30.俺の作った村
「ここが若の村なのですね。お一人で此処までお造りになられるとは、流石です。とても自然豊かで素晴らしい」
俺の横を歩くランフォルトは、キョロキョロと村の中を見回している。ここに住み始めてから半年以上の月日が経った事もあり、俺は村の中をかなり整備した。
村の土地は、長方形。長い辺の中央である真南に、頑丈な門を設置した。その門から入ると、馬車でも通れるくらい大きくて真っ直ぐに続く石畳みの道がある。
背丈の低い木々が立ち並ぶこの大きな道を進んで行くと、丁度真ん中辺りに、新たに作った浅井戸を利用した大きな噴水が見えて来る。
この噴水のある場所は、この村の中央に当たり、門から続く大きな道は、この噴水の場所で十字路となる。この十字路こそが、この村の土地を四分割して、住居と農地をキチンと分けている。
門から入って直ぐ左(西側)の土地を1、その上(北西)を2、門から入って直ぐ右(東側)の土地を3、その上(北東)を4として村の説明をする。
まず、門から入って直ぐの左手に広がる1番の土地には、沢山の大きな畑が広がっており、その横では鶏やヤギなどの動物を飼っている。
子供達の栄養面の事を考え、卵や山羊ミルク目当てで飼い始めた動物達だ。とは言え、子供達が世話をしなければならないので、ヤギが三頭に鶏が十羽程度と、かなり小規模ではある。動物達は柵や小屋で区切られた敷地におり、昼間は柵の中で放牧。夜は小屋へと入れるのが子供達の日課だ。
ヤギの三頭は両親とその子供だ。育児を終えたヤギのお母さんはミルクが出なくなったので、彼らの仕事は専ら村の雑草処理となっている。毎日柵から連れ出しては、村の中に生えて来た雑草を食べさせたりしているので、村の中はスッキリとしている。
最初に作った畑を動かす事なく作ったので、村の左側、方角で言う西側が大きな森に面している。子供達の安全の為に、魔物襲撃を想定した強固な壁を作ったのはその為でもある。
ちなみに、噴水から流れ出る水は、側溝を通ってこの畑の近くまで流れていっている。畑の側には俺が作った深井戸もあるが、基本的にはこの流れて行った水を使って、子供達は畑の水やりをしている。
1番の土地より北側にある2番の土地。
此処には、当初皆んなで寝泊まりしていた体育館の様な建物がぽつんと建っている。新しく家を建てた事もあり、今では長期保存が出来る芋などの貯蔵用の倉庫になっている。
2番の土地は、この倉庫以外には特に何も無く、自然公園のような、だだっ広い野原が広がっているだけだ。ヤギの餌には困らないので、何か作りたい物が出来るまでは、このままとなりそうだ。
噴水のある場所まで歩いて来た俺とランフォルトは、そこを右折して東へと向かい、真っ直ぐに歩いて行く。
右折して歩いて行った左手にある4番の土地には、貴族の邸宅のような三階建てのでかい屋敷が建っている。
この大きな家が、皆んなで生活をしている家だ。年齢の高い子達には個室を与え、まだ一人で寝起きできない幼い子達は、大きな部屋で雑魚寝をしている。
屋敷に向かって歩いていた俺は、ふと隣を歩いていたランフォルトがいないことに気がついて後を振り返った。彼は立ち止まり、子供達が遊んでいる所をジッと見ていた。
「どうした?ランフォルト」
「若。あれはなんですか?」
「ん?ああ!あれか。あれは俺が作った遊具だ」
「遊具……」
初めて見る遊具と言うものを、ランフォルトは興味深げに見つめていた。
3番の土地だが、しばらく何も建てる予定がなかったので、ガラーンとしていた。土地を遊ばせておくのは勿体無いので、子供達が遊べる場所を作って提供する事にしたのだ。
俺が作ったのは、ブランコや雲梯、ジャングルジムや滑り台、ターザンロープや吊り橋などがある大型アスレチックだ。
この世界には、日本の公園で遊ぶような遊具は無い。だがドワーフならば、こう言うものだと言う知識さえあれば、簡単に作れる物ばかりだ。巨大なアスレチックを作ったが、それでもまだまだ広い土地が余っているので、これからも増設予定だ。
「あの遊具と言う物は、一体何をするものなのですか?」
「あれに登ったり滑ったりして遊ぶだけだ」
「遊ぶだけ……なのですか?」
「ああ。そうだ」
遊ぶだけの物と言う事が、ランフォルトにとっては不思議で、理解出来ない事らしい。
それもその筈。ドワーフの子供達の玩具と言うと、木材や鉄や鉱石等の材料の事で、遊びといったら、その与えられた物を使って物を作ると言うのが一般的だからだ。嫌々やっているわけではなく、それがドワーフの子供にとっては最高の遊びで、もっと作りたいと言う欲求は年々高まっていくものだからだ。
とは言え、此処にいるのは人間の子供達。素材をあげても、喜ばないのは目に見えている。
毎日、畑仕事を頑張っている子供達に、お楽しみの時間があってもいいだろうと考え、遊具を作ってみた。結果は大好評で、毎日楽しく遊んでいる。
一日中、畑や家畜の世話などのお仕事をしている子供達だが、休憩時間を俺が決めて、その通りに過ごさせている。学校で言う、休み時間な様なものだ。
午前中に2回の休憩で合計一時間。午後はお昼とお昼寝タイムが一時間三十分に、午後の作業時間の一時間半が終わったら、後は自由時間となっている。
大人が俺しかいないこの村では、家は一つで十分だし、自給自足の為の畑は外に売りに行けるほどの収穫量があるので、今の所増やす必要はない。
今はまだ土地が余っているくらいだが、人間の成長はあっという間だ。彼らが大きくなって来た時には、また必要となる物は変わって来るだろう。だから今はまだ、焦って色々作る気はない。子供達には、魔物の襲撃を受けない安全な場所で、伸び伸びと生活していって欲しいと俺は思っている。
ようやく辿り着いた屋敷の中へと入って行った俺は、今は勉強部屋となっている応接室へと向かって行った。そこにいるのは、カイト達を含む年長者の子供達だ。
最初は小さな子供達と一緒に遊具で遊んでいた彼らだったが、年長者のプライドから、遊具を卒業した。そして今では、自由時間を使って、文字の読み書きを俺から習っている。
でも時々、小さな子供達がお昼寝してしまった後などに、みんなでこっそりと外に出て、遊具を使って遊んでいる事を俺は知っている。彼らのプライドを守る為に、見て見ぬ振りをしている事は内緒だ。
一応俺は、ドワーフの中でも最高の教育を受けているので、ドワーフ言語のみならず、異種族間の共通言語もマスターしてある。異種族間の共通言語は人間の言語なので、それの読み書きを教える事は、カイト達にとってもプラスになる。
彼らに混じって八歳のリトや数人の小さな子供達も読み書きを習っているのだが、それは本を読みたいと言う希望からだ。まあ人間だから、外で元気に遊びたい子もいれば、部屋の中でゆっくり本を読んでいたい子もいる。その辺は自由にすれば良いと思っている。
俺は勉強部屋の奥にある、応接スペースを示した。
「ランフォルト。話はあそこで聞く。茶の支度は、あっちだ」
「承知致しました。直ぐにご用意致します」
「ああ。それで、ナーグリア。お前は子供達の、共通言語の勉強を見てやれ。教材は、あっちの本棚にあるのを適当に使え」
「承知致しました、若様」
ランフォルトとナーグリアが側から離れたことを確認した俺は、カイト達へと近づき、小声で話しかけた。
「ドワーフは、他種族に対してあまり良い感情を持ってはいない。俺がいるから滅多な事はないと思うが、もし俺が側にいない時に何かあったとしたら、直ぐにドラグスと言う俺のもう一つの名前を出せ。俺の名前を出されたら、奴らは従うしかない」
「うん。分かった」
俺はそれだけを告げると、応接スペースへと移動して行った。
此処にいる子供達全員が、俺の作った村の住人であると言う認識を持つランフォルト達は、彼らに対して敵対的な行動を見せる事は無いだろう。とは言え、何があるか分からないので、念の為に対処法を教えておいた。




