54.見た事がないイゴーヤ
次々と倒されて行くイゴーヤを見て焦った俺は、慌ててスキルを発動する。
「超高速スキル発動!」
風の様に早く走った俺は、リレーナの刀を叩き落とした。そして彼女を抱き抱えると、部屋の外へと急いで出て行く。
森の木々に囲まれた部屋へと戻って来た俺は、リレーナを地面へと下ろした。ポロポロと涙を流すリレーナに、俺はしゃがみ込んで目線を合わせた。
「大丈夫か、リレーナ」
「……は、はい。ごめんなさい、ホダカさん」
「えっと……。もしかしてリレーナは……」
「わ、私……蛇も、大嫌いなんです」
「ああ、やっぱり……」
俺はガクッと首をもたげた。
錯乱しながら剣を振り回していたリレーナを見て、もしかしたらとは思っていたが、まさか本当に嫌いだとは思わなかった。
しつこい様だが、エルフと言うのは、森と共に生きている種族だ。森の中で生活をしているのだから、普通に蛇や虫もいる……よな?
リレーナは一体どうやってここまで生きてきたのだろうか。ちょっとエルフの定義というものに、疑問を持ち始めている。
未だに震えながら怯えを見せるリレーナを見て、これじゃあ森での生活なんて、無理なんじゃ無いか?と思った俺は、ハッとした。
「ん?あれ?……えっ?まさか、リレーナがエルフの里を出た理由って……」
「虫や蛇が怖くて、森で生活できなかったからなんです」
「マ、マジか……」
予想外の理由に、俺はただただ唖然とするばかりだった。
◇◆◇
「えっと……。俺は部屋に戻って素材採取をしてくる。リレーナは此処で待っていてくれるか?イゴーヤの皮は、かなりの数が必要になりそうなんだ。あれ以上減らされてしまうと、足りなくなってしまう」
「えっ!?本当に、ごめんなさい!私は此処で待っているので、行って来てください」
「ああ。直ぐに終わらせてくる。この部屋にいるのなら平気だとは思うけど、何かあったら、こっちの部屋の中に入って俺に知らせてくれ」
「はい」
俺はさっき拾ったリレーナの剣を、彼女へと返した。出来るだけ一緒にいた方が、俺も安心出来るのだが、さっきの無双っぷりを見た後だと、連れて行くのはやめておいた方が良い気がする。
ただでさえ、この遺跡にしかいないイゴーヤの捕獲だ。ゲームとは違って、魔物の数は無限ではない。居なくなる事はないにしろ、倒せば倒すだけ数が減ってしまうので、採取する時は、注意が必要だ。
入り口を封鎖されてしまったこの遺跡に来られるのは、二年後となるので、なんとか今回で必要数を集めたいと思っている。
俺はリレーナをその場に残し、扉の中へと入っていった。未だ蠢くイゴーヤの塊は、俺を待っていてくれたみたいだ。
「よっしゃ!それじゃあ、素材の採取を始めるか!」
中型のハンマーを取り出し、ニヤッと口角を上げた。
今回小さめなハンマーを選んだ理由は、イゴーヤの体を傷付けない様に、頭だけを潰して倒す為だった。あまり大きなハンマーだと、頭と一緒に、体も潰してしまう可能性が高いからだ。
イゴーヤの塊をバラしながら、頭を潰して倒して行く。倒したイゴーヤは、次々と空間に仕舞っていった。
イゴーヤを五十匹ほど空間に叩き込んだ頃、イゴーヤの塊の中心が見えてきた。それを見た俺は、あれ?っと首を傾げた。
塊の中心で蠢いているイゴーヤがなんだかおかしい。イゴーヤと同じ漆黒の体をしているが、体に凹凸が無いのだ。
試しに一匹、捕まえてみると、手触り的には多少ザラッとした皮膚をしているが、凹凸は全く感じられないイゴーヤだった。簡単に言うと、少々ザラッとした皮膚を持つ、大きいだけの蛇だ。
「なんでこいつ、凹凸がないんだ?」
よく分からないので、調べてみる事にする。
「工房魔法『物体鑑定』」
ブワッと素材を包み込んだ俺の魔力は、見知らぬ魔物の情報を俺に伝える。
「Fランクのイゴール?」
どうやらイゴーヤでは無いらしい。イゴーヤはEランクなので、Fランクと言うとイゴーヤよりも格下となる。そこから導き出される答えは……。
「あっ!イゴーヤの子供で、進化前の奴なんだな!」
ゲームでは、イゴールと言う魔物は出てこなかった。あまりにもランクが低すぎて、省かれたのかもしれない。
でも、こんな素材が有るのなら、もっと早く知らせて欲しかった。
「イゴールも、ガンガンに採取だ!!」
そこからまた一気に速度を上げると、イゴールとイゴーヤを採取しまくったのだった。
◇◆◇
満足のいく素材の採取が終わり、俺とリレーナは遺跡の中を出口に向かって歩いていた。
俺の空間収納の中には、沢山の数のイゴールとイゴーヤが収納されている。これで作りたかった物が作れると、俺はホックホクだ。
遺跡を出口に向かって歩いていた俺達は、今日はこの辺で休むかと、通路の脇で野宿の支度を始めた。
簡易的な竈を作って肉を焼き、二人で肉を食べながら談笑する。話題は、この遺跡の攻略の事。二人しかいないのに、かなり盛り上がりを見せた。
食事も終わり、俺達は火を取り囲む様にゴロリと寝転がった。瞳を閉じた俺の頭には、村に帰ってから作ろうと思っている物の設計図が、チラチラしている。
(あそこは……確かこうだろ?でも、あれは……。あっ、確かこんな感じか?……うーん。あっ!そうだ。間違いない。これで合ってる。なんとか出来そうだ)
頭の中で、設計図が完成した。カイト達を見ていて作ってあげたいと思っていた物。どうやら今ある素材でなんとかなりそうだ。
カイト達にサプライズでプレゼントしたら、きっと喜んでくれる。彼らが喜んでいる姿を想像すると、思わず顔が緩んでニヤけてきてしまった。
「あ、あの、ホダカさん。まだ起きていますか?」
リレーナに声を掛けられドキッとした俺は、慌ててニヤけた顔を引き締め、返事を返した。
「うん。まだ起きているけど?」
「あの……。この遺跡から出た後、ホダカさんはどうするんですか?」
「俺?俺は村に帰るつもりだ。欲しかった素材が集まったからな」
「……そ、そうですか」
少し元気の無い声だった。どうしたのかと思ったが、リレーナからの質問はそこで途切れた。気になった俺は、体を起こしてみる。
リレーナは顔を埋めた毛布を、キュッと強く握っていた。
「どうかしたのか?」
「いいえ。なんでもありません」
「そっか……。そう言えば、リレーナはこの後どうするつもりなんだ?」
俺が質問すると、リレーナは毛布から顔を出した。そしてゆっくりと体を起こす。その顔は、やはり暗かった。
「私は……特に決まっていなくて……」
「ああ。そうなのか」
暫く考え込んだ俺は、パッとひらめきを見せる。
「そうだ。予定がないなら、俺の村に一緒に来るか?」
「でも、それは……」
「あっ、ごめん。別に無理に来てくれって言ってる訳じゃなくて……」
「いいえ、違うんです!私も行きたいとは思うのですが、ドワーフの国にエルフは行けないので……」
リレーナはシュンッと落ち込みを見せた。そう言えば、すっかり忘れていた。
俺がドワーフとして生まれるずっとずっと前から、ドワーフとエルフは仲が悪い。何故かは分からないけれど、お互いに嫌っていて、近付く事すら嫌悪しているくらいだ。どちらも他種族嫌いではあるが、その中でもダントツにお互い嫌い合っている。
勿論、長い年月をかけて和解したり、愛し合ったりした者達もいるにはいるが、数は多く無い。
「それもそうだな……。俺の村は、ドワーフがあと二人いるし、人間も居るからなぁ」
「えっ?人間がいるんですか?」
「ああ。人間の子供達が居るんだ」
「ドワンライト王国にですか?」
「いや、違う。土地はドワンライト王国の領土の一部だけど、そこは俺が作った俺の村なんだ」
「ホダカさんが作った村?」
よく分からないと、首を傾げるリレーナに、俺はここに来るまでの事を簡単に話して聞かせた。
旅をしている時に、孤児の子供達に出会った事。彼らの為に、村を作ることにした事。たまたま人間の国王からドワーフが貰った土地があったので、そこに村を建設して一緒に住んでいる事を説明した。
「みんなで仲良く協力して生活している村かぁ。とっても素敵ですね!……私が行っても、大丈夫でしょうか」
「ああ、俺の村だから歓迎するよ。ただ、ドワーフが二人いるから、慣れるまでは少し嫌な思いをさせてしまうかもしれない」
「そんなの全然大丈夫です!頑張ります!」
リレーナは、胸の前で両手の拳を握って気合いを入れてみせた。まあ、そこまで言うのなら、特に俺が反対する事はない。
「それじゃあ、一緒に行こう」
「はい!……よかった。ホダカさんと、もっと一緒にいたいと思っていたので」
「えっ?」
「あっ!」
驚いた俺が顔を向けると、リレーナは口元を押さえてサッと下を向いた。その顔は赤みを帯びている。
これはかなり鈍感な俺でも分かるくらい、ハッキリとした好意だ。
(も、もしかして、リレーナは俺の事……)
チラチラとリレーナを見る俺の瞳と、オズオズと上げたリレーナの瞳が、空中で重なり合う。カァッと赤く熱を持った顔で、俺達は見つめ合った。
本当は、一つ目の◇◆◇の印までは、昨日のアップで一緒に載る筈の文でした。
それがなぜか抜けてしまっており、今回のとあわせて載せた為、文字数が多くなってしまいました。
すみません、気を付けます。




