皆、黙認している。他にも『妹』がいることも関係する。
大文字伝子と『生死の境目』を越えた、仲間、つまりは『義姉妹』の契り(誓い)を交わしたから、絆は深い。
「じゃ、公子と根津は、ときわ台駅のトイレに行け。高崎、駅に忘れ物の届け出がないから確認。泊は、『忘れ物センター』に搬送中かどうか確認してくれ。」
健二は所長らしく、てきぱきと指示を出した。
そこへ、宮田元准教授が顔を出した。
騒いでいるから、何事か、と思ったのだろう。
話を聞いた宮田は、内科の医師がやるような、簡単な検査をした。
「何か、ショックになるようなことは無かったですか?舅姑さんとは仲が良かったと聞いていますが。」「いいえ。笑顔で出迎えてくれて、笑顔で送ってくれました。」
警部にスラスラと答えるなぎさを見て、「何かの薬物の影響かな?一時的な記憶喪失の場合、薬の副作用の場合があるんです。」
健二は、EITO用の内線で本郷を呼び出した。
「分かりました。理事官や大文字さんに内緒にしたいなら、取り敢えず須藤医官に来て貰いましょう。」
半時間後。須藤医官が、EITO東京本部からEITO秘密基地にやってきた。オスプレイを動かす訳にいかないので、原田警部がバイクで送ってきた。
「確かに。宮田先生の言う通り、薬物の影響かも知れない。こんなぼうーーとした副隊長は見たことがない。」
今度は、秘密基地のマセラティを駆って、本郷が池上病院になぎさを連れて行った。
池上病院には『毒の権威』の蛭田教授がいるのだ。
原田がバイクで、なぎさ、本郷、宮田、中津警部が、マセラティで池上病院に向かった後、次々と連絡が入った。
東京の忘れ物センターには、搬送中の日記らしきデータがない、ということだった。
ときわ台駅からは連絡が無かったが、公子達から連絡が入った。
「今、駅周辺は『異臭騒ぎ』でごった返しているわ。トイレには近寄れない。異臭元がトイレだから。今、新里警視に代わるわ。」
「新里です。時期が時期だから、サリンかも知れない、って騒いでいる。事件の日はもう過ぎているけど。」
午後5時。池上病院。蛭田教授の研究室。
普段は、泌尿器科の医師として活躍しているが、蛭田教授は池上病院院長の大学の先輩で、大学を追われた後、医師として採用、本来の研究が出来る様に、池上院長は、密かに研究室を用意した。
池上家は池上病院に隣接しているが、その反対側が池上病院院長の池上葉子の実家だった。
その跡地を開放したのだ。
「えらいことになった。須藤さん、院長。一佐の衣類に付着していた液、EITO大阪支部が関わった事件で採取された液、ときわ台駅で発見された液は一致する。これは、ビールスの水溶液だ。毒性がある。気化する最中に、詰まり、エアロゾル化した時に感染する。人から人へは感染はしないが、感染した者は一時的に体が麻痺する。マスコミに知られない内に、感染させている者を捕まえなくてはいけない。それは、EITOの使命だな。一佐。日記のことはどうでもいい。隊長に、おねえさまに報告しろ。」
蛭田の言葉に、なぎさは言葉を失った。
「私が弁護してやる。罪を感じることはない。」と、須藤医官は、なぎさの肩を叩いた。
「それで、先生。解毒剤は?」と本郷は、蛭田に尋ねた。
「可能だ。既にあるものを組み合わせればいい。どこの病院でも量産出来る。そして、予防策は、通常のビールスと同じ。手洗い、うがいだ。宮田先生。化学式書くのは得意ですよね。」
蛭田は、宮田を振り返って言った。
「多少は・・・。」と、宮田は苦笑して返した。
午後7時。中津家。
ざる蕎麦を食べながら、公子は健二に尋ねた。「それで、日記は?」
「一ノ瀬の家にあったよ。一佐のアパートに郵送したそうだ。取りに行って忘れるなんて、暢気な嫁ね、って笑ってた。」
「じゃ、ときわ台の駅トイレ探しても無駄だったんだ。」「ああ。『おねえさまと私』って日記、実は、空想日記だったそうだ。公子にも経験ある?」
「ああ。小学校の時に書いたわ。ベッドで教えてあげる。それから、大学、辞めたから。」
健二は、言葉を失った。
―完―
「可能だ。既にあるものを組み合わせればいい。どこの病院でも量産出来る。そして、予防策は、通常のビールスと同じ。手洗い、うがいだ。宮田先生。化学式書くのは得意ですよね。」




