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僕とあかり

作者: りょう

① 16歳、夏


8月6日。その日から2人は始まった。

東北地方の有名な夏祭りに野球部の友人と僕は来ていた。帰ろうとしていると偶然出会った同じ高校の女の子グループに呼ばれた。


「あかりが話したいって」


そう言われてあかりの元へ。次の瞬間人生で初めての経験をした。


「好きです。付き合ってください。」


告白された。初めて。人見知りで女の子とどう接していいか分からない僕は、女の子とほとんど話したことがなかった。もちろんあかりもその1人だ。


そもそもあかりとはその時点で接点がほとんどなかった。クラスは別。だけどよく僕のクラスを訪れては他の人と話していたので名前と顔は知っていた。視線を感じたこともあったが気のせいだと思っていた。


告白された。どうしよう。答えが分からないまま、頭は回る。出てきた言葉は


「はい。よろしくお願いします。」


自分でもびっくりした。なぜそう言ったかは分からない。ただあかりは明るくて笑顔が素敵でそもそも断る選択肢がなかった。


彼女ができた。この僕に。しかしこの後どうすればいいのだ?何か話したとは思うが内容は全く覚えてない。それぞれ友人の元へ戻ってそれぞれ帰宅した。メールをした。


「今日はありがとう。これからよろしくね」


驚きと高ぶる心。そんな8月6日だった。


②16歳、冬


気づけば付き合って半年が経っていた。人見知りだった僕も流石に慣れてきた。特に大きな喧嘩をした記憶はない。お互いよく分からず付き合ったが少しずつ理解し始めていた。


あかりは付き合う前と変わらずよく僕のクラスに来ていた。付き合う前と変わったのは、明らかに僕に視線を送ってくるあかり、それに気付き恥ずかしがりながらも話に行く僕。周りはそんな僕らをいつもの光景だと認識する。


当時何を話していたんだろう。覚えていなくてもそれが普通になった、楽しみだった、学校に行く理由だった。


デートは学校から一緒に帰る。部活で遅くなる僕をあかりはよく待っていた。寒い中ずっと。そんなことに当時は気付けなかった。あかりの愛に。雪が降る中、学校前に止まるバスに乗り込む。隣にいるあかり。赤いマフラーが今でも頭の中に残る。


駅に着くとそれぞれの帰路へ。そんな毎日。これが2人の日常。今考えると幸せでしかない。先のことなんて考えなかった。だって、今に満足していたから。


③17歳、春


高校2年生になり、初のクラス替え。同じクラスにはならなかった。ただの憶測だが、カップルは別々のクラスになっているようだ。それに納得がいかない様子のあかり。


「同じクラスになりたかった!!!」


来年も別のクラスだったら同じこと言うんだろうな……。そんな姿が容易に浮かぶ。高校1年生のころはクラスが離れていたが今度は隣。すぐ会える。それだけで僕は嬉しかった。


当時の僕の家は川沿いの桜並木。地元では桜の名所として認知されていた。雪がない時期は自転車で登下校をしていた僕ら。当然下校ついでに観に行く。


満開の桜は透き通っていて美しく、それを見ているあかりもまた同じ様相だ。かわいい。単純にそれしか気持ちが出てこない。


4月は僕の誕生日もあり、初めて彼女にお祝いされた。手紙をもらった。付き合った当初からよく手紙をもらったが更に熱の込もった手紙だ。どうやら僕も10通に1通は手紙を返していたらしい。


こういう些細なことが「幸せ」なんだろう。お金とか物じゃない。気持ちを伝えって一緒にいる。それが愛だ。自覚がなかった僕を当時に戻って教えてあげたい。それだけで今の僕は大きく変わっていただろう。


④17歳、夏


季節は再び夏に。気付けば甲子園予選が終了した。

まさかの2回戦負け。

しかし、僕たちの代の始まりだ。

僕を含め補欠だった2年生の目の色が変わる。


そんな夏休みの8月6日、僕らはデートに。

場所はもちろん、あのお祭り。

あれから1年、女性経験がない僕はあかりをたくさん

悩ませたり、怒らせたりしたが2人の関係は良好に

続いていた。


このお祭りに来ると、小中高全ての友達に会う。

世間は狭い。友達と会うほどに恥ずかしいが

嬉しい気持ちもある。隣に大好きな彼女がいるのだから。


「来年もまたここでデートしようね!」


どちらが言ったか分からない。

きっとどちらも言ったんだろう。

言ってなくても思っていたんだろう。

秘めていたんだろう。


1年後、僕らはどうなっているのだろうか?

野球は?交際は?進路は?

人生の選択を迫られる多感な時期に僕らは

差し掛かっていた。

まだ、何も分からない、考えてない僕らだった。


⑤17歳、秋


待ちに待った修学旅行。

僕らの通う高校の行き先は京都、奈良、大阪だった。


基本的にクラスでの行動、クラスでグループが組まれるため

僕とあかりが一緒に行動できる時間はない。

同じ場所に向かってるのに、ほぼ同じ空間にいるのに

一緒に行動できない、そのもどかしさを強く感じた。


清水寺、東寺など格式高い仏閣を巡る。

当時高校生だった僕らはその本当の良さを感じることが

できない。

ただ、「修学旅行」という行事、時間に対しての酔い、

楽しみを感じるままである。


夜、抜け出そうとすれば会える。だって同じホテルに

泊まっていて別の階で過ごしているだけなのだから。

もちろん、そうしているカップルもいた。

だけど、しなかった。思いが小さいからじゃない。

気持ちが足りないからじゃない。僕の「野球部」

という立場、リスクを考えた上での選択だ。


あかりも納得していただろう。頭では分かっていたはず。

頭では。本心は会いたかったはずだ。僕だって

会いたかったよ。あかり。

日常で会えるけど、非日常で会いたかったよね。

当時の気持ち忘れてないよ。


会えない代わりに、清水寺付近で髪飾りを買って

後日渡した記憶がある。ほんの僅かな記憶だ。

それ、いつまでつけてたか今度教えてくれない?


⑥18歳、春


厳しい冬を超えて僕らは最終学年になった。

クラス替えの結果はもちろん、別のクラス。

またもや隣のクラスだった。


「なんで???????」


と予想通りのあかり。

一年前の記憶が蘇る。ああ、この結果は誰でも

予見できたなあ。ほっこりな気持ちと残念な気持ちが

同居する。


野球の調子はというと、チームは相変わらずどん底。

僕らの学年に個々の力は無かった。下級生の方が力が

ある。秋に続き初戦負け。県大会にすら出られない。

残り期間で何ができるのだろうか…。

個人的にはたまたま結果を残しレギュラーを獲得したが、

チームが勝てなければ意味がない。

残り期間で何ができるだろうか、チームで自問自答する

日々。今考えればそれは貴重な財産だった。


野球部の仲間とは今でも定期的に交流がある。あの時の話しは何歳になっても酒のツマミだ。永遠に飲める。


そんな中、事件がおきた。

きっかけは学園祭。焼きそばの出店を出すことになった

僕のクラスは団結を強めていた。


男子4名、女子2名が中心となり出店を回すことに。

この6人での時間が増えていた。

それを心の中ではあまりよく思っていないあかり。

気持ちは分かるがこの2人には彼氏がいるし

僕としてはやましい気持ちは一切ない。


そんな中、6人で学園祭前日に泊まりがけで準備しようと

誰かが言い出した。これは参加していいのか?


「あかり、こんな話があるんだけど行ってきていいかな?」


「うん、いいよ」


よく考えれば強がっていただけで行ってほしくなかったん

だろう。彼女とも泊まったことがないのに、急にそんなことしたら嫌だよな。


学園祭前日は予定通り参加。もちろん断じて何か起きた

なんてことはない。普通に青春を楽しんだ。

翌日は学園祭当日。あかりの様子がおかしい。話しかけても

無視。ああ、これは怒ってるな。察する僕。

あかりの気持ちを考えれば自重するべきだったかもしれない。当時の僕にはその選択肢がなかった。


結局一日中話せず、夜にメールで謝る僕。


「別れたい」


と返信。衝撃ですぐに返信できなかった。そんなに傷つけていたんだね。分からなかったよ。あの時ごめんね。

突きつけられた事実を受け入れられず、結局夜は返す言葉がなかった。


翌日は他校に練習試合に。バスに乗っているなか仲間にこのことを話す僕。相談することで気持ちの整理がついた。覚悟はできた。バスの中で泣きながらメールを打つ僕。


「あかり、今までありがとう。一昨日のことはごめんね。

信じてもらえないかもしれないけどあかりのこと大好きだよ。この気持ちだけ最後に伝えたかった。嘘じゃない。信じて欲しい。本当にありがとう」


送信するとスッキリした気持ちになり練習試合に向かう。僕のプレースタイルは、何か起こるとネタにして自分を鼓舞するタイプだ。仲間に、


「失恋打法行きます!!」


と宣言する僕。その日は3塁打を含む猛打賞の大暴れ。

春にレギュラーになったがまだ安心できない立場だった僕。だがこの試合で大きく爪痕を残し夏へと弾みをつけた。どん底をずっと飛行していたチーム状態もやや上向きに。この時はあんな夏になるなんて思わなかったけど予感はしていた。


帰宅するとメールがきていた。あかりからだ。

怖くて開くのをためらったが、メールを開封すると、


「別れるなんて言ってごめん。別れたくないよ」


安堵する僕。お互いに謝り関係を保った。

こんなことがありながら日々は進む。

かけがえのない時間が。でも、あかりが隣にいた時間は

残りわずかだった。


続く


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