祝福された未来
結婚式当日は、朝から大粒の雨が降っていた。デヴィン曰く、結婚式に雨が降るのは神様が祝福してくれている証らしい。雨降って地固まるって言うし、とセスも笑っていた。
「えーっと、"カーティスとフランチェスカは、時々ケンカもするけど仲良くやっています……"」
「ちょっと、ケンカなんかしてないわよ」
セスはまるで自分の家のようにカーティスの書斎で寛ぎながら、何やら熱心に手紙を書いている。顔を出しに寄っただけ、なんて言っていつもこうしてのんびりお茶を飲んでいく。
セスはカーティスにすっかり懐いているし、カーティスもセスを実の弟のように可愛がっている。
「あ、姉さんが一方的に怒ってるんだもんね」
そう言われると人聞きが悪い。フランチェスカが頬を膨らませると、カーティスは「まったくその通りだ」と言って、声を上げて笑った。
カーティスはこれまで以上に何でも話してくれるようになった。前のように不安になることはないし、あってもすぐに解消される。
ついついケンカになることもあるが、デヴィンが言うには"喧嘩するほど仲が良い"ということらしい。
フランチェスカも同じように思っていた。もちろん、カーティスも。
「まったく……余計なことは書かないの。マチルダは元気そう?」
セスの手紙の相手は、何を隠そうマチルダ・フォンティーヌだ。あの一件がきっかけでマチルダとフランチェスカは友達になった。"身投げ騒動"も今では笑い話になっている。
「ああ、元気そうだよ。これから彼女の屋敷に迎えに行く所。オペラを観に行く約束をしてるんだ」
「それなのに今から手紙を書くのか?」
それまでセスがお土産に持ってきてくれた本を熱心に読み込んでいたカーティスだったが、少し驚いたように顔を上げた。
「マチルダは筆まめだから。返事が追いつかないんです」
カーティスはその言葉に感嘆の溜息を吐いた。彼もフランチェス同じく、手紙が苦手なタイプの人間だったからだ。
「まったく、すっかり仲良くなっちゃって……」
「言っただろう、思い掛けずに友達になれることがあるんだって」
「なあ、あの馬車ってマチルダじゃないか……?」
カーティスが窓の向こうをそっと指差した。見覚えのある馬車が門の向こうに見えている。
「マチルダ様が、「セス……!」」
お見えになっています、と言うデヴィンの言葉に被せるように、マチルダは光の速さで部屋に飛び込んできた。
「フランチェスカ、カーティス……! お元気だったかしら?」
ここまで走ってきたのだろうか。マチルダは頬を赤く染めながら肩で息をしている。
「マチルダ……迎えに行くって言ったのに」
「だって、貴方の手紙に書いてあったから。"姉の所に顔を出してすぐに迎えに行きます"って。それって、"早く会いたい"って意味でしょう? ……ああ、私ってば、またやってしまったみたいね」
マチルダはセスからの手紙を大切そうに胸の前で抱き締めながら、大きく天を仰いだ。
「"迎えに行きます"は"迎えに行きます"って意味です」
セスは困ったように微笑んだ。
「"早く会いたい"は、手紙の最後にちゃんと書きましたよ」
「あら、私ったら最後まで読んでなかったわ」
マチルダは再び手紙を開くと、その一文に気付いたのか頬をより赤く染めていた。
「大体、なんなんですか。貴方の手紙の返事は"了解"と一言だけ」
「"了解"に全ての言葉の意味を詰めたのよ」
二人はしばらく見つめ合っていたかと思うと、少し遅れてまた同じようなや微笑みあっていた。なんだか見ているこっちがむず痒くなってくる。
「……あの二人は恋人同士なのか?」
「私は友人だって聞いてるけど」
「私はマチルダ様から"ソウルメイト"だと聞いております。ソウルメイト、それは即ち魂の伴侶……運命のお相手ということですね。例えばですが、前世で、」
デヴィンは相変わらずおしゃべり好きだ。止まらなくなる前にと、セスは小さく目配せをした。
「それじゃあ、僕たちはそろそろ」
「今度みんなでゆっくりお話しましょう。こちらにも是非遊びに来てね」
またね、と手を振るマチルダの反対の手を、セスがしっかりと握り締めていたことに、まだ誰も気付いていなかった。




