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8.国外追放

 涙を拭う俺が扉から出た直後、二人の弟が後を追って部屋から出て来た。彼らと一緒に建物の外へと向かう。


「こんなのおかしい」

「絶対、おかしいよ!もう一度考え直して、兄さん!」


 俺を説得しようと、涙を流しながら訴え続ける弟達。ずっと一緒に生活をして来た弟達だが、俺は家の跡取りとしての修行が忙しくて、あまり構ってやれなかったな……と、今頃になって後悔していた。


 ずっと一緒にいるのだから、いつかきっと……。そう思い込んで先延ばしにし続けてきた、兄弟三人でのんびり仲良く過ごしてみたいと言う願いは、こんなにも突然アッサリと消え失せてしまうものだったらしい。


「もっと、お前達との時間を作ればよかったな……」


 ポツリと呟いた言葉に、弟達の嗚咽が激しくなった。玄関のドアを潜り、クルリと体を返した俺は、二人の顔を見つめた。


「俺はこのまま国を出る。だから見送りはここまでで良い。最後に一つだけ、お前達に頼みたい事がある」

「最後とか言うなよ……」

「なんでこんな事になるんだよ……」


 泣き止まない弟達を、黙ってジッと見つめていると、それに気が付いた二人は、ボロボロと涙を流したまま、俺の顔を見つめた。


「グラフォイド家を頼む!」


 俺は涙を堪えながら、弟達を順番に抱擁する。恐らくこれが今生の別れになるであろう事は、兄弟三人理解していた。弟達に最後の別れを告げ、そして俺は歩き出した。


 国外追放になる事は昨日のうちに覚悟していたし、旅に出る支度も昨日の夜のうちに済ませてある。荷物は全て異空間にある空間収納に詰め込んであるし、この世界の地図も入手したので、特に問題はない。


 一歩また一歩と歩きながら、もう二度と戻って来る事は出来ないだろう、大好きだった生まれ育った国にさよならを告げて行く。


 遥か昔、地下に潜って生活をしていたドワーフ達も、ここ数百年は地上に建物を作って生活する様になった。しかし、地下に造られた巨大な都市は今でも機能しており、俺達は地下と地上の両方を行き来しながら生活している。


 普段は混雑が少ない広くて大きな地上の道は、沢山のドワーフで溢れ返っていた。その全てが第三、第四血統のドワーフで、次々と地下から地上へと出て来ている。

 彼方此方で、飲めや歌えやの大騒ぎ。楽しそうに踊り、歌い、肩を抱き合いながら酒を飲む。


 和気藹々と楽しんでいる彼らの横を、俺はただひたすら歩き続け、先代達が作った素晴らしい作品『万物の創造』と名付けられた街の門の前に立った。


 様々な鉱物を使って作られたこの漆黒の門は、繊細で細やかな装飾の見事さはもちろん、大型魔獣やドラゴンの突進にもビクともしない最強の防御力をも備え持つ、強固な造りとなっている。未だ、全ての物質が判明していないほど、緻密な計算の元に材料を配合して造られた門だ。


 幼き頃、親父に連れられ、この門を見せられた時の衝撃といったらなかった。いつか必ず、この門に負けないくらい素晴らしい作品を作ってみせると、誓ったあの日。昔と変わらずに目の前に聳え立つ大きな門は、今でも俺の目標であり続ける。


 沢山の人達が行き交う人の流れを堰き止め、立ち止まってジッと門を見上げていた俺は、深く息を吐き、そして門を潜り抜けた。


 これでもう、俺はただのドラグスと言う国籍すらない一人の男となった。後戻りは出来ないし、許されない。


 気持ちが良い位、晴れ晴れとした天気の中、俺は自分の心を隠す様に、ずっと空を見上げながら、一人で歩き続けて行った。



◇◆◇



 ドラグスが出ていった後の会議場では、一言も発しないグラフォイド家の当主に視線が集中していた。そんな中、今まで沈黙を守っていたロードグリア家の当主が徐に口を開いた。


「本当にこれで良いのか?」


 彼の瞳は、真っ直ぐグラフォイドへと向けられていた。


 彼はこの会議で、ドラグスの処分など考えてもいなかった。立場上、有耶無耶にもできない事から、一応他家の当主として抗議の意を示し、グラフォイド家からの弁明を受けて、それなりの処分で済ませるつもりだったのだ。恐らく、国外追放を言い出したガリュウスト家側も、そのつもりだった筈。


 明らかに非の無い、あれだけの作品を作れる男を、このまま失うつもりなのか。お前の弁護さえあれば、彼への処罰はもっと軽くなるのに……。


 そんな気持ちの篭ったロードグリアの言葉を受けて、ジッと石の様に瞳を瞑り、沈黙を続けて来たグラフォイドが静かに瞳を開いた。そして動かし難くなった唇を、ゆっくりと動かす。


「ドラグスの処分は決定した。俺はこれで退席する」


 ガタッと席を立ち、廊下へと出たグラフォイドは、窓の外を見てその足を止めた。遠くなっていく自身の息子の背中に、ポロリと大粒の涙を零す。彼の後ろに続いて出て来た、親族一同も堪えきれない涙を流した。


 弁解を一切しなかった息子。彼が一言でも、自分は悪く無いと言ってくれていたのなら、父親として全力で守るつもりでいた。しかし息子は、それを望んでいなかった。それなら、その意思を無視して自分が動く事は出来なかった。


 今からでも追い掛けてしまいたくなる息子の背から、グラフォイドは瞳を逸らした。そして静かに、家へと帰って行った。


 グラフォイド家の者達が消えた長い廊下は、シーンと静まり返っていた。そんな静寂を、二回の大きな音が切り裂いた。


 会議室から聞こえてきた大きな音の正体は、防御力をかなり強化して作られた筈の豪華な机が、二人の当主の怒りによって思いっきり破壊された音であった。



暗くて悲しい空気は此処まで。

(早く終わらせたくて、少し駆け足でアップしました)


次からようやく、旅に出ます。

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