49.バッシングの真意
「ふうちゃんの願いが、やっと叶ったな。」健二は、南部総子のことを『ふうちゃん』と呼ぶ。妹分みたいな『相棒』として、興信所の手伝いに来ていた時期があったからだ。
======== この物語はあくまでもフィクションです =========
============== 主な登場人物 ================
中津敬一警部・・・警視庁テロ対策室所属。副総監直轄。
中津健二・・・中津興信所所長。中津警部の弟。実は、元巡査部長。
中津[西園寺]公子・・・中津健二の妻。愛川静音の国枝大学剣道部後輩。元は所員の1人だった為、調査に参加することもある。
泊哲夫所員・・・中津興信所所員。元警視庁巡査。元夏目リサーチ社員。
泊[根津]あき所員・・・中津興信所所員。元大田区少年課巡査。同僚の泊と結婚した。
高崎八郎所員・・・中津興信所所員。元世田谷区警邏課巡査。EITO東京本部の馬越と結婚した。
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==EITOとは、Emergency Information Against Terrorism Organizationを指す==
==エマージェンシーガールズとは、女性だけのEITO本部の精鋭部隊である。==
午前9時。中津興信所。所長室兼会議室。
「健二。南部興信所とEITO大阪支部もネットで繋がったそうだよ。」
マルチディスプレイの中津警部の言葉に、中津健二所長は顔がほころんだ。
「ふうちゃんの願いが、やっと叶ったな。」健二は、南部総子のことを『ふうちゃん』と呼ぶ。妹分みたいな『相棒』として、興信所の手伝いに来ていた時期があったからだ。
まあ、2人とも南部所長の兄妹弟子ではあるのだが。
「今までは、スマホだったから1対1の話しか出来なかったが、お互い協力関係にあるんだからね、総子ちゃんを通じて。」
「こことは繋がるようにならないの?」と、公子が不満そうに言ったが、「草薙さんによると、どこもかしこも繋がると、どこかにハッキングされたら、『芋づる式』に攻撃されるらしい。だから、1対多ではなく、1対1のリレーが望ましいらしい。現に、EITO東京本部は、プロファイラーの偽物にハッキングされてたし。だから、南部興信所とは繋がっても、EITO大阪支部とは繋げない。」と、中津警部は言った。
「ふうん。」女性陣は異口同音で感心した。
「それより依頼だ。兵庫県知事が、逆転勝利再選を果たした佐藤さんに決まったことは知ってるな。そのバッシングをしていた評論家の壬生雅人氏の元に脅迫状が届いた。ご存じの通り、警察は『未然に防ぐ』のが仕事じゃない。SPを雇うにも理由が必要だ。そこで、君たちの使命だが、壬生氏を監視または狼藉・・・じゃないか、行動を起こそうとしている人物がいないかどうか、確認することにある。成功を祈る。尚、この映像は記録に残る。」
画面から警部が消えた。
「あなた、あの、お義兄さんの言い方、どうにかならないの?真面目にふざけてる。」
「ああいう人なんだよ、兄貴は。昔の映画の大ファンでね。」公子の不満に健二は応えた。
「壬生さんは、港区ですね。」と、根津が素早く壬生の住所を割り出した。
「よし。交替で張り込みだ。取り敢えず24時間。」
全員、身支度を始めた。
午前11時半。壬生邸。
張り込みを続けて1時間。動きがあった。
タクシーから降りて来たのは、異種違憲党党の大物議員、ハクビシンとあだ名される、白田圭祐だった。
そして、女性が2人、降りて来た。
録画しながら泊が言った。「女の方、サングラスかけていない方ですが、佐藤知事と不倫していた、と噂された女ですよ。」
「ああ。しかも、サングラスをかけている女は、かけていない女と瓜二つだ。」と、高崎が言った。
「なんで、双子って分かるんです?」「昔、双子と付き合っていたんだ。内緒だぞ。」
「了解。」
彼らが家に入ったところで、高崎は中津所長に電話した。
「成程。メールで取り敢えず送ってくれ。夏目リサーチの出番だな。」
午後5時半。中津興信所。所長室兼会議室。
泊と高崎、タクシー会社に聞き込みに行った公子と根津が帰ってきた。
「狂言かなあ、と最初思ったが、『告発』に近いな。佐藤陣営の誰かかな?壬生の黒幕が違憲異種党なら、不倫をでっち上げても、知事から引きずり降ろそうというのも分かる。南部さんから連絡があってね、パワハラ受けたって言っていた副知事が、違憲異種党とつながりがあることも分かった。出直し選挙も、対立候補の黒幕が違憲異種党かも知れない。今まで、違憲異種党に染まった知事はいなかったからな。」と、中津は言った。
「なんで、そんな悪巧みあいたのかしら?」と、公子が言い、「黒幕の黒幕が、大陸の向こう、ってことさ。大阪府で『操縦』を失敗したから、お隣さんに移ったってことだな。」と、中津が応えた。
午後11時半。中津家。
中津家は、中津興信所の奥にある。詰まり、ここは『店舗付き住宅』だ。
大文字家がいた時の構造を、全焼した建物にそのまま再現したのが、中津興信所であり、中津家だ。中津家の奥には、EITO秘密基地があり、地下シェルターには、宮田元准教授のラボがある。
『お釈迦様でも気がつかない』構造だ。
固定電話が鳴ったので、公子が出て、スピーカーをオンにした。
「今、久保田管理官から連絡があった。夏目リサーチで調べたところ、高崎の言った通り、女は双子。白田の正妻と妾、そして、2人は壬生の、腹違いの姉妹だ。詰まり、ネットの予想通り、嵌められて引きずり降ろされた。でも、県民は賢民だった。手腕はこれからだな、佐藤さんの。オールドメディアはまだ『疑惑がー』で通すんだろうな。阿倍野元総理も散々『死者に鞭打つ』スタンスだったからな。以上だ。明日は遅刻していいぞ。」
電話が切れると、中津は呟いた。
「遅刻って・・・俺の会社なんだけど。」
公子がクスクス笑って、寝室に消えた。
―完―
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