39.彼の通った道
遺跡の中へと入った俺は、ふと後ろを振り返ってみた。
そこには、兵士達に止められて説明を受けている先ほどの嫌なパーティーがいる。やはり彼らも、この遺跡の探索へと行くつもりの様だ。
(チッ。面倒だな……)
この時間差で遺跡の探索に行くとなると、ちょいちょいアイツらと遭遇してしまう可能性が高い。その度に嫌な気持ちになってしまいそうだ。折角の聖地巡礼、初の遺跡探索だ。何も気にせず、心の底から楽しみたかった。
俺は遺跡の道の角を曲がると、スキルを発動させた。
「超高速スキル発動!」
フワッと熱を持った紋章が発動を示す。走る速度を上げ、二日分の距離を一気に駆け抜けて行く。
手前の方の遺跡探索ができなくなるのはとても勿体ないのだが、いかんせんアイツらとは関わり合いたくない。かなりの距離を取った所で、お楽しみの探索に入ることにした。
今回、此処に来た目的は、出来たらイゴーヤを百匹以上採取。それと、地図には載っていない、隠しダンジョンの確認と侵入。隠しダンジョンの奥にある、聖王石の結晶の採取だ。
イゴーヤはかなりマイナーな魔物の為、どれくらいの数が生息しているのか分からない。取り敢えず、取れるだけ取って帰りたいと思っている。
聖王石の結晶はオマケではあるが、せっかく此処まで来たのだから、出来たら採取して帰りたい。俺が採取した石のコレクションの一つにしたい物だ。
イゴーヤはこの遺跡の深部に近い所に生息しているので、先に近くにある隠しダンジョンへと行ってみたいと思う。
初めてのダンジョンに、心を躍らせていた俺は、辺りをキョロキョロと見回しながら歩いて行く。
「此処はこんなふうになっていたんだな……」
画面でしか見る事がなかった神殿内部に、感動を覚える。まるで海外にある観光名所に来たような気分だ。写真を撮れないのがとても残念だが、記憶を焼き付けて行くことにしよう。
新鮮な気持ちで歩き続けていた俺だったが、次第に別の気持ちも湧き上がって来ていた。
蝋燭の火とは違う不思議な明かりが灯る通路を、俺は一人歩いている。辺りは、シーンと静まり返り、人の気配は全くしない。
無機質な石床を歩く度に響くコツコツと鳴る音は、俺の心に物悲しさを与えた。ゲームでは感じる事のなかった不気味さと孤独感が、これが現実なのだと俺に知らしめる。
日本人の記憶があるからだろうか。一人しかいない寂しさと、魔物が何処から襲ってくるか分からない緊張感が、少し辛い。まるで初めて来た海外の治安の悪い地域を、一人で歩いている気分だ。
閉ざされた閉鎖的な空間から来る圧迫感に負けないよう、気をしっかりと持ち直し、隠しダンジョンの入り口に向かって、ひたすら通路を歩いて行った。
不安ながらにもトコトコと歩いていたが、通路を曲がってからは状況が一変した。ダンジョン内の敵との遭遇だ。
襲って来る敵はやはり弱い。Eランクが主で、たまにDランクがポロッと出て来たりする。倒す事については問題無いが、少し遭遇率が高いので、面倒臭さを感じる。だが敵とはいえ、生き物との遭遇のお陰で、俺の心に渦巻いていた恐怖心が和らいだ。
敵をバッサバッサと倒し、道を順調に進んで行くと、急に道が開けて小さな部屋になった。両脇には石像が並び立つ。俺が歩いていた通路は、この部屋を突き抜け、その先にまで続いて行く。
これはゲームでもよくある、この石像には何かあるのでは無いだろうかと思わせる為の、ダミーの部屋だ。此処の石像を調べまくったとしても、何も出て来やしない。そしてこの先にも三部屋ほど、全く同じ部屋が現れるのだった。
先ほどの部屋から数えて三つ目の部屋を出た後の通路の右側の壁に、まず一つ目の隠しダンジョンの入り口が隠されている。知らない人なら見落としてしまう、小さな星の印が目印だ。
俺はその小さな星を求めて歩き続ける。三つ目の部屋を出たら直ぐに右の壁へと進み、描かれている星を探す。ようやく見つけた星の辺りの壁を押すと、フワッと壁が消えて、その先に通路が現れる。俺がその中へと入ると、壁は再び姿を現し、入り口は閉じてしまった。
「よし!早速、隠しダンジョンの攻略を開始するぞ!」
俺は元気よく走り始めた。
日本人だった頃、何度も来て調べた隠しダンジョンだ。隅から隅まで行き尽くした、思い出のダンジョン。落とし穴や、魔物の出現トラップ。どれもこれも、懐かしい。勿論、多少違う所もあったが、それを見つけるのもこの探索の醍醐味だ。
「おっと。あれ、此処は行き止まりか。あっ、あっちに道がある。ん?あれはなんだ?あっ、あのトラップか!」
俺は貰った地図に、チョコチョコと書き込みをして行く。俺の記憶の中の地図と実際の地図の違いは、家に帰ってからの良い思い出となるだろう。
俺の頭の中の地図は、細かい違いはチョコチョコとあるが、聖王石のある場所までの道筋は、正しく描かれている様だ。
宇波原さんはきっと、聖王石の結晶を何回か取りに行ったんだと思う。
聖王石の結晶は、他所で取れる聖女石の結晶と一緒に特別な加工をする事で、聖神石と言うかなり強力な神力を宿した物質へと変化させる事ができる。それを加工して身につける事で、神官並みの神力を身に宿す事ができる様になる。
だがその加工は、第一血統のドワーフでなければ上手くできないと言う、難易度の高い貴重な物となる。
ゲームの時は、一人のドワーフと出会い、彼との親密度を上げる事で、それが可能となった。きっと、勇者だった宇波原さんの経験からだったんだろうなと思う。
素材集めや加工に、とても手間暇がかかるのが特徴ではあるが、魔王との最終決戦で、全員にこの聖神石を使ったペンダントを装着させて戦うと、自身の攻撃に神力が自動的に乗り、かなり優位に戦う事が出来る。
そして魔王の撃破後は、神界への道が開かれると言う、特別バージョンの物語が展開される事もあり、全攻略を求める廃人にとっては、欠かす事のできないアイテムとなっている。
ただ……。聖女石の入手は、難易度の高い迷宮と、かなり手強い敵が問題となるのだが、聖王石の入手では、とにかく面倒臭いダンジョンの仕掛けや罠が問題となる。
ちょっとしたミスや失敗で、直ぐに隠しダンジョンから追い出されてしまい、慣れている人でも、何度も何度もチャレンジしなければならなかった。廃人レベルでやり込んでいた俺でも、画面越しに何度心が挫けそうになったか分からないくらい、面倒臭いのだ。
「うわっ!とうとう、この仕掛けまで来たか……」
俺は目の前に広がる、動く床を見つめた。
タイミングを間違えたらアウトな動く床。ピョンピョンとジャンプして進みながら、目的の扉が乗っている床を目指すアレだ。画面とは違い、現実では全体の動きが見えないので、難易度が高くなっている様に思える。
目の前で動く、最初の三つの床をジッと見ていた俺は、大きく頷きを落とした。
「やっぱりそうだ。タイミングは、ゲームと殆ど一緒だ。流石は勇者、宇波原さんだ!」
数百年前、憧れの宇波原さんが勇者として進んだ道。此処を行かずして、ファンを名乗る資格は無い。
「よし!いくぞ!!」
気合いを入れ直した俺は、最初の動く床へと飛び乗るのだった。




