4.王女サリューネ
「それでは次、左方、第一血統ドラグス・グラフォイド。前へ!」
「はい」
俺は、自身の作品の前へと歩いていく。俺に歩み寄った宰相が、言葉を続けた。
「それでは選定前に、その資格がある事を確認する。第一血統ドラグス・グラフォイド、ドワーフの証を示せ」
「はい」
俺は元々袖無しの服を着ていたので、そのままグッと腕に力を入れて見せた。真っ赤に染まった第一紋章が、左腕に浮かび上がる。
まあ、元々婚約者に選ばれるくらいなので、紋章は間違いなく第一紋章を持っている。周りもよく知っているので、確認もサラリとしていた。
宰相はチラッとみただけで、直ぐに王子へと視線を移す。
「第一血統の紋、確認致しました。この者の選定をご許可頂けますか?」
「許可しよう」
速攻で返事が返って来た。
第一王子のザリュードワと第二王子のネリュードワと俺は、幼き頃から遊んでいた仲なので、改めて確認する必要なんて無かった様だ。見ているんだか見ていないんだか分からないうちに許可が出た。
まあ、アイツらの気持ちは分かっている。紋章の確認なんてどうでも良いから、早くお前の作った最高傑作を見せろ!と言う事なんだろう。前のめりになって俺の箱を見つめている。
「それでは、箱を開封せよ」
「はい!」
待ち侘びたと言わんばかりの宰相の声に、俺もついつい声が大きくなる。箱に手をかけ、開こうとした俺は、ふと壇上のザリュードワの右側に座るサリューネを見た。
彼女は全く興味のなさそうな顔で、欠伸なんかしている。一体誰の為に命を込めて作ったと思っているのか。
まあ、そんなことを言っても仕方がない。女の子が産まれ難いドワーフの中で産まれ、しかも王女として生まれてきたサリューネは、誰からもとても愛され、滅茶苦茶甘やかされて育ってきた。
女の子だからなのか、鍛冶や物作りにあまり興味は無いらしく、ここ数年は他国で開かれるパーティーに出席する事がお気に入りらしい。他国でもドワーフの姫という事でとても可愛がられ、大切にされているのだとか。
彼女が楽しんでいるのならそれは別に良いのだが、俺はとても迷惑をかけられていた。
パーティーに参加するのに、やれネックレスを作れだの、ブローチが欲しいだの、イヤリングを早く作ってくれだのと、何度も何度も頼まれ、それに何度となく応えて来た。本来ならアクセサリーなどと言うものは、第一血統の俺が作るべき物では無いのだが、婚約者の頼みだからと、仕方無く作成してきた。
ただ、パーティーに一緒に出席してくれと、招待状を何回か持って来ることがあったのだが、それだけはどうしても無理だった。
ドワンライト王国の法律の中で、王族や第一血統に位置する家の男子は、一生涯、国の外に出てはならないと言う制約があるからだ。
第一血統の作る物は、どの国でも高額で取引される。その為、技術や稼ぎ頭を失いたく無いという国の事情から出来た法律となっている。ただ、それがこの国で問題として提起された事は一度も無い。
元々ドワーフ達は社交性が皆無なので、他種族と関わり合いを持ちたいとは思わないし、国から出たいとは思わないからだ。
こんな事情もあり、姫からの要請を全て断り続けて来たのだが、最近では姫がふて腐ってしまって口もきいてくれない。まあ今回、正式に結婚が決まったら、姫がお世話になっている他国へと俺も一緒に行き、挨拶回りをする許可が出ているので、それでなんとか機嫌を直して貰いたいと思っている。
一息ついた俺は、目の前にある箱の蓋を持ち上げた。姿を現したのは、俺の最高傑作、艶光りする白色のハーフアーマーだ。
その美しい姿に、会場内からオオォ!!と言う響めきが上がった。