83.追い詰められたリレーナ達
リレーナ達の姿を捉えた同時に、魔物は襲い掛かって来た。
剣を抜き応戦するリレーナを助ける為、カイト達も剣を抜いて魔物を取り囲む。六人での攻撃を続け、ようやくリレーナが魔物の隙をつき、その首を切り落とした。
「やった!」
「魔物を倒した!」
喜んだカイト達の後ろで、ゆらりと影が動く。その気配に六人が顔を向けると、三体の魔物が、建物の影から顔を出した。
「ヒッ!」
息を呑んだカイト達は、後退りして行く。カイト達の前に立ったリレーナは、三体の魔物の動きを注視した。
襲いかかって来た魔物の爪を剣で弾く。牙を見せた魔物と対峙したリレーナの後ろから、カイト達の叫び声が聞こえた。
「リレーナ、危ない!!」
ハッとしたリレーナが横を向くと、カイト達の前に一体の魔物。そしてリレーナの背後には、もう一体の魔物が立っていた。振り上げられた爪に、リレーナの持つ剣が弾かれ、少し離れた場所へと飛ばされてしまう。丸腰になったリレーナは、慌てて腰に差してあった護身用の刀を抜いた。
ホダカが作ってくれた護身用の刀は、襲い掛かって来た魔物の手を、いともあっさりと切り落とした。
「凄い切れ味……。これなら、護れる」
リレーナは手を切り落とした魔物に、とどめを刺し、もう一体の魔物と向き合った。襲いかかって来た敵の牙を、避けると斬り付ける。
高まりを見せるリレーナの魔力が、刀へと流れていく。刀に打ち込まれたタリズムメタルが、彼女の風の力を受け、淡い光を放った。風に乗り、フワリと重力を減らした刀は、突風のような速さを得た。
速度が二倍になったリレーナの攻撃は、魔物の牙や爪の攻撃よりも、早く繰り出す事が可能となる。
敵の攻撃を弾き、隙を見つけたリレーナは、心臓をひと突きして敵に致命傷を与えた。
二匹目の魔物を討ち取ったリレーナは、カイト達の元へと駆け寄って行った。彼らを追い詰めている魔物を、横から攻撃する。横に一文字で切り付けた傷は、魔物の命を奪い去った。
「凄え……」
「リレーナの剣、凄いね!」
「これなら勝てるぞ!」
先程の戦闘で怪我を負ってしまったカイト達だったが、再び奮起する。だが、その喜びは直ぐに消え去った。
魔物の血の匂いが、他の魔物を呼び寄せてしまったからだ。また新たに現れた五体の魔物を見て、リレーナ達はゆっくりと後退って行った。
しかし反対側からも、魔物が迫って来た事で、その足を止めた。グルリと魔物達に囲まれてしまったリレーナ達に、もう逃げ場はなかった。
「一か八かしかないな……」
ポツリとセリオが呟いた。それを聞いたカイト達は、コクリと頷きを落とす。死を覚悟しながら、全員で一斉にその場から逃げ出すしか、道は残されていなかった。この囲まれた状態では、恐らく半分も生き残れない。
「リレーナ。みんなで一斉に逃げ出そう。運が良ければ、一人くらいは生き残れる。生き残った奴が、地下にいる子供達を連れて逃げるんだ」
「……そんな事、皆んなにさせられません。私の風で皆んなを飛ばします。着地は乱暴になってしまいますが、許して下さいね」
「リレーナ……」
誰かを犠牲にしなければ、この状況から生き延びる事はできない。そんな事は分かっていても、その決断がとても重くのしかかる。
覚悟を決めたリレーナが、子供達を飛ばそうとした……その時だった。魔物達が一斉に襲いかかって来た。
リレーナは慌てて風を巻き起こし、魔物の突撃を防いだ。しかしそれは、悪手となってしまった。風を止めなければ、カイト達を逃す事ができないからだ。
風を止めれば、魔物達に襲われる。
でも風を止めなければ、カイト達を魔物の向こう側へと飛ばす事が出来ない。
そして、リレーナの魔力が切れたと同時に、また襲われてしまうのだ。
「ごめんなさい。許して……」
涙を流すリレーナに、カイト達は笑顔を見せた。
「やれるだけ、やってみようぜ!」
「だよな!」
カイト達は、風によって足止めをされている魔物達を斬り付けていく。彼らの力では、まだ魔物に致命傷を与える事はできない。それでも諦めずに、一体ずつ狙って攻撃をして行く。
リレーナの使うフェアリーサイクロンは、本来持続型の魔法ではなく、単発型の魔法だ。技を出し続けるには、かなりの魔力を消費する。あっという間に、魔力が底をつき始め、風が不安定になって行く。
「お願い、助けて……。この子達だけでも、お願い。誰か、助けて……」
魔力切れが近く、頭がクラクラとしながらも、リレーナは踏ん張り続ける。彼らを守りたい。大切な人が愛した彼らを、守ってあげたい。
リレーナの瞳は、その手に持ったままの刀に移された。
あの日、赤く染めた顔で彼が手渡してくれた刀。誰よりも大切な人となった彼に、最後に会いたかった。私をいつも助けてくれた、あの人に……。
彼との思い出を振り返っていたリレーナは、彼との約束を思い出した。
『今度危なくなった時は、ちゃんと俺を呼べ。絶対に、助けに行くから……』
あの遺跡でウォルター達を倒した後、ホダカとそう約束をした。遠く離れた場所にいる彼が、駆け付けてくれるわけはないと分かっていても、心が彼を求めてしまう。
「助けて、ホダカさん!!!」
リレーナの声に反応して、刀に付いていたブラウン色の石が輝きを見せた。フワッと発光した石は、その呼び掛けに応えた男をこの場に移動させる。
発光が収まったと同時に、リレーナの目の前にはホダカが立っていた。
リレーナに渡した刀には、呼魔石が埋め込まれていた。まだグラフォイド家にいた頃に入手してあった、かなり純度の高い呼魔石だ。
王家の秘宝である持紋呼程の力はないが、ホダカが首からぶら下げているペンダントの呼魔石と連動させてあり、呼びかけに応じる事で瞬時に移動する事が可能となっている。ただし、使用回数はごく僅か。数回の使用で呼魔石が消滅してしまうので、注意が必要となっている。
召喚されたホダカは、目の前にいるリレーナに話し掛けようとしてハッとした。
背後にいる敵を瞬時に認識する。振り向きざまに、空間からドワーフハンマーを取り出した。
「ひとんちの庭で、何していやがる!!」
呼び出されたドワーフハンマーは、ホダカの怒りの魔力を受けてその威力を増す。
「超高速スキル発動!」
スキルを発動させたホダカは、ドワーフハンマーを思いっきり振り回す。あっという間に、リレーナ達を囲み込んでいた魔物達を一掃した。
そんな彼の姿に、笑顔を見せたカイト達が急いで駆け寄った。
「ホダカ!!!」
抱き付いて来たカイト達を、ホダカは順に撫でて行く。壊されている村の中を見回したホダカは、驚きの表情をみせた。
「一体、何が起きたんだ?」
「分からないんだ」
「なんか急に魔物達が襲って来て」
「あっちに凄く強い魔族が来てるんだ。ランフォルトさん達が相手をしているけど、強過ぎて勝てないみたい」
「そうか。分かった」
カイト達から離れたホダカは、立ち続けているリレーナへと歩み寄った。彼の姿を見ていたリレーナは、ガクッと力無く崩れ落ちる。サッと手を出して受け止めたホダカは、ギュッと彼女を抱き締めた。
「ごめんなさい……。私は、ホダカさんの大切な物を、全然守れなかったです」
「いや。リレーナは、ちゃんと守ってくれた。カイト達を、助けてくれてありがとうな。あとは、俺に任せてくれ」
「はい……」
ガクッと意識を失ったリレーナ。
彼女を抱き締めていたホダカは、みんなで住んでいた建物が壊されていく音を聞いた。今からカイト達が屋敷に入って地下を目指したとしたら、とても危険な事となる。
「地下通路への道はちゃんと閉じてあるんだな」
「うん。建物からの道も、ちゃんと閉じてから監視塔に行った」
「分かった。それなら、俺と一緒に北西の土地に向かおう。ついて来てくれ」
「「うん!!」」
ホダカは気を失ったリレーナを抱き上げると、カイト達と一緒に北西の土地を目指して、足速に歩いて行った。




