34.予告ホームラン
雲一つない青空の下、広い草原が広がる敷地に、俺は立っていた。此処は畑などの土地の隣にある二番の土地で、現在倉庫となっている体育館だけがある場所だ。
俺は少し離れた場所に立つランフォルトと向き合っていた。今から、男の戦いが始まろうとしている。
「準備は良いか?ランフォルト」
「ええ。いつでも大丈夫です、若」
キッと真剣な表情を見せたランフォルトは、クルリと後ろを振り向き、西の方角にある大きな森を見つめた。
俺は収納空間から、俺の最強武器である大きなドワーフハンマーを取り出した。太陽の光を浴びて美しいプラチナ色に輝く大ハンマーを、肩に背負い準備を終える。
森の方角の空を見上げていたランフォルトが、ニヤッと口角を上げて体を返した。そして目の前に立つ俺を見る。
「そろそろいきますよ、若」
「おう!いつでも来い!」
俺は大ハンマーの柄をぎゅっと握った。
その時、突如として、俺の記憶の中にある整備された野球場の幻影が目の前に広がった。日本人の子供だった頃にやっていた、少年野球の思い出の試合だ。
「九回の裏。ツーアウト満塁……」
小さく呟いた俺は、遠くの空を見つめた。
九回の裏でニ点差、ツーアウト満塁だなんて、まさしく一発逆転のチャンスだ。
しかしあの頃の俺は、これはチャンスだと喜ぶ気持ちよりも、アウトになったらどうしようかと言う恐怖心の方が強かった。結局、内野ゴロに打ち取られてしまい、俺の心の傷として残った、暗い記憶。
だが、今の俺は違う。
見かけよりは軽い大ハンマーを左手で持ち、空の一点を指し示す。
「俺は、ヒーローになる!」
あの頃の傷を埋めるかの如く、完全に自分の世界に浸りながら予告ホームランを宣言する。
言っている意味が分からず首を傾げ気味にしたランフォルトだったが、足元に置いてあったバスケットボールより大きな岩石を片手で持ち上げた。これは、魔岩石と呼ばれている通常の岩石よりもかなり強度が高い物で、ズッシリとした重さがある。加工するのにも一苦労する特別な材料だ。
その重さを確認したランフォルトは、俺を見る。岩石を持った手を大きく振りかぶりながら、片足を上げた。
「そぉれぇぇ!!!」
ランフォルトが力一杯投げた岩石は、物凄い速度で飛んで来る。俺の瞳が岩石を追い、絶妙なタイミングを知らせた。
「もらったぁあぁぁぁ!!」
両手で持った大ハンマーを大きく振る。
ガギーン!!っと大きな音を立てた岩石は、砕け散る事なく、一直線に空を飛んでいく。それは村をグルリと囲む壁を軽々と突破していった。
そして、森からこちらの方へと向かって飛んで来ていた魔物、大きな鳥の姿をしたバードンルの顔に直撃する。
「ンギャッ」とひと鳴きしたバードンルは、体を硬直させたまま意識を失い、地面へと落下して行った。
離れた場所でその様子を見ていた子供達が、大きな歓声を上げた。
「すげぇ!!!」
「あれって確か、ホームランって言うんだろ?」
「ホームランだ!!ホームラン!」
「やっぱりホダカは凄え!!」
沢山の子供達の歓声に、俺は上機嫌で振り返った。
「あれは、場外ホームランって言う、特大のホームランだぞ!覚えておけよ。ワッハッハッハッ!」
大ハンマーを空間の中へとしまった俺は、得意げな顔をしながら、腰に手を当てふんぞり返る。子供達は両手を上げて、はしゃぎ喜び回った。
「焼き鳥だ!今日のご飯は、焼き鳥!」
「やったぁ!焼き鳥!!」
今日捕えたバードンルの肉は、柔らかくてとても美味しいので、子供達に大人気だ。実は、鳥の魔物の肉はどれも美味しかったりする。と言う事で、空を飛んで村へと近付いてくる夕飯の材料は、気付き次第撃ち落とすと決めている。
暫くすると、ほぼ即死だった巨大な鳥を、片手で軽々と持ち上げたナーグリアが、村の門から帰って来た。夕飯回収係のご帰還だ。
歩いて来たナーグリアは、先程ランフォルトが立っていた場所に、回収して来た魔岩石を置く。血液による汚れはあるが、破損箇所は見受けられないので、また次回も使えそうだ。
俺の最強武器で俺が繰り出した打撃を受けても、壊れないほどの硬さだ。やはり、加工して何かに使いたいと思ってしまうが、硬すぎて加工がし難い為、なかなか使い道が思い浮かばないのが現状だった。
暫くは鳥型魔物の撃墜用の石として、活躍していて貰う事となりそうだ。




