17 リリックの楽しい時間(2)
だがなぁ、と思う。
あの絵は……。
スケッチブックの緻密な騎士の絵とは似ても似つかない幼稚な花の絵。
嘘を言っているとは思えない口調と態度。そしてスケッチブックも異なるものだった。
リリックは庭に植わっている月桂樹を見る。
フルールが描いたのは縁起物として貴族の家にはだいたい植えられている月桂樹。だがどう見てもあの絵は月桂樹に見えなかった。
なんと言えばいいか解釈も困難を極めるが、角を立ててでも答えろと言われたらこう答える。
雑木林の中を火の玉が飛んでいたと。
聞くところによると、どうやら月桂樹の木とそこに咲いている花だったらしいが、リリックが想像力を総動員しての答えだから、見る人が違えばまた別の答えが返ってきても不思議ではないと思う。そのくらい、とにかく、本当に、お世辞でも上手いとは言えない絵だった。
その後に思い出されるのは真っ赤になったフルールの顔で、その顔は何故かリリックの胸に残った。
もしかしたらと思っているが、いや、そう思っているからこそ婚約した。もしあのスケッチブックがフルールの物だとしても何か訳があるはずで、その訳は謀反などであるはずがない。
仮に謀反を企んでいたとしても、リリックの監視下にあるとすれば、それはそれでどこから見ても収まりはいいはずだ。
こんな建前まで出てくるとは、リリックは自分が思うよりも、フルールに対して好意を抱いているのかもしれない。
リリックを見て顔を赤らめる女性は多いが、フルールは隣に座っても至極真面目に絵の説明をして、ブスくれた。赤面したのはリリックがそれを笑ったからだ。
思い出せば思い出すほど楽しい時間だったと思う。