第4話 名前の長さはともかく、実食っ
『湖畔に住むエルフがたまに物々交換してくれる絶品採りたてセロリを下に敷いて、赤いキノコがたくさん生えているおうちのおじさんが作ってくれた石窯で焼き上げた鶏の丸焼き』がやってきた。
……いや、それはテオが考えた名前だったか。
ほんとの名前の方が短かったな、と運ばれてくるその料理を見ながら、アーレクは思う。
そうそう、確か、
『湖畔に住むエルフがたまに物々交換してくれる絶品採りたてセロリを下に敷いて焼き上げた香ばしい鶏の丸焼き』――。
その丸焼きを、
「ごゆっくりどうぞ~」
と微笑み置いたクリスティアのせいで、より美味しく感じたのかもしれないが、丸焼きは絶品だった。
丸鶏は大胆に鉄鍋のままやってきた。
下に敷いているセロリや他の野菜から染み出す香りと出汁がいい具合に鶏に染み込んでいる。
そのジューシーさを残したまま、表面はパリッといい感じに焦げていて。
塩と質の良い胡椒がよく効いていた。
「……美味いな。
今まで食べた、どの鶏の丸焼きよりも美味い」
じっくりいつまでも噛み味わっていたい感じだ、とアーレクは感心する。
近くのテーブルを給仕していたクリスティアに、
「さすがエルフが入ってるだけのことはある」
と言ってやると、ははは……と笑っていた。
ゆっくり食べようと思っていたのに、あまりの美味しさに、あっという間に鉄鍋の中はカラになる。
セロリ自体はそんなに好きじゃないというテオも、鶏の出汁がたっぷり染み込んでいたせいか、すべて平らげていた。
テオと顔を見合わせ、頷き合うと、追加の料理を頼むことにする。
他のテーブルから漂う濃厚な香りが、『可愛いうさぎが住み着いている家のおじさんが絞った牛の乳と赤いキノコがたくさん生えているおうちのおじさんが育てている季節の野菜を使って作ったシチュー』だと知り、それを頼んだ。
そこでやめておこうと思ったのだが。
新たに隣のテーブルに座ったおじさんが焼き立てパンを頼んだ。
そのパンが割られた瞬間、ふわっといい香りのする湯気が少し冷えた森の空気に振りまかれる。
テオと二人、思わず鼻をひくつかせていた。
またテオと視線を合わせ、その『赤いキノコがたくさん生えているおうちのおじさんが作ってくれた石窯で焼いた白パン』も追加してしまう。
来るときに嗅いでいたシチューの匂いはやはり、このシチューだったらしい。
いい香りだ、とアーレクは運ばれてきた少し黄色がかったシチューを眺める。
黄色が強いのは『可愛いうさぎが住み着いている家のおじさんが絞った牛の乳で作ったチーズ』が大量に入っているからのようだった。
いい感じに濃厚だ。
季節の野菜は、ほくほくしたじゃがいもと、甘味たっぷりの玉ねぎ。
そして、新鮮なアスパラガスだった。