7.三つの家門、御三家
翌日。全てを無視して部屋に篭っていた俺だったが、急遽開催が決まった第一血統の臨時会議の場へと出席をした。
第一血統の中には、三つの家門がある。
ガリュウスト家、ロードグリア家、そして俺の家であるグラフォイド家の三つだ。
それぞれの家門の最高位に位置し、御三家と呼ばれている本家が集結。各家の当主が入室し、コの字型に置かれた机の三辺に、それぞれ険しい表情で腰を下ろした。彼らの後ろには、その家門に連なる者達がギッシリと座っている。
ドワーフの第一血統並びに第二血統は全て、この御三家の家門のどれかに入っている。その者がどの家門なのかを見分けるには、髪の色を見るのが一般的だ。
赤髪のガリュウスト家。
茶髪のグラフォイド家。
黒髪のロードグリア家。
こうして視覚的にはっきりと分かれている為、パッと見でどの家門なのかが判断出来る。だが、熟練者の老ドワーフになると、みんな白銀の髪と髭になってしまうので、見分けが付かなくなってしまう。その為、自分が使うアクセサリーや防具には必ず、自分の家門の髪の色を基調とした装飾や細工をし、身につけると言う習慣がある。
ちなみに俺の髪は焦茶色をしている為、俺が使う物や俺が作った物などには、ブラウン系の装飾が不可欠となっている。
今着ている服は俺の普段着なのだが、袖無しの白地の服にブラウンの布での切り返し、ブラウン系の糸での適度な刺繍、装飾が施されている。今日はたまたまズボンがブラウンなのだが、全体的に色を使うのではなく、ワンポイントや小物等で示す方法が、最近の主流となっている。
静まり返った部屋の中、コの字型の開いてる辺に置かれた立ち台に、俺は案内されていった。
会議は息つく間もなく始まり、臨時会議の開催理由が、進行役から告げられた。
第三血統が第一血統に勝利したと言う事実に、第三血統と第四血統がお祭り騒ぎをしているらしい。この異常で屈辱的な光景の責任を取らされるであろう俺を、グラフォイド家に連なる者達がなんとか守ろうと必死に弁護をしてくれている。
ジッと発言を聞き続けていた、グラフォイド家とは長年いがみ合ってきたガリュウスト家の当主が吐息を零し、そして発言をする。
「どんな理由があろうとも、第一血統が第三血統に負けたなどと言う不名誉な事態を見逃すわけにはいかない。ドラグス・グラフォイドの家名返上と、国外追放処分を提案する」
シーンと静まり返った会場内には、同意の声が上がらなかった。それもその筈。あの場には、ここにいる全ての者達が出席をしていたからだ。
今回の選定の儀をその目で見てきた彼らは、あのアーマーがどれだけ優れていたのかを知っている。ここにいる誰もが、あの選定の儀はおかしいと理解しているからこそ、同意の意思を見せないのだ。
俺への処分を口にしたガリュウスト家の当主ですら、その声に覇気が無い。誰も言葉を発する事なくシーンと静まり返った会場内で、今度は俺が口を開いた。
「ガリュウスト家の御当主の意見を真摯に受け止め、それを受け入れます」
「なっ、なにを……」
親父の声と共に、会場内に響めきが起こった。しかし俺は、そのまま言葉を続ける。
「ただ、今回のこの件は、ドラグス・グラフォイドでは無く、ドラグスと言う一個人のドワーフが起こした事であると、ご理解を頂きたく思います」
「……分かった。エルマデス・ガリュウストの名において、此度の件に、グラフォイド家は一切関わりないものとする事を約束しよう」
「ありがとうございます、エルマデス様」
「ただ……本当にそれで良いのか?」
エルマデスの瞳が、ジッと俺を見つめた。
刑執行に対して拒否する意志を見せよと、彼の瞳が告げている。しかし今の俺には、その瞳に応えるだけの気力がなかった。ただ、グラフォイド家が守られた事にだけは、心の底より感謝している。
「此度の件。いくら納得のいかない物だったにせよ、第一血統が第三血統に負けたと言う不名誉を、第一血統の皆様に与えてしまいました事、深くお詫び申し上げます。私は直ぐにでも、この国を去る事をお約束致します。ご迷惑をお掛けしてしまい、本当に申し訳ございませんでした」
俺は両足を揃え、深々と頭を下げて謝罪を示した。そして、部屋の外へと向かって歩き出す。
「ドラグス」
エルマデスの声が聞こえ、俺は足を止めた。振り返った俺に、彼が言葉を続けた。
「素晴らしい作品だった」
俺の体に、激しい衝撃が走った。御三家の一つであるエルマデス家の当主から頂いた名誉。他家の当主から評価を頂けることなど滅多にない事だ。俺が生きてきた中で一番だとも言える程、最高の評価であり嬉しい賛辞だった。
魂をすり減らし、持てる力の全てを振り絞って打ち込み続けた五日間。火山へと投げ込み消え去った、あのハーフアーマーを作り上げた事は、最高の陽の目を見る事となった。
「ありがとうございます」
深々と頭を下げた俺の頬を、熱い涙が伝い落ちた。これでもう何も悔いはない。
顔を上げた俺は後ろへと振り返り、部屋の外へと出て行った。