43.遺跡探索の同行者
俺は彼女を安心させる為、自己紹介をする事にした。
「俺の名前はホダカだ。よろしくな」
「私はリレーナと言います。よろしくお願いします」
俺が手を差し出すと、彼女もそっと手を差し出した。
彼女は格好から言って剣士だとは思うが、剣術を学んでいるとは思えない程、滑らかで柔らかい手をしている。俺のゴツゴツした硬い手で握るのは、なんだか少し悪い気がしてしまう。
握手を交わした事で、リレーナはホッとした表情を見せた。そして大きな腹の音を盛大に鳴らす。
「キャアッ!」
慌てて自分のお腹を押さえたリレーナは、顔を真っ赤に染めて俯いた。
「腹が減っているのか?それじゃあ、此処で飯を食べて行こう」
俺は早速、食事の準備に取り掛かった。空間から、薪と鉄板を取り出してバーベキューの支度をする。サッと火を付け、鉄板を温めると、ザンキーラの肉を取り出して、包丁で切って行く。それを鉄板で焼きながら、水の入ったコップと、パンをお皿に置いて手渡した。
「ありがとうございます」
「ああ。食べ物は沢山持っているから、気にしないで食べてくれ」
「はい」
遠慮がちのリレーナの皿に、焼けた肉をドンドンと置いていく。そして、自分の分の肉も沢山焼いていった。山盛りになって行く焼けた肉を見て、リレーナはクスッと可愛い笑顔を見せた。
飯を食いながら彼女が話してくれたのは、あのパーティーメンバーから受けた酷い仕打ちだった。
武闘家の男に襲われて、無理矢理手篭めにされそうになり、逃げ出して身を守った事。所持していたペンダントを取られ、食料を減らされた上で、此処に閉じ込められた事。閉じ込められたこの場所で三日間もの間、死の恐怖と戦いながら一人で過ごしていた事を聞いた。
とても怖かった様で、思い出しながら体を震わせ、ポロポロと泣き続けている。
女の扱いには慣れていないので、どうしてやるのが一番良いのかは分からない。でも何かしてあげなくてはと、隣に座っている彼女の膝に置かれた手をギュッと握った。
ついさっき知り合ったばかりの男から、急に手を握られたら怖かったかもしれない。でも何故か、彼女の手を握る事が最善の方法であると俺は思った。体を震わせていた彼女は、静かに落ち着きを取り戻していく。
彼女が俺の手を振り解く事はなく、逆にキュッと軽く握り返して来た。俺は彼女の涙が止まるまで、ジッと炎を見つめながら時を刻んで行った。
◇◆◇
「よし。それじゃあ、行こう」
「はい」
片付けを終えた俺達は、この部屋から出て行く事にした。
部屋の一番奥にある、何の変哲もない壁。そこに向かって、俺は思いっきり正拳突きを繰り出した。ボコッと外れる様な音がした壁には四角い線が入っていき、その形の壁がゆっくりと内側に開いて行く。開かれた壁を見て、リレーナが目を丸くする。
「こんな所に、隠し通路があったんですね」
「ああ、そうなんだ。さあ行こう。少し経つと閉まってしまうからな」
「はい」
俺とリレーナは、暗闇の中を歩いて行った。少し行くと、フワッと目の前の暗闇が明るくなり、遺跡の通路に出る。
俺達二人が通路へと出て行くと、先程までの隠し通路はスッと姿を消して、壁だけが残った。
「こんな風に、外に出られるんですね」
「ああ。隠し通路は結構あるんだ。でも、この遺跡には大した物は無いから、皆んなそこまで調べないんだよな」
ゲームの世界でも、この遺跡に俺ほど執着して調べ回った奴は居ないだろう。現実であるこの世界で、勇者の宇波原さんが何を考えて、ここまで遺跡を調べ尽くしたのかは分からない。まあ多分、マップの関係なさそうな所を隅々まで調べたがる、俺と同じ種類の人間だったんだろうなぁとか思う。
クスクスと笑った俺は、通路を歩き始めた。彼女もゆっくりと俺の後を追う。
男と女が歩く時、コンパスの差が問題になるのだが、俺達の場合は、俺の歩幅の方が小さいと言う残念な結果になった。彼女が俺に合わせてゆっくり歩くので、男のプライドが、少し傷付いた。
他愛の無い話をしながら歩き続けた俺達は、分かれ道に差し掛かった。右に行けば出口、左に行けば遺跡の深部へと行ける。
「此処まで来れば、帰れるだろ?俺はもう少し、この遺跡を探検して行くつもりなんだ」
「はい。あ、あのホダカさん……」
「うん?」
「……いいえ。あっ。ありがとうございました。とても助かりました」
「ああ。気にしないでくれ。それじゃあ、ここで。元気でな」
「は、はい。ホダカさんもお元気で」
別れを告げ合った俺達は、別々の道へと進んで行った。
また一人に戻った俺は、今度こそ聖王石をゲットしたいと、隠しダンジョンの入り口を目指し始める。テクテクと歩いていた俺は、後ろから聞こえた足音に、その足を止めて振り返った。後ろから走って来ていたのはリレーナだった。
「どうした?何かあったのか?」
「あの。もし良かったら、私も同行させて頂けませんか?」
「えっ?隠しダンジョンに?」
「はい。食べ物を持っていないので、ホダカさんのご迷惑になると思って言えなかったのですが、此処で別れたらもう二度と会えない様な気がして……。それで……」
そう言うと、彼女は俯いてしまう。実は俺も彼女と別れてから、なんとなく後ろ髪を引かれる思いをしていた。だから、後を追って来てくれた事は、素直に少し嬉しかった。
「じゃ、じゃあ。もう少しの間、一緒に探索をしようか。食事なら俺が持っているし、もしもの時用に、干し肉も渡せるし……」
「はい!よろしくお願いします」
にっこりと明るくて可愛い笑顔を見せたリレーナに、俺の顔が仄かに熱を持った。
照れ隠しに前を向き、そして歩き始める。続いて歩き始めた彼女の気配が、とても嬉しく感じた。




