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50.地獄耳

「黙秘を続けていたかと思えば、『世間に知らしめる為にやった』と言い始めたの。同情の余地なんかないわ。こんな奴の弁護、引き受けるんじゃ無かった。情状酌量の余地無し、よ。」

 ======== この物語はあくまでもフィクションです =========

 ============== 主な登場人物 ================

 中津敬一警部・・・警視庁テロ対策室所属。副総監直轄。

 中津健二・・・中津興信所所長。中津警部の弟。実は、元巡査部長。

 中津[西園寺]公子・・・中津健二の妻。愛川静音の国枝大学剣道部後輩。元は所員の1人だった為、調査に参加することもある。

 泊哲夫所員・・・中津興信所所員。元警視庁巡査。元夏目リサーチ社員。

 泊[根津]あき所員・・・中津興信所所員。元大田区少年課巡査。同僚の泊と結婚した。

 高崎八郎所員・・・中津興信所所員。元世田谷区警邏課巡査。EITO東京本部の馬越と結婚した。


 ================================================

 ==EITOとは、Emergency Information Against Terrorism Organizationを指す==

 ==エマージェンシーガールズとは、女性だけのEITO本部の精鋭部隊である。==


 ※モペットとは、ペダル付きの原動機付自転車(原動機付バイク)で、電動モーターやエンジンで走行できる二輪車です。フル電動自転車や電動バイクとも呼ばれます。

 モペットは、自転車と見た目が似ていますが、ハンドルにスロットルが備えられており、ペダルをこがなくてもモーターで自走することができます。

 一方、電動アシスト自転車は、ペダルを漕ぐ力に電動で力を足すことで「アシスト(助ける)」という名前が着いています。前者はモーターで動くことが可能ですが、後者は自走出来ません。バッテリー式の為、充電が切れたら動けません。モーターやエンジンはありません。

 前者は、所謂「原付」に相当しますが、後者は自転車です。従って、前者は免許が必要で、改正道路交通法でナンバープレートが義務づけられました。

 後者は、「自転車通行可」の区間の歩道を走れますが。前者はバイク仕様なので車道しか走れません。また、後者のバッテリーは機種が違うと流用出来ません。「電動自転車」という呼称は、マスコミが産みだした「誤解を招く表現」です。



 午前9時。中津興信所。所長室兼会議室。

 マルチディスプレイには、本庄弁護士が怒り狂って映っている。

「黙秘を続けていたかと思えば、『世間に知らしめる為にやった』と言い始めたの。同情の余地なんかないわ。こんな奴の弁護、引き受けるんじゃ無かった。情状酌量の余地無し、よ。」

 最後には、薄ら涙を浮かべている。

「お義姉さん、落ち着いて。お義姉さんらしくないわ。」と公子が言った。

「そうだ、落ち着け、尚子。健二。俺は何か『裏』があるんじゃないかって気がしている。ひったくりとしては、ペダル付きの原動機付自転車のケースは初めてだ。しかも、眼鏡ばかり狙っている。」

「つまり、兄貴。『闇バイト』に踊らされているとか?」

 中津警部は頷き、「最悪の場合はな。取り敢えず、被疑者である鴻上伊之助の交友関係を当たってくれ。2年前に目黒川高校を卒業している。」と言って画面は消えた。

 午前11時。目黒川高校。校長室。

 副校長が卒業名簿を持って来た。

「卒業名簿とか卒業アルバムって廃止した学校が多いと伺っていますが。」と高崎が言うと、「時代ですな。名簿屋を通じて悪さをする奴が多いから、本校も廃止しました。だが、校長は民間起用でしてね。元IT企業の校長らしく、2段階認証をした上で、本校のサーバーにアクセスさせるんです、卒業生には。どこ部活の写真が見たいとか、何組の写真が見たいとか、要望を記入したフォーマットで学校側に送る。そして、一時的パスワードでアクセスさせる。全体を見たい、という希望者、勿論卒業生や卒業生の家族がいたら、本校に招いて、この『再生卒業名簿』や『再生卒業アルバム』をお見せすることになっています。問題の鴻上伊之助くんは、2年前の卒業生で、競輪選手に憧れていました。実は、私のクラスでしてね。だが、運の悪いことに交通事故に遭いました。突然、道路に飛び出した子供を避けようとしたトラックが、近くにいた伊之助くんを撥ねて、骨折してしまった。大学は2浪したようで、まだ『ニート』状態のようだ、と同級生が言っています。」と、説明した。

 高崎と泊が、副校長に紹介してくれた同級生に会って話を聞くと、「先生の言う通り、不幸な事故でした。自暴自棄にならない方がおかしいですよ。2浪したのも、トラウマで勉強に身が入らなかったんじゃないかな。いつしか、普通に大学に進学した同級生を敬遠するようになりました。僕らは、どう慰めていいのか分からなかった。2ヶ月位前かな。町で偶然会いました。例のペダル付きの原動機付自転車、電動式バイクで飛ばしているのを見かけて、声を掛けたら、『俺のアシが出来たよ』って嬉しそうに言っていました。やっと、立ち直ったんだな、って思いましたが・・・。」

「その交通事故の子供、眼鏡かけてました?」

 泊が訪ねると、「いえ。」と、同級生は短く応えた。

「じゃ、トラックの運転手は?」と、泊は更に尋ねた。

「かけてましたね、そう言えば。あ、競輪選手になれなくなったことが分かった時、同じ病室の奴に馬鹿にされた、って言ってました。あ。そいつも眼鏡っ子だった。」

「ありがとう。助かったよ。」高崎と泊は、事務所に帰ると中津所長に報告した。

「トラウマか。何か決め手はないかな?」

「所長。決め手ならありますよ。警察を訪ねてきた女の人がいたって、警部から連絡がありました。」

「鴻上は悪くないって言ってすぐ、帰ったらしいんですが、脚が異常に太いって警部が言っておられたので、女子競輪選手を『日本競輪選手会』で探して貰ったんです。」と、あきが言い、「杵築真美選手が当該選手でした。彼女、明け方のモールで電動アシスト自転車に乗って走っていたんです。彼女の親友が危篤になり、自分の競輪練習用の自転車にはブレーキがないので、彼女のお姉さんの電動アシスト自転車を借りて全力で駆け抜けたんです。その前に走っていたのが鴻上伊之助だった。彼女は簡単に追い抜き、去っていた。彼女は、いつも習慣でサングラスをかけていた。普通は、サングラスかけて自転車に乗らないわね。」と、公子が言った。

「競輪諦めた青年が、本物の競輪選手に追い抜かれた。皮肉な運命だな。」と中津が言い、トイレから出てきた本庄弁護士が「情状酌量の余地無し、は撤回するわ。ありがとう、みんな。」と、ハンカチを振りながら言った。

 ここのトイレには、『用を足すトイレ』と『秘密の出入り口』がある。

 あきは、『用を足しながら聞いてたんだわ。地獄耳だわ』と思った。

 ー完―


このエピソードは、既に他のサイトで公開した作品ですが、よろしければ、お読み下さい。

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