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12 リリックの訪問と尋問

 

「ようこそおいでくださいましたリリック殿」

「ナート伯爵、久しいですな。この度は急な前触れで失礼した。フルール嬢も久しぶりだな」

「リリック様、我が家へようこそ。どうぞこちらへ」


 玄関先まで父娘で出迎え、応接室までは他愛もない話をしながら、時には笑みも出たが、腰を下ろすとそれは一変した。


「フルール嬢は絵などは描きますか?」


 さすが騎士だ。話の流れを巧みに操り、気づいた時には自然と水を向けられていた。尋問とも取れるが──間違いなくスケッチブックの事だろう。

 父の心臓は今にも爆発しそうなほどドクドク言っている。ついに娘の変態ぶりが世に出て誰も貰ってくれなくなる時が来たのだと。


「絵、ですか? 写生はあまり上手くはないですがたまに描きます」

「どのようなものを描くのですか?」

「特に決めてはないです。見えたものを適当に」

「ほう、気になりますね。スケッチブックに書くのですか?」

「はい。あまりに上手くないのでお恥ずかしのですが、スケッチブックの紙質が好きなのです」

「ほお、紙質……ですか、そのような拘りは初めて聞きました。それは気になる。是非触らせて頂いても?」

「えっ、あの今ですか?」

「ええ、とても興味があります」

「……絵を、笑わないと約束してくれますか?」


 伯爵家の末っ子が、公爵家のご子息の要望を蹴ることは出来ない。伯爵は「あー、終わった」と思った。


 リリックはフルールの侍女が持ってきたスケッチブックを手にして、ゴクリと喉が鳴る。

 しかし、──目にした絵は思ったものではなかった。


「はっ? えっと、これは、フルール嬢が描いたものですよね?」


 そこに描かれているのはどう見ても五歳児の描いた絵で、令嬢が描くとされている絵ではない。


「そうです…。だから笑わないでくださいと申しました」


 ちょっとぶすくれた様子のフルールはいつもと違って新鮮だ。


「ふ、ふははは、いや、ごめん。これは絵ではなく、君が子どもみたいに膨れてて可愛いから」

「か、かわ、な、なにを言うのですか!」


 子どもみたいだと言われたフルールは羞恥からぷしゅーと言う音が聞こえてきそうなほど真っ赤になった。


 しばらく見守っていた伯爵は、なんだかわからぬが、思っていたのと違う展開にホッと胸をなでおろした。



「リリック殿、ところで本日は、どのようなお話で?」

「いえ、これといってないのですが、元々うちの使用人がナート家の使用人と久しぶりに会う約束をしていたそうで、そこに便乗させてもらいました。そして両親も久しぶりに会いたいと申しておりますので、もし、よろしければ両家でお茶会でもいかがでしょうか、との話を持ってきた次第です」

「お、おお、そうでしたかそれは嬉しい。是非喜んで。妻も喜びます。今日はあいにくお茶会に呼ばれておりまして不在ですが、上の二人も予定を合わせ、久しぶりに家族揃って御伺させて頂きますと、お伝え下さい」

 このタイミングで何故……。

 そう思わずにはいられないが、乗りかかった船だと勢い任せに伯爵は快諾した。


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