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13 エーデル公爵家との茶会


「お天気が良くてよかったですわね」

「ええ、本当に」


 茶会は翌週早々に開かれた。それもナート家にて。向こうが出向くというものを拒めるわけもない。


 馬車から降りてきた公爵夫妻と、馬上からひらりと降りたリリックは玄関前で一緒になった。


 先週のあの日、リリックと入れ違いに帰宅した夫人に伯爵が事の次第を事細かに伝えると、このまま寝込むのではないかと思うほど顔色をなくした。

 その夫人は覚悟を決めた──と言うより、どこか振り切ったようだ。長女のフユリと三人、和やかな雰囲気で笑顔も見える。話しが弾んでいるようで何よりだ。


 二人の当主とナート家の嫡男もそれなりに領地の相談をし、リリックとフルールはフルールが見頃な花を見に誘っていた。

 二人が戻って、それぞれで弾んでいた話も落ち着いた頃、公爵が折り入ってと言葉を切った。


 フルールを除くナート家一同と、ハンナを始めとする茶会に控えていた使用人たちは揃って「きた!」と思った。

 これから伯爵家の末っ子の痴女の行いの数々をあげつらい、今後の付き合いを絶たれるのだろと息を飲んで待つ。


 ──だからわざわざこちらに出向いたのだろうし、最後とはいえナート家が公爵家に出入りしては後々何を言われるかわからないからな。

 わかる、わかるとこくりこくりと頷く伯爵。


 ──言ってから背を向ければそれで終わりだもの。迎え入れて苦言を呈してお帰りくださいでは、公爵家の皆様も後味悪いわよね。

 公爵家側に立ち考える伯爵夫人。


 ──母が倒れそうになったらすぐに支えよう。

 グッと力を入れる兄。


 ──フルールが泣いたら抱きしめてあげよう。

 既に泣きそうな姉。


 皆それぞれに思い、長男長女に至っては咄嗟の対応まで頭に入れていた。


「そんなに改められると、話しづらくなりますな、ハハハッ」


 公爵はこちらの気を読んだかのようにぎこちなくなる。これから言うことは確かに言う方も気持ちのいいものではないのでぎこちなくなるのもしょうがない。


「いえ、はっきりとどうぞ。もう、私たちは覚悟ができています」


 四人揃って神妙な顔で頷く。


「まあ、覚悟が出来てるなんてなんて喜ばしいことでしょう。あなた、ほら」


 弾んだ声で夫人が嬉しそうに促す。


「まあ、そうだな、もったいぶったところで意味ないな。もし、嫌なら嫌でいいからフルール嬢の正直な気持ちを聞かせてくれるかい?」


「わたくしの気持ちですか?」


 ん? んん?

 成り行きがおかしいとナート家の使用人まで含めた一同は思う。

 ハンナなど気持ち乗り出している。


「ああそうだ。どうだろう、リリックを婚約者にしてはくれないだろうか?」

「へ?」

「えっ?」

「ん?」

「なぜ?」

「えーと、わたくしでよろしいのでしょうか?」


 上から父、母、兄、姉、フルールの順で発した言葉である。


「ちょっと待て、何故俺は何も聞かされてないんだ⁈」


 声を荒げたリリックに伯爵家が揃って視線を向ける。


「当たり前だ、お前はフルール嬢に断られたら一生独身なんだから先にお前の気持ちを聞いても意味ないだろう? よもや好いた者がいるわけでもあるまい?」


 騎士団近衛隊長もこの場では形無しだった。

 ぐぐっと奥歯を噛むリリックとは対照に、おろおろするフルール。


「どうだろかフルール嬢。巷ではうちの息子は優良物件だと専らの噂らしいのだが、君のお眼鏡にかなうことは難しいだろうか」


 柔らかく微笑む公爵の顔からは凡そ想像できない言葉の数々が出てきた。

 自分の息子を優良物件と言いフルールの気持ちを尊重する。

 ことの成行きが思ってもみない方へ転がり始めると、伯爵家の面子はどうしていいかわからなくなった。

 なんせ、今後の付き合いを絶たれると思っていたのだ。


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