3.第三血統カヌバム
俺は純ドワーフなので、鍛冶自体はとても大好きだ。しかし、身長が150cmしかないのはあまり好きでは無い。
百歳を越す親父達とは違い、俺はまだ立派な髭が生えていないので、顔は至って普通だ。だが標準的なドワーフの体型、チビポチャな体型をしている。
純ドワーフの体型を受け継いだ事は、誇るべき事なのだが、何故か昔からずっと身長の事だけが気になってしまう。
第三血統達は割と細身で高身長な者が多く、カヌバムも身長168cmもある。第一血統の俺は力や能力がとても優れている為、第三血統が憧れる存在ではあるが、それでも何故か彼の身長が少し羨ましく感じてしまうのだった。
カヌバムの背を、少しイラッとしながら見つめていると、カヌバムの紋章を確認した宰相が王族達の方へと振り返り、確認をする。
「第三血統の紋、確認致しました。この者の選定をご許可頂けますか?」
「ああ。許可しよう」
第一王子ザリュードワの了承を受け、宰相はカヌバムへと視線を戻した。
「それでは、箱を開封せよ」
「はい!」
カヌバムは白い箱の蓋を持ち上げた。
箱の床底と蓋が分かれるタイプの白い箱の中からは、青色をしたハーフアーマーが顔を出した。アーマーには、金や銀を使って美しく細やかな装飾がふんだんに施されている。
見た目にはとても華やかで美しいとは思うのだが……。
俺はドワーフ特有の工房魔法の一つ『物体鑑定』を使った。そして、防具の詳細鑑定をして見る。
使われている材料は、鉄鉱石60%に、艶を出すエリューナ鉱石が15%、青色の着色に青キドラという魔物の皮膚を粉にした物を使用し、それを定着させるルードナ鉱石が5%。装飾の為の金銀、宝石が20%だった。
重さは9.8キロ。防御力は60程度しかなく、剣でひと突きされれば簡単に壊れてしまうレベルだ。
60%の鉄鉱石を使っていながらこの防御力。鉄鉱石の使用量から言っても、最低でも500はいくであろう防御力が、かなり低い。
どうやら装飾を多く施す為に、肝心な部分の鉄を薄くして、その分の鉄も装飾に使用してある様だ。
あれでは、良くて式典などに使用する装飾アーマー。悪くて置き飾りアーマーだ。
お題はハーフアーマーなので、飾り物のハーフアーマーでも問題はない。しかしドワーフが作るハーフアーマーと言ったら、普通は戦闘に特化したハーフアーマーの作成になる。
何から何まで型破りな奴だと言う印象しかない。
壇上にいる王子達は勿論、室内で成り行きを見守っているドワーフ達も、飾りでしか無いアーマーを見て不快感を見せている。
「なんだあれは……」
「見て呉れだけの張りぼてアーマーか?」
「由緒正しき選定の儀に、玩具なんぞ出してくるとは!」
「アクセサリーしか作れない第三血統とは言え、これは酷い出来だ!」
傍聴席に座る第一血統、第二血統のドワーフ達が、一斉に野次を飛ばし始めた。
多少なりともドワーフの血が流れていれば、どんな物でも、普通から良品程度に作る事が出来る。だがそれを、ドワーフ特有の最高レベルで作成するとなると話は別だ。
ドワーフとして評価を受ける事が出来る物の作成は、血統によって異なる。
第四血統は、包丁や鍋などの簡単な日用品くらいの作成しか出来ず、第三血統はアクセサリーなどの装飾品くらいまで。第二血統は、住居や建物の作成となっている。
そして第一血統のみが作成出来るのは、剣や防具などの作成。建物の方が剣や防具よりも難しいのでは?と思うかもしれないが、最高レベルの武器や防具の作成は純ドワーフの力を持っていなければ、その領域に到達する事は不可能だと言われている。
選定の儀のお題は、太古の昔より武器防具の中から一品と決まっている。だからこそ、第三血統が出ると聞いた時、それは難しいのではないかと俺も思っていた。
とは言え、やけに自信ありげな顔で選定の儀に挑んでいたので、それなりの品を作る自信があるのかと思っていたのだが……。
まあ、あれなら特に問題はない。俺は自分のアーマーが入っている白い箱を見つめ、勝利を確信した。