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41.嵌められたリレーナ

「おい、昼メシは?」


 ウォルターがリレーナの顔を見る。リレーナは呆れ顔を返した。


「私の食糧は、もう有りません。ずっと私ばかりが、食事の支度をしてきましたから……。今日からは他の人に、お願いします」

「……分かったよ!おい、メリア。飯の支度をしろよ」

「はぁーい」


 メリアは自分の空間から、食材を取り出しながら準備をし始めた。

 遺跡に入って三日が経った。フォーテルムは一向に現れず、ずっと遺跡の探索をする日々を過ごしている。入り口で会った男性の影もなく、もう帰ってしまったのでは無いかと、諦めムードが漂っていた。


 食事として出されたパンを齧るリレーナは、チラリと視線を上げる。目があったガンスは、ギッと睨みつけて来た。


 昨日の就寝時。闇に乗じて、ガンスがリレーナを襲った。彼らに対して隙を作らない様に警戒していた事が功を奏し、リレーナは彼から逃げ出し、完全な防御態勢に入った。例え自分より格上の腕前を持っている人だとしても、完全に防御態勢に入ったリレーナ相手に、手を出す事は困難を極める。


 ガンスが諦めを見せたことにより、その身を守る事に成功した。だがあれからずっと、ガンスに恨みを持たれてしまっている。


 手元のコップへと視線を移したリレーナは、この遺跡の地図を思い出していた。


(これ以上、この人達とはいたくない。今日は出口の近くまで行く事になるし、そのまま一人で遺跡から出ていこう)


 まだ冒険者として未熟なリレーナにとって、慣れていない遺跡の中を一人で歩く行為は危険を伴うものだった。この遺跡の中は、沢山の敵や自分と同等以上の敵が出現する場所だからだ。

 一刻も早く側を離れたいパーティーではあるが、グッと我慢して行動を共にし続けた。


 此処から三時間程歩いた所に、深部へと続く道と出口へと続く道に分かれる場所がある。彼らは深部へと行く予定だが、リレーナはそこで出口へと向かう事に決めていた。


 食事を終えて歩き始めたパーティーは、襲って来る敵を順調に倒しながら歩き続けていく。

 このパーティーの主力は冒険者ランクBのウォルターだ。ガンスもBランクに近い力の持ち主だが、ランク試験に受からないのだとか。年々上がっていく資格試験のランクを考えても、暫くはCランク維持となりそうだ。


 彼らのレベルからすると、この遺跡に現れる敵は問題ではない。だが、遺跡に入る人が少なくなったからか、やけに敵の数が多い。皆が疲れて来た所で、アンネがリレーナに歩み寄った。


「リレーナ。此処のエリアを抜けるまで、神紅(しんく)の祈りを貸して貰えない?魔物の数が多くて、少し辛いの」

「……分かりました。この先にある広間を過ぎたら返して下さいね」

「うん、ありがとう。助かるわ」


 リレーナは空間から、神紅の祈りと呼ばれる真っ赤な石の付いたペンダントを取り出して、アンネに手渡した。

 これはリレーナが旅をしていた時に入手した★6のレアアイテムだ。これを付けていると、魔力消費が10%抑えられ、魔力の自然回復速度が20%上がる。

 魔法を得意とするアンネの攻撃は、魔力消費が激しい為、ペンダントを貸して欲しいとちょくちょく頼まれる事があった。


 ペンダントをはめて、魔力回復をし始めたアンネは、ウォルターの側へと歩いて行った。ウォルターの腕をとったアンネは、ニッと口角を上げる。それを見たウォルターも、小さく口角を上げてそれに応えた。


 それから三十分程歩いた所で、パーティーは大きな部屋へと入って行った。この部屋には、北と南に通路へと繋がる扉。西と東には、二つずつ、四つの部屋へと続く扉がある。


「ガンス。お前は一番の部屋。俺とアンネは二番。リレーナが三番で、メリアとエジーナが四番の部屋を調べてくれ」

「「分かった」」


 其々が言われた部屋へと入って行く。三番の部屋へと入ったリレーナは、注意深く部屋の中を見て回る。その時ふと、入り口の方から人の気配を感じて振り返った。

 入り口の扉には、パーティーメンバーの五人が立っていた。


「他の部屋の探索は、終わったのですか?」


 歩み寄って行こうとしたリレーナは、ハッとすると立ち止まった。ニヤニヤとした嫌な笑みを浮かべる彼らに、何か嫌な予感がする。


「残念だけど、君とは此処でお別れだ」

「えっ?それはどう言う意味ですか?」

「チャンスなら何回かあげた筈だ。でも君は馴染もうとしないし、昨日もガンスを拒んだ。そう言う女は、このパーティーに必要ない」

「それが理由なのですか?ふざけないで下さい」

「ふざけてなんていないさ。俺達はいたって真面目だ」

「……分かりました。丁度よかったです。実は私も、今日貴方達とは別れて遺跡から出るつもりだったのです。アンネ、ペンダントを返して下さい」


 手を差し出したリレーナに、アンネがクスリと笑みを返す。


「嫌よ。返す気なんて無いわ」

「なっ!それはどういう事ですか?」

「私がずっとこのペンダントが欲しいって言ってたのに、貴女は頼んでもくれなかった。本当にケチなんだから」

「私も、剣術が使えなくなった時には、そのペンダントが必要になるのです。ですから、差し上げる事は出来ません」

「そうね。でも、もう貴女には必要無くなるから、私が貰うことにしたの」

「それは、どう言う意味ですか?」

「こう言う意味だよ!」


 アンネの前に一歩出て叫んだガンスは、手に持っていた石を部屋の中に向かって投げ込んだ。真っ直ぐに飛んで行った拳ほどの石は、部屋の中央にある石像に当たった。


「えっ?」


 意味が分からずに茫然としていたリレーナの目の前で、この部屋の扉が閉まり始めた。それを見たリレーナは、慌てて出口に向かって走り出したが、時すでに遅し。部屋の扉は、あっという間に閉じてしまった。


「何のつもりですか?開けて下さい。此処から出して下さい」


 扉を叩いて叫ぶリレーナの耳に、彼らの声が届いた。


「お別れだって言っただろ?この扉は中央の石像に触れると扉が閉まり、外から開けないと絶対に開かなくなる」

「此処の遺跡は、二年間封鎖されるからな。お前を助けてくれる奴なんて、誰もいないんだよ。素直に俺の女になっておけば良かったのにな」

「本当に残念ね。大人しく言うことを聞いてさえいれば、ここまでしなかったのよ?このペンダントは貴女の遺品として、私が大切に使わせて貰うわね」

「それじゃあ。さようなら、リレーナ」

「もう会う事はないね。貴女の匂いは直ぐに忘れられそう」


 笑い合う彼らの声が、段々と遠のいて行く。リレーナは、扉を目一杯叩きながら叫び続けた。


「開けて!お願い、此処を開けて下さい。そのペンダントなら差し上げます。だから、お願いします。戻って来て!」


 いくら叫んでも、彼らは戻って来てはくれなかった。

 思えば、この遺跡に入る前からどことなく彼らの様子が変だった。自分達に馴染まないリレーナをどうするかと決めかねていたに違いない。昨日、リレーナがガンスを拒んだ事が決め手となり、リレーナの処分が彼らの中で決まったのだろう。


 この遺跡に来てから、リレーナにばかり食事の用意をさせていた事も、取り敢えず手持ちの食料を減らさせて、様子を見ていたのかもしれない。排除する事が決まったのなら、この遺跡ほど好都合な場所はない。用意周到に仕組まれたものだった。


「お願い……助けて」


 リレーナは扉の前に崩れ落ち、そして大粒の涙を流した。

 この部屋には不思議な力が掛かっており、扉を破壊する事はできない。外から開けて貰わない限り、絶対に外には出られない仕様になっている。


 リレーナ達のパーティーがこの遺跡に入った直ぐ後、入り口は兵士達の手によって封鎖された。リレーナ達よりも後から来る人はもう誰もいない。


 先に遺跡に入った人が一人いたが、ウォルター達は、彼が居ないか入念に調べながら、此処までやって来た。すれ違える様な場所は無かったのだから、彼は此処よりも先にいる。

 この部屋から生きて出られる可能性はゼロに等しかった。


「嫌……。死にたく無い。誰か、助けて下さい!誰か!……お願い。ウォルター!ガンス!お願い、戻って来て下さい。お願い、誰か助けてぇ!!!」


 泣き叫ぶリレーナの声は、誰にも届く事は無い。閉じ込められた部屋の中で、虚しく響き渡り、そして消えていった。


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