81.ゴウズを撃破
無傷で立っているバディウスの前には、膝をついている漆黒の長い髪に紫色の瞳をしたネーガスがいる。実力はバディウスの次に強い。彼が右腕である事は疑いようがなかった。
その彼の横には、魔獣の顔を持つゴウズが倒れ込んでいた。致命傷とまではいかないが、かなりダメージを受けているのが見て取れる。
意識を取り戻したゴウズは、体を起こして立ち上がった。
自身が主人だと定めたバディウスの前での醜態。怒りからギリギリと歯を鳴らし、サリューネを睨み付けた。
「雌の分際で、よくもこの俺に恥をかかせたな!」
グワッと口を開き、自慢の爪を剥き出しにする。ゴウズは、サリューネに向かって走り出した。
だが直ぐに、ゴウズ身体に向かって飛んで来た大きな鉄の矢が、殆ど三本同時に突き刺さった。
「ガッ!!」
痛みからふらついたゴウズの目に、弓を持つナーグリアの姿が映る。
その美しい弓の存在を見て、バディウスは「ほお……」っと、小さく言葉を溢して関心を寄せる。
「き、貴様……」
ゴウズは自身に刺さる弓矢を引き抜く為に、手を掛けたが、ハッと顔を上げる。
「「超高速スキル発動!!」」
彼の目の前には、白と黒のドワーフハンマーを振り上げジャンプした、二人のドワーフが迫っていた。
ターザリアとカリーヌは、敵の体に突き刺さる鉄の矢の根元を目掛けて、思いっきりハンマーを振り下ろした。
「グアアァァア!!!」
血飛沫が舞うゴウズは、空を見上げ悲鳴を上げる。
「高速スキル発動!」
空を映すゴウズの瞳は、ドワーフの男を捉えた。
敵の上へとジャンプしたランフォルトは、即座に空間から戦斧を取り出した。
今回取り出した戦斧は、通常の普通の斧よりも刃の部分がとても大きいのは勿論、かなりの重量がある。
重力とランフォルトの振り下ろす力を受けて、戦斧はその威力を増した。
敵の肩から斜めに振り下ろされた戦斧は、ゴウズの体を真っ二つに切り裂く。だが、それだけでは止まれない。地面へと深く突き刺さる事で、なんとかその勢いを止めた。
ドサッと左右に倒れたゴウズの後ろでは、バディウスが笑みを浮かべていた。やられると分かっていたゴウズを助けなかったのは、ランフォルトが空間から武器を出そうとしているのを見たからだ。
鋼鉄の肉体を持っていたゴウズの体に、難なく突き刺さった弓矢。ゴウズの身体だけではなく、大地をも深く切り裂いた戦斧。どちらも素晴らしい作品であり、是非とも手にしたい武器だった。
雌はハンマーしか持ってはいない様だが、雄はまだまだ武器を隠し持っているのが窺える。
上機嫌のバディウスに、回復薬を飲んだネーガスが歩み寄った。
「凄まじい威力を持った武器の数々ですね。ドワーフの作る武器と言うのが、ここまで凄い物だったとは驚きです」
「そうだな。雄も武器も、ますます欲しくなった」
彼らの瞳は、ランフォルトとナーグリアに向けられている。その瞳を受けたランフォルトは戦斧を仕舞い、ナーグリアを見る。
「ナーグリア。来るぞ」
「はい、坊ちゃま」
二人は空間へとその手を入れた。
取り出した玉をその手で握り潰す。パリーンっと砕け散った玉から光が発光し、その光はランフォルト達の体を包み込んだ。この玉は、玉の中へと入れられた防具を即座に着用させる玉だ。
発光が収まり、深い藍色をした戦闘用の防具に身を包んだ二人を見て、バディウスは歓喜の声を上げる。
「お前達は、どこまで俺を喜ばせてくれるんだ!」
ブワッと消えたバディウスは、ナーグリアの前に姿を現した。ハッとした二人の反応は、高速スキルをもってしても間に合わない。強烈な蹴りを受けたナーグリアの体は、村の塀の方まで吹き飛んでいった。
次に放たれたバディウス蹴りを、ランフォルトはその手にはめてある藍色の盾で防いだ。
「やはり硬いな。こちらも、なかなか良い盾だ」
余裕を見せるバディウスの後ろを、ネーガスが走って行く。彼の狙いはナーグリアだ。
「ターザリア、カリーヌ。ナーグリアを!」
「「はい!」」
サリューネは、指示を出しながらドワーフハンマーを振るう。彼女の方へと反応を示したバディウスを見て、ランフォルトも空間からドワーフハンマーを取り出して振り下ろした。
咄嗟に、二つのドワーフハンマーの攻撃をその手で受け止めたバディウスだったが、流石に二つの力を受け止める事はできなかった。吹き飛んだバディウスは、広場に立っていた倉庫を破壊して止まる。
少々のダメージを負い、首を回しながら歩いて戻って来るバディウスに、サリューネはため息を零す。
「もう少し、ダメージを負ってくれてても良いのに。やっぱり貴方はケチね」
「思っていたよりは、ダメージを受けたがな。だが、これで分かっただろ。お前達では、この俺に勝つ事は出来ない。さあ、私と一緒に来て貰おうか。お前達二人は、特に優遇してやろう」
「ふふっ。気に入った女相手に、手ぶらで求婚する様な奴はお断りよ」
「フンッ。やはり貴様は、可愛げのない雌だな」
サリューネは、チラリとナーグリア達の方の戦闘を見る。
三人での攻撃を繰り返してはいるが、少し敵の方が強い。自分とランフォルトならば、あの敵には勝てるが、この目の前の敵はそう簡単に突破させてはくれないだろう。
リレーナも、こちらの敵では無理だと判断し、彼らの元へと向かっていったが、彼女の強さでは戦力にはならない。
(ドラグスさえ、帰って来てくれたら負けないのに……)
彼が帰って来るのは早くて夕方。まだまだ時間はたっぷりとある。それまで持ち堪える事ができるのか。
不安でいっぱいになってしまう。
「この様な場所があるから、未練が生まれるのかもしれないな。ならば、これならどうだ?」
スウッと手を上げたバディウスから、漆黒の魔力が放たれた。その魔力は、西の森へと急速に広がっていった。




