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9 確信と物証の狭間で

 

 考えれば考えるほど真意が見えない。


 もういい。悩むのならば剣を振りながら考えよう。そう思い演習場へと足早に向った。

 もともとリリックは一所で考え込むより、体を動かしながら頭を働かせるほうが性に合っている。


「あ、隊長。その後何か進展ありましたか?」

「いや」


 内部調査が入る事が決まった今は、ホイホイとこちらの考えを口には出来ない。


「まぁ、今日の今日ですからね。それと聞きましたか? 今日あの眼鏡令嬢が休みなんですよ!」


「そんなに騒ぐことでもないだろう。確かにこの半年、」


 ……半年?

 ……強風で不都合がでた?

 自分の口からでた言葉がやけに引っかかる。


 リリックは令嬢がいつも座っている辺りをじっと見た。そしてそちらに背を向け反転して演習場を見回す。


 まさかな……。

 そう思ったと同時に駆け出した。湯殿へと。


 ここにハンナがいたなら「お見事です」と言ったであろう。



「おい! あの眼鏡のこと知ってるやついるか?」


 周囲の者は、リリックの言動について行けず皆ポカーンとしている。


「もういい! ちょっと見学席確認してくる」

「隊長自らが行くんですか?」

「なんだ問題でもあるのか」

「大ありです。隊長があちらに行くとお嬢様方がパニックになると思われます」


 チッとどこからか下品な舌打ちが聞こえたが、皆知らんぷりし、空耳として処理する。


 強風が収まってきたからか、また集まりだした令嬢たちを忌々しそうに見ているリリックだが、見学自体に文句をつけるつもりはない。

 実際騎士の結婚相手がこの見学を経て見付かっているのだ、長い目で見れば上手くできた策だとは思う。


 ただリリックにとって迷惑なだけだ。


 母親の美貌を色濃く受け継いだリリックはそれはそれは幼少期から羨望の的だった。

 そして青年になる頃には、恐ろしい事に女性だけでなく、老若男女問わず籠絡していった。無意識に。


 国王から「女だったら是非王妃に迎えたかった」と言われたときは、男で良かったと思ったし王女がいなくて良かったとも思った。

 しかし同じ男から熱い視線を向けられるようになると身の危険を感じ鍛えまくった。そして騎士団に入り、それが過ぎて上り詰めてしまった。


 だからリリックが行けばパニックになると言われてしまえば、しょうが無しにでも納得し、午前の見学が終わるまで待つしかない。


 護衛探しの見学ならば日中はいつでも出入りできるが、殿方探しと家族の見学は午前だけと決まっていた。貴族令嬢が殆どとはいえ、平民出の騎士の家族や恋人もくる。その者たちの行き帰りを案じると演習場までの道は必ずしも安全とは言い切れなかった。


 切り崩した見学区画を作ったせいで、演習場への道が変に入組んでしまい、人目に付きにくい場所ができてしまったせいだ。

 騎士団の管轄とはいえこれは良くない。寧ろここで何かあっては大問題となる。だから護衛をその道に立てる関係でご令嬢の見学は午前だけとなった。

 そこの警備に人を取られたくないのが本音だ。


 と、言うことで、ご令嬢たちが帰るとすぐさまリリックは見学者席の、ある一点へ向った。

 そう。いつもフルールが座っていた席だ。

 

 しかし結論から言うと、そこへ座ってもリリックの思うような視点にはならなかった。

 湯殿の入口は確認できるも中は見えない。木の葉が上手いぐあいに隠してしまう。横から伸びた枝に青々とついた葉が。まるで宙に浮いた衝立のようだ。かなりの確信を持っていただけに納得がいかない。

 あるいは冬になれば葉は落ちるだろうが、それでも枝が邪魔をする。そもそも冬を待たずに既に描かれているのだ。春に入った新人たちの裸体が。

 おかしい。肝心の尻が見えなければ、追求出来ない。


 リリックはこのとき既に眼鏡の令嬢が関係していると確信していた。だが物的証拠がない。アングルが似ているだけでは弱いし、言い逃れができてしまう。他の席でも同じようなアングルが取れることは取れる。


 そして何よりも、誰もその令嬢がスケッチブックを持っている姿を見たことがなかった。

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