5.選定の儀、勝敗
このハーフアーマーの凄い点は幾つかある。
まず色だが、その辺にある様なただの白色では無く、出す事が難しいとされる美しく輝きを放つ純白色をしている。
そして重さは5.6キロと軽く、防御力は12000も有って、このアーマーだけでも、ドラゴンの爪の一撃を防げる強度を持っている。
ミスリルなどの高価な材料を使って作れば、この程度の防御力は当たり前だと言える。だが俺は、鉄鉱石を60%という制約を守った上で、この数値を叩き出した。
こんなに素晴らしいハーフアーマーを、他の奴がそう簡単に作る事なんて出来ない、と言う絶対的な自信がある。
このアーマーの価値は、かなり高い。傍聴席の前の方に座る純ドワーフ達の瞳がそれを証明している。
「鉄鉱石60%で、この強度か!」
「それに見てみろ、あの美しい白色を!あんな美しい色が出せるだなんて!」
「材料はなんだ?少量混ぜられた物は、詳細鑑定でも出て来やしない。もっと細かい配分を教えてくれ!」
「クッソ!まだ五十年しか生きていない若者が、あんな素晴らしい物を作れるのか!流石、グラフォイド家の跡取りだけあるな」
沢山の賞賛の声が上がり続ける中で、俺は親父の顔へと視線を移した。俺の師でも有る親父は、ジッとハーフアーマーを見つめていた。
俺が親父を見ている事に気が付くと、グッと拳を握り、大きく頷きを落とした。その瞳には薄ら光るものが見えた気がする。
嬉しかった。今までずっと、親父に褒められた事は無かった。いつまで経っても半人前だと、厳しく扱かれ、怒鳴られ、殴られ続けて来た。
何度悔しい思いをしたか分からない程の日々の中で、それでも真っ直ぐに見つめて追い続けた親父の背中。それが今日、ようやく俺が親父と肩を並べられる所にまでやって来たのだと証明されたのだ。
俺の目にも浮かんで来た熱い涙を、慌てて腕で拭い去り、俺は壇上へと視線を向けた。
ザリュードワとネリュードワも、とても良い笑顔で大きく頷きを落とし合っている。賞賛に溢れた会場内が、この戦いの勝敗を示していた。
「これは決まったな」
壇上に座る第一王子ザリュードワがポツリと告げると、視線を向けられたサリューネはコクリと頷きを落とした。
サリューネが立ち上がると、それまで騒ついていた会場内が、ピタリとそれを止めた。壇上の真ん中へと歩みを進めたサリューネは、前を見つめた。
「両者とも素晴らしい戦いでした。このサリューネ。二人の素晴らしい戦いの健闘を讃えます」
彼女の言葉に、周囲から割れんばかりの拍手が沸き起こる。その中で、俺とカヌバムは頭を下げた。
ぴたりと拍手が止み、再び部屋に静寂が広がる。頭を下げたままの姿勢で、俺達は彼女から告げられる次の言葉を待った。
「この勝負……カヌバムの勝利とします」
「「……えっ?」」
会場内に居るドワーフ達と壇上の二人の王子、そして誰よりも、勝利を信じて疑わなかった俺が、呆気に取られた言葉をほぼ同時に発した。
何かの聞き間違いかと、俺は宰相に瞳を向ける。戸惑いを見せた宰相が、俺の瞳を受け、慌てて姫へと顔を向けた。
「王女サリューネ。確認させて頂いてもよろしいでしょうか。勝者は……」
「カヌバムです。あの素敵な青色と美しい装飾。どこを取っても、とても素敵な物だと思います」
「えっと……。それは……」
額に溢れる汗をそのままに、宰相は姫の後ろに座る二人の王子に視線を移した。彼ら二人も動揺を隠せない。
「サリューネ。自分の発言が、本当に分かっているのか?これは選定の儀なんだぞ?」
「ええ、分かっています。カヌバムの方がとても綺麗ですもの。彼の勝利に間違いないです」
「ちょっと待つんだ。どう見ても、ドラグスのアーマーの方が優れているじゃ無いか」
「確かに白色は綺麗だけど、シンプル過ぎて私は好きではありません」
「これは、好き嫌いで決めるものじゃない。いかに優れているかで決める物で……」
「だから決めたじゃ無いですか!カヌバムのアーマーの方が優れています!お兄様達は、この選定の儀の勝敗は私に委ねて下さると約束したではありませんか。それなのに、文句をつけるのですか?」
「それは確かに昨日、そう約束したが……」
二人の王子は顔を見合わせ、言葉を失っていく。それを見届けたサリューネは、もう一度振り返り、前を見つめた。
「この勝負は、カヌバムの勝利です。これは、我ら王族の決定となります。分かりましたね」
シーンと静まり返ったままの会場は、未だにこの決定を素直に受け入れられずにいた。