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41 ドラマチックな恋模様~物語はこうしてつくられる~


「なんて! なんて聞いたのステラド様は!」


 心の声を彼女が代弁してくれた。


「『リリック様が女性を愛馬に乗せたと言うのは本当ですか?』って直球だったそうよ」


「さすがステラド様だわ。勇気があるわよね。そしたら? そしたら公爵様はなんて?」


 うんうん、とフルールも頷く。

 気づけばミルも前のめりになっている。


「『どこでそんな話を聞いた』っていわれたそうよ」


「それで話は終わったの?」


「うんん、そしたらステラド様が『みんなが噂しています』って答えて『本当なのですか?』って再度聞いたんだって」


「うん、そしたら?」


「そしたら『もしそうだとしても君には関係ない。そしてわたしにも関係ない。今更なにを言っても同じだ』っていったんだって~」


「ええええっ! それって……」


「そうなの! ()()ってことはついこの前婚約した婚約者のことじゃないわよね。だいぶ前からってことよね。しかも愛馬に乗せるなんて相当よ。つまり恋人って事でしょう? リリック様には長年付き合っている密かな恋人がいて、でもきっと身分のせいで結婚できないのよ。その恋人は下位貴族か、もしかしたら平民かも! 婚約が決まったリリック様に迷惑がかからないように身を引こうとしたのね、きっと」


「え、じゃあ……婚約した令嬢は?」


「かわいそうだけど隠れ蓑にされたんじゃない? だってそうでなきゃデビュタント前の顔も晒されてない人を選ぶ? それって後から恋人と入れ替えても分からなくするためだと思うのが自然だわ」


「でも、リリック様がそんな不誠実な婚約するかしら?」


「そこは公爵家と伯爵家よ? ある程度のイレギュラーな婚約でも受けるわよ。たぶん令嬢は何不自由ない生活と公爵家の後ろ盾を得たのよ」


 だいぶ脱線しているがちょいちょい合っている。



「一生遊んで暮らせるような環境も用意されているんじゃない? だからそれを条件に、愛人を囲うことを承諾したのよ。いわば契約婚ね」


「他国の王女様の申し出も断たって噂聞いたけど、もしかしてその恋人がいたから?」


「絶対そうよ! あ、もしかして、公爵家の私兵が出たのも恋人に関係あるのかな?」


「どういうこと?」


「だって、なにもなしに公爵家の私兵を出動させるなんて、おかしいわ」


「言われてみればそうね」


「駆け落ちをしようとしたのかしら? それを私兵に阻止されて泣く泣く戻って来たとか? そうかもしれないわ! だって昨日の剣術大会の決勝、リリック様がすこし変だったって言ってた人がいたわ」


「どんなふうに変だったの?」


「これは完全にまた聞きのまた聞きだから、ほんとかわからないけど、なんか別の事に気を取られて負けたんじゃないかって言ってたわ。終わったあとも、会場を見てたって言ってたし。もしかしたら駆け落ちをする恋人を招待していたのかも」


「でもリリック様が本気で駆け落ちをしたとしたら、逃げ切れると思うんだけど……」


「……そうね。リリック様が捕まる姿が想像できないわね。だとしたら、彼女が黙って身を引いてリリック様の前から消えたんじゃない? そうよ! その線が濃厚だわ! 本当は会場にいるはずの恋人がいなかったのよ。だから慌てて、私兵まで使って捜させたんだわ。公爵様が『今更』ていうくらいだから屋敷内では公認なのよ! ふんふん、だから彼女を捜しだせたのね! 普通顔も分からない人を見つけるなんてむりだもんね」


「そして居場所がわかり、リリック様が自ら迎えに行った、てところね」


「そうね。その帰りにみんなが目撃したのね。恋人たちを。ああなんて素敵なのかしら!」


 彼女たちは話すだけ話すと、満足したのか残っていたお茶をグイっとあおり、席を立った。ドラマチックに仕立てた、雑な情報だけを置いて。





「すごかったわねえ」


「……はい。お嬢様。私たちも出ましょう。けっこう時間食っちゃいましたし」


「あらいけない。そうだったわ。今日はおとなしくしてないと明日に差し支えるわね。急いで帰りましょう」


 フルールはそう言うと、行きと同じようにミルを馬車に押し込んで、リツギに猛スピードで帰るように告げた。


「明日が楽しみだわ。ガロンに会ってその帰りにリュイにも会いに行くの。ハヤブサも喜ぶわ。あ、もちろんリリック様のお礼が先ね。えっと、メアリーに教えてもらったことに、ハンナに言われたことをブレンドすると、えーと、リリック様の前では男性と話はもちろん目を合わせてもダメで、えーとそれから、あ、そうそう領地のことを話しても思い出してもダメっと、ふーリリック様の前だと色々と大変だわ。あら? でもリリック様は明日はお仕事なのでは?」


「お嬢様なぜ今嬉しそうなお顔をされたのですか? まさかリリック様がいない方がいいとか思っていませんよね?」


「まあ、そんなこと思ってないわ。ちょっとだけ席を外してくださらないかしらとは思ったけど」


 明日の付き添いはミルである。

 前途多難だとため息を吐く。

 本来このような時はハンナが付くのだが、昨日の剣術大会の往復に加え、あの騒動。腰痛が悪化したのは言うまでもない。

 そこでミルが志願した。

 昨日の果たせなかった任務を遂行するために。


「そう言えばさっきの子たち、顔がわからないと捜せないって言ってたけど、ガロンが捜しに来た時、ハヤブサを呼んでたのよ。どうしてかしら」


「えっ、ハヤブサを呼んだ? お嬢様じゃなくてですか?」


「そう。それでガロンの呼ぶ声にハヤブサが答えたの」


「確かにそれはなんとも不思議ですね。……あっ!」


 ミルは思い出した。

 屋敷にきたガロンが、手掛かりになりそうなことを聞いていたことを。

 その時リツギとなにやら話し込んでいたことを。

 ミルは思い出したことを、そのまま御者台のリツギに聞いてみた。


「あー、それね。いや俺てっきりお嬢様がふてくされて家出したと思ったからさ、お嬢様の名前で呼んだら返事しないと思ってさあ。だからハヤブサの名前で捜してもらった」


「だからってハヤブサが気づくとは限らないでしょ?」


「いや、ハヤブサはりこうだから自分の名前はわかってると思う。呼ばれるその声にもよるけど……」


 リツギは、サムから手紙をもらっていた。もらったといってもサムから直接手渡されたわけではなく、旦那様たちが戻ってくるとの知らせと一緒に来た、馬丁宛の手紙を受けとっただけだ。


 お嬢様の馬も一緒に行くのでよろしく頼む、からはじまり事細かに指示があるところをみると、だいぶ神経質な馬だということが知れた。

 その中のひとつに非常に気を引かれる文面があった。


 ──ハヤブサはメスだが、同族のオスを遠ざけ、人間のオスを好む。


 どういう事かとさらに読み進める。


 ──特に体格のよい、すこし低い声の男を気にする傾向がある。だから、四頭立てにする必要がある時は右手前に配置すること。間違っても先頭には入れないでほしい。人の声に反応して立ち行かなくなる時がある。お嬢様専用にするのが一番いいだろう。


 手紙を読んで、どれだけのじゃじゃ馬なんだと思った。

 同時に読んでおいてよかったとも思った。

 ハヤブサのような個性的な馬ははじめてで、サムからの手紙がなかったら、だいぶ苦戦しただろう。


「その手紙にあったんだよ。『ハヤブサはたくましい男の野太い声に反応するから、外に出る時は気を付けてくれ』って。確かに何度かそんなことがあったからな。手紙の通り、きまって男の野太い声に。だからガロンさんに試してもらったんだ。あの人ガタイもいいし、声もバリトンでハヤブサもお嬢様も好きそうだなって」


 大当たりである。


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